医学界新聞

教えるを学ぶエッセンス

連載 杉森公一

2022.08.29 週刊医学界新聞(看護号):第3483号より

 学びの転機を感じた瞬間を覚えているだろうか。春,初めて足を踏み入れた校舎や教室,まだ折り目のない教科書のページを開いたときのインクの香り――。学習や経験を重ねているただ中ではなく,季節の変わり目が思い出されるかもしれない。これまで見てきた風景が一変する「節目」は,異なる教育段階をつなぎ合わせる「アーティキュレーション(接続)」と呼ばれる1)。高校3年生から大学1年生への変容を意識づけるために,まさに節目にある新入生に対して,教員は授業やカリキュラムをどう工夫すればよいだろうか。

 18歳人口の減少や学生の多様な進学を背景に,「高大接続」の在り方が問われている。近年,中学・高校での学びを大学等の専門教育へ接続することを目的に,教育プログラムとしての「初年次教育(First Year Experience)」が大学で広がっている2)。初年次教育とは,「大学教育,大学生活への円滑な移行を目的とし,学習技能,学習意欲,さらには大学生としての自覚の涵養まで含む,正課・正課外にわたる総合的教育プログラム」とされ,ゼミナール科目を中心に構成される2)。専門教育への導入の側面があることから,看護教育における初年次教育では,学習技能のみにとどまらず,キャリア形成とプロフェッショナル・スキルも科目内で学ぶべき内容として強調される3)

 これまで初年次教育は多岐にわたった教育接続を引き受け,正課の必修単位として算定される過程で,多様な学習活動を内包してきた。しかし,独立したゼミナール科目で多様な学習活動の全てを抱えるのは困難であり,科目の枠組みは限界に差し掛かろうとしている。中学・高校教育の変化により,専門教育と卒後のキャリアの間に求められる適切なアーティキュレーションの在り方が改めて問われている。

 筆者が勤務する北陸大学では,臨床検査学と臨床工学の知識と技術を学ぶことを目的として,2017年に医療保健学部が新設された。本学部の「基礎ゼミナールI・II」の設計は,16年に行われた設置準備室教員・関係職員対象の研修と,就任予定の全教員へのFD研修を通じて行われた4)。研修講師は筆者が担当し,研修参加者に授業設計や学習評価の基礎を解説した。また,授業運営の工夫を伝え,アクティブラーニングを実際に体験してもらい,基礎ゼミナール設計ワークショップを行うことで,担当教員のファシリテーション・スキルの向上と授業設計の指針の共有がなされた。さらに,学習者が自律的に自身の経験や知識をもとに課題解決を行うことを促せるよう到達目標を共有し,設定した。

 現在,大学1年前期で行われている「基礎ゼミナールI」は全15回で,大学1年生約70人が複数の教員と共に,主としてゼミ単位・グループ単位で学び合う。毎回の授業計画は,到達目標・学習活動(授業進行表)・評価方法を一覧化したコマシラバスで教員間に共有される。に本講義の授業計画,各回の主題と学習活動を示す。大学で学ぶ動機付けと仲間づくり(第1回),基本的なスタディ・スキル(第2,5~7回),情報収集と発表技法(第8~10,12~14回),リフレクション(第11,15回)と,授業が進行するにつれて個人活動とグループ活動を行き来しながら,学生が専門教育で学ぶためのリテラシーが育成される。アクティブラーニングとしては,学習管理システム(LMS)へのミニッツペーパー提出とフィードバック,Microsoft TeamsやオンラインホワイトボードMiro上でのポスター共同編集,ポスターツアー,各グループでの学科カリキュラムのコンセプトマップ()の作成などを行う。次第にグループ内での責任感5)や多職種連携に必要な協働力が育成されるように,学習活動が配置されている。

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 北陸大学医療保健学部医療技術学科の「基礎ゼミナールI」授業計画・学習活動
第5,6回の前後に行われる「自然科学概論」では,多岐にわたる学習活動で不足しがちな個人での情報収集や探求を狙いとする。

 さらに,担当教員が複数かかわって共同ファシリテーションを行った上で,科目を水平に横断する科目間連携も試みている。多岐にわたる学習活動で個人での情報収集や探究は不足しがちなため,第5,6回の前後に行われる「自然科学概論」で取り組んでもらう。このように,学生個人の学習の深まりと,グループでの共有・協働を学習活動の両輪として扱うように工夫している。

 大学1年後期「基礎ゼミナールII」でも同様に,「生命・医療倫理学」との科目間連携を図っている。初年次教育におけるゼミナール科目について,その場限りのグループワーク練習にとどめないためには,教員の持つさまざまな視点と専門分野の知識を学習活動に織りこんでいくことが求められよう。「教員学習コミュニティ」の形成6)が,学生同士の協働の映し鏡となっていくのである。

 アーティキュレーションの実現は,高大接続にとどまりません。むしろ変化の激しい社会を医療職として生きていくためには,専門教育接続・社会接続のカリキュラムを再構成することが必要でしょう。初年次教育での経験を一過性のものとしないためにも,私たち教員は,学生が科目を超えて学習経験を深め,協働する礎を築くカリキュラムを模索せねばなりません。

 次回は,反転授業・反転学習について解説する。


:概念と概念を線で結ぶなどして,概念間の関係性を視覚化する技法5)

1)清水一彦.教育における接続論と教育制度改革の原理.教育学研究.2016;83(4):384-97.
2)初年次教育学会(編).進化する初年次教育.世界思想社;2018.
3)前原澄子,他(監).看護学生のためのよくわかる大学での学び方.金芳堂;2014.
4)滝野豊,他.学部新設に伴う就任予定教員の就任前FD研修――大学教育の新たな取り組みについて学ぶ.臨床検査学教育.2018;10(2):250-6.
5)中井俊樹,他(編).看護教育実践シリーズ3――授業方法の基礎.医学書院;2017.
6)杉森公一.ファカルティ・ラーニング・コミュニティの形成――対話型省察的実践のアクションリサーチ.北陸大紀.2022;52:309-19.

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