学習指導案ガイダンス
看護教育を深める授業づくりの基本伝授
学習指導案とワークシートで看護教育の授業力を高めよう
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授業設計に悩む看護教員のための基本教授法ガイド。著者が実際に用いる学習指導案とワークシート(カラー付録)の作成方法とその意義と授業での運用まで詳らかにし、また第一線の教育学研究者の知見からその意義を解説。今後の看護基礎教育で強化が必要になる臨床判断能力の育成などの新しい学習内容への対応も盛り込んだ。学習者を中心とする「主体的・対話的で深い学び」を基盤とし、新時代の看護を教える人に不可欠な1冊。
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- 序文
- 目次
- 書評
- 正誤表
序文
開く
はじめに
令和の時代、文部科学省が進める2020年の教育改革で、わが国の教育体系は大きく変わろうとしています。大学入試共通テストがスタートし、その裾野に広がる各種学校機関に広く影響を及ぼす新しい学習指導要領が本格的に導入されます。
そのキャッチフレーズは、「生きる力――学びの、その先へ」。教える側が「何を教えるか」ではなく、学習者が「何をできるようになるか」が求められる時代です。教育の場では、学習者が「知識」を活用して、自ら考え(思考力・判断力)、表現すること(表現力)が求められるとともに、人や社会との関わりを大切にする態度を培う必要があります。このような資質や能力を身に付けるために、アクティブラーニングをさらに進めた「主体的・対話的で深い学び」を促す教育がいっそう重要になります。
この転換期に、看護基礎教育も確実な一歩を踏み出す必要があります。
看護教員は元来看護職をめざして学校や養成所に入り、資格を取得し看護職として活躍するなかで、さまざまな理由により教育の道に転進します。そんな多くの教員に共通する課題・悩みは、教育に関する基礎的な知識・技術、なかでも授業設計に関することです。2016(平成28)年度に一般社団法人日本看護学校協議会が行った調査(厚生労働省看護職確保対策補助金事業)で、教員になって3年までの新任期にある教員の約8割が「授業設計、授業の実施に困難や負担感を感じている」という結果が明らかになっています。専任教員養成講習会に参加して、看護教育方法論で学習指導案の作成方法をひととおり習っても、その後持ち帰った各々の学校現場で、すぐには思うように書けず、納得のいく授業ができなくて苦慮している実情が筆者たちのもとに多く寄せられています。同時に、中堅・ベテラン期の教員にあっては、時代の変化のなかで様変わりした学生の様子に悩み、また、知識の定着をめざす従来型教育からの脱却に戸惑い、「最近の学生に求められる能力をどう育成するかについて悩んでいる」という声をよく耳にするようになりました。
筆者たちは、看護教育者に向けた第一の入門書として、その現場への理解を深め、その仕事にやりがいを感じて長く教育の場で働いてほしいという願いを込めて、『看護教育へようこそ』を2015年に執筆しました。さらに、最も効果的な授業方法であると実感し、かつその運用についての相談を多数受けてきた臨地実習の指導について、『臨地実習ガイダンス 看護学生が現場で輝く支援のために』を2017年に世に送り出しています。本書は第3弾です。教員にとって悩み深く、困難を感じる課題であることも上述しましたが、しかし、教育のやりがいを最も感じられるのが「授業」です。本書では、看護の授業を構成する3つの要素である「講義・演習・実習」のうち、講義と演習の実際について取り上げました。実地での学習指導案づくりのコツや筆者たちが用いている学習指導案の実例を多く俎上にあげています。そして、中堅・ベテラン期のお悩み解決にもつながることを期待して、ワークシートを活用した筆者たちの方式による反転授業や、協同学習の手法を取り入れたアクティブラーニングの実践を紹介したいと思います。さらに、現在も検討が進行している看護基礎教育の第5次カリキュラム改正で重要度が増すと見なされている科目である、臨床判断能力の土台となる解剖生理学や病態生理学、さらに保健指導論などでの講義の実際を例示しています。
筆者たちが紹介できるのは“経験知”です。その土台に教育学的な見地からスーパーバイズをいただくことで、より多くの方が本書を活用していただけるのではないかと考え、本書は筆者たちの活動に日頃から温かい助言をいただいている東京大学大学院教育学研究科の藤江康彦教授に加わっていただきました。
繁忙な読者の皆さまそれぞれの立場で、皆さまのニーズに応じて活用いただけると、何よりもうれしく思います。
最後に、本書で小児看護学の学習指導案を掲載した(専)京都中央看護保健大学校の元専任教員で、現在大学に活躍の場を移された辻野睦子先生に心からお礼申し上げます。中堅世代である辻野先生の学習指導案や講義資料はその背景に緻密な計画があり、筆者たちも舌を巻くことがありました。すばらしい授業の提供者であり、その一端を紹介しています。そして、書籍シリーズのすべての過程を根気よく見守って支援いただいている編集部の青木大祐さん、制作部の多淵大樹さん、授業イメージの紙上再現のため工夫を凝らされたブックデザイナーの轟木亜紀子さんに裏方として大変お世話になりました。その他、看護教育に関わっていただける多くの方のお力添えで本書が刊行できることになりましたこと、重ねてお礼申し上げます。
令和元年七月
著者代表 池西 靜江
令和の時代、文部科学省が進める2020年の教育改革で、わが国の教育体系は大きく変わろうとしています。大学入試共通テストがスタートし、その裾野に広がる各種学校機関に広く影響を及ぼす新しい学習指導要領が本格的に導入されます。
そのキャッチフレーズは、「生きる力――学びの、その先へ」。教える側が「何を教えるか」ではなく、学習者が「何をできるようになるか」が求められる時代です。教育の場では、学習者が「知識」を活用して、自ら考え(思考力・判断力)、表現すること(表現力)が求められるとともに、人や社会との関わりを大切にする態度を培う必要があります。このような資質や能力を身に付けるために、アクティブラーニングをさらに進めた「主体的・対話的で深い学び」を促す教育がいっそう重要になります。
この転換期に、看護基礎教育も確実な一歩を踏み出す必要があります。
看護教員は元来看護職をめざして学校や養成所に入り、資格を取得し看護職として活躍するなかで、さまざまな理由により教育の道に転進します。そんな多くの教員に共通する課題・悩みは、教育に関する基礎的な知識・技術、なかでも授業設計に関することです。2016(平成28)年度に一般社団法人日本看護学校協議会が行った調査(厚生労働省看護職確保対策補助金事業)で、教員になって3年までの新任期にある教員の約8割が「授業設計、授業の実施に困難や負担感を感じている」という結果が明らかになっています。専任教員養成講習会に参加して、看護教育方法論で学習指導案の作成方法をひととおり習っても、その後持ち帰った各々の学校現場で、すぐには思うように書けず、納得のいく授業ができなくて苦慮している実情が筆者たちのもとに多く寄せられています。同時に、中堅・ベテラン期の教員にあっては、時代の変化のなかで様変わりした学生の様子に悩み、また、知識の定着をめざす従来型教育からの脱却に戸惑い、「最近の学生に求められる能力をどう育成するかについて悩んでいる」という声をよく耳にするようになりました。
筆者たちは、看護教育者に向けた第一の入門書として、その現場への理解を深め、その仕事にやりがいを感じて長く教育の場で働いてほしいという願いを込めて、『看護教育へようこそ』を2015年に執筆しました。さらに、最も効果的な授業方法であると実感し、かつその運用についての相談を多数受けてきた臨地実習の指導について、『臨地実習ガイダンス 看護学生が現場で輝く支援のために』を2017年に世に送り出しています。本書は第3弾です。教員にとって悩み深く、困難を感じる課題であることも上述しましたが、しかし、教育のやりがいを最も感じられるのが「授業」です。本書では、看護の授業を構成する3つの要素である「講義・演習・実習」のうち、講義と演習の実際について取り上げました。実地での学習指導案づくりのコツや筆者たちが用いている学習指導案の実例を多く俎上にあげています。そして、中堅・ベテラン期のお悩み解決にもつながることを期待して、ワークシートを活用した筆者たちの方式による反転授業や、協同学習の手法を取り入れたアクティブラーニングの実践を紹介したいと思います。さらに、現在も検討が進行している看護基礎教育の第5次カリキュラム改正で重要度が増すと見なされている科目である、臨床判断能力の土台となる解剖生理学や病態生理学、さらに保健指導論などでの講義の実際を例示しています。
筆者たちが紹介できるのは“経験知”です。その土台に教育学的な見地からスーパーバイズをいただくことで、より多くの方が本書を活用していただけるのではないかと考え、本書は筆者たちの活動に日頃から温かい助言をいただいている東京大学大学院教育学研究科の藤江康彦教授に加わっていただきました。
繁忙な読者の皆さまそれぞれの立場で、皆さまのニーズに応じて活用いただけると、何よりもうれしく思います。
最後に、本書で小児看護学の学習指導案を掲載した(専)京都中央看護保健大学校の元専任教員で、現在大学に活躍の場を移された辻野睦子先生に心からお礼申し上げます。中堅世代である辻野先生の学習指導案や講義資料はその背景に緻密な計画があり、筆者たちも舌を巻くことがありました。すばらしい授業の提供者であり、その一端を紹介しています。そして、書籍シリーズのすべての過程を根気よく見守って支援いただいている編集部の青木大祐さん、制作部の多淵大樹さん、授業イメージの紙上再現のため工夫を凝らされたブックデザイナーの轟木亜紀子さんに裏方として大変お世話になりました。その他、看護教育に関わっていただける多くの方のお力添えで本書が刊行できることになりましたこと、重ねてお礼申し上げます。
令和元年七月
著者代表 池西 靜江
目次
開く
序章 授業とは何か
1 授業とは何か
2 用語の定義
第1章 学習指導案からはじめる授業づくり
1 学習指導案とは何か
2 授業づくりの過程と学習指導案
3 単元の指導計画
単元考察
評価の検討
評価の観点
単元の指導計画―1単位時間ごとの教育内容・方法の決定
単元の指導計画の書き方
単元指導計画作成のコツ
4 本時の学習指導案
本時の学習指導案をつくるための基礎知識
(1)教材
(2)学習形態
(3)指導技術
(4)授業の展開―本時の学習指導案づくり
小児看護学における本時の学習指導案(略案)
小児看護学における本時の学習指導案(細案)
本時の学習指導案の書き方
(1)略案の書き方
(2)細案の書き方
様式① 学習指導案(略案)のひな型
様式② 学習指導案(細案)のひな型
本時の学習指導案の具体例とコツ
5 看護教育に活かしたい新時代の教育方法
1)反転授業
2)協同学習
3)TBL
① 適切なチーム編成
② 学習者が自分の学習に「責任」をもつこと
③ 効果的なフィードバックを行うこと
④ 学習を促進する効果的な応用課題を与えること
⑤ 看護に必要な知識を問う客観試験の作成
4)ディベート法
6 第5次カリキュラム改正で重要度が増す授業づくり
1)保健指導能力育成のための授業
2)看護に活用する解剖生理学の授業
7 授業に必要な楽しさと没入感
第2章 学習指導案に基づく授業の実際
1 学習ガイドとしてのワークシート―板書からの発展形として
2 ワークシートの作成手順
3 ワークシートの書き方の実際
1)ワークシート全体のフォーマットをイメージする
2)「看護学原論」における単元の位置づけおよび単元考察、単元指導目標、
評価について理解する(単元考察)
3)本時の位置づけおよび本時の学習目標、主題、学習展開を理解する(略案)
【学習指導案】
1 看護学原論(概論)
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
2 病態生理学
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
ポストテスト
授業評価表
3 共通基本技術 I
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案・2コマ続きの1コマ目)
本時の学習指導案(細案・2コマ続きの1コマ目)
本時の学習指導案(略案・2コマ目)
本時の学習指導案(細案・2コマ目)
4 健康回復支援総論(臨床看護総論)
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
5 精神看護学方法論 I
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
6 解剖生理学 II
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
ポストテスト
7 保健指導論
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
ポストテスト
第3章 対話―教育学からみた看護の授業づくりと新時代の学び
教師がすべきこと、すべきでないこと
教え方を考える前に学習者を知る必要がある
学習者に授業の構造が伝わるように
講義・演習におけるワークシートの意義―学習者中心の視点から
講義・演習におけるワークシートの意義―教師にとっての意味は
ワークシートは板書のイメージで
看護実践に必要な“考える力”をどう育成すればよいか―知識と行動の中間にあるもの
グループワークからチームワークへ―協同の意識をはぐくむために
「講義」と「演習」は授業活動の種類として捉える―授業づくりの形態について
令和の教育改革が進み、これからの「学生像」は探究型に変化していく
付録 看護基礎教育ワークシート集
1 看護学原論(概論)
2 病態生理学
3 ① 共通基本技術 I
② 共通基本技術 I
4 健康回復支援総論(臨床看護総論)
5 精神看護学方法論 I
6 解剖生理学 II
7 保健指導論
索引
Column
学生観に書き入れたい「注目学生」とは
なぜ学習指導案が必要か
授業デザインとは
学習指導要領改訂に伴う「評価の観点」の変更
協「同」・協「働」・共「同」―キョウドウ学習の意味の違い
アクティブラーニングの現在の課題
カリキュラムマネジメントとは
教室談話研究の可能性
藤江流ワークシートのつくり方と使い方
「研究授業」のすすめ
1 授業とは何か
2 用語の定義
第1章 学習指導案からはじめる授業づくり
1 学習指導案とは何か
2 授業づくりの過程と学習指導案
3 単元の指導計画
単元考察
評価の検討
評価の観点
単元の指導計画―1単位時間ごとの教育内容・方法の決定
単元の指導計画の書き方
単元指導計画作成のコツ
4 本時の学習指導案
本時の学習指導案をつくるための基礎知識
(1)教材
(2)学習形態
(3)指導技術
(4)授業の展開―本時の学習指導案づくり
小児看護学における本時の学習指導案(略案)
小児看護学における本時の学習指導案(細案)
本時の学習指導案の書き方
(1)略案の書き方
(2)細案の書き方
様式① 学習指導案(略案)のひな型
様式② 学習指導案(細案)のひな型
本時の学習指導案の具体例とコツ
5 看護教育に活かしたい新時代の教育方法
1)反転授業
2)協同学習
3)TBL
① 適切なチーム編成
② 学習者が自分の学習に「責任」をもつこと
③ 効果的なフィードバックを行うこと
④ 学習を促進する効果的な応用課題を与えること
⑤ 看護に必要な知識を問う客観試験の作成
4)ディベート法
6 第5次カリキュラム改正で重要度が増す授業づくり
1)保健指導能力育成のための授業
2)看護に活用する解剖生理学の授業
7 授業に必要な楽しさと没入感
第2章 学習指導案に基づく授業の実際
1 学習ガイドとしてのワークシート―板書からの発展形として
2 ワークシートの作成手順
3 ワークシートの書き方の実際
1)ワークシート全体のフォーマットをイメージする
2)「看護学原論」における単元の位置づけおよび単元考察、単元指導目標、
評価について理解する(単元考察)
3)本時の位置づけおよび本時の学習目標、主題、学習展開を理解する(略案)
【学習指導案】
1 看護学原論(概論)
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
2 病態生理学
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
ポストテスト
授業評価表
3 共通基本技術 I
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案・2コマ続きの1コマ目)
本時の学習指導案(細案・2コマ続きの1コマ目)
本時の学習指導案(略案・2コマ目)
本時の学習指導案(細案・2コマ目)
4 健康回復支援総論(臨床看護総論)
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
5 精神看護学方法論 I
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
6 解剖生理学 II
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
ポストテスト
7 保健指導論
単元の学習指導案
本時の学習指導案(略案)
本時の学習指導案(細案)
ポストテスト
第3章 対話―教育学からみた看護の授業づくりと新時代の学び
教師がすべきこと、すべきでないこと
教え方を考える前に学習者を知る必要がある
学習者に授業の構造が伝わるように
講義・演習におけるワークシートの意義―学習者中心の視点から
講義・演習におけるワークシートの意義―教師にとっての意味は
ワークシートは板書のイメージで
看護実践に必要な“考える力”をどう育成すればよいか―知識と行動の中間にあるもの
グループワークからチームワークへ―協同の意識をはぐくむために
「講義」と「演習」は授業活動の種類として捉える―授業づくりの形態について
令和の教育改革が進み、これからの「学生像」は探究型に変化していく
付録 看護基礎教育ワークシート集
1 看護学原論(概論)
2 病態生理学
3 ① 共通基本技術 I
② 共通基本技術 I
4 健康回復支援総論(臨床看護総論)
5 精神看護学方法論 I
6 解剖生理学 II
7 保健指導論
索引
Column
学生観に書き入れたい「注目学生」とは
なぜ学習指導案が必要か
授業デザインとは
学習指導要領改訂に伴う「評価の観点」の変更
協「同」・協「働」・共「同」―キョウドウ学習の意味の違い
アクティブラーニングの現在の課題
カリキュラムマネジメントとは
教室談話研究の可能性
藤江流ワークシートのつくり方と使い方
「研究授業」のすすめ
書評
開く
ベテラン教員脱帽! 新時代の授業づくり必見ガイド
書評者: 水戸 優子 (神奈川県立保健福祉大教授・看護学)
近年,看護教育の授業設計や指導案づくりの書籍をよくみかけるようになった。その背景には,2011年(平成23年)の文科省中央教育審議会答申で謳われた「教育の質の保証・向上」「主体性・考える力育成」が看護教育の現場にも強く求められるようになった一方で,看護教員側の教育力・指導力不足が,国の看護基礎教育検討会等の場で指摘され続けているためであろう。
本書評を依頼され,手にとっていざタイトルを見たときには,「新人看護教員向けの本なのだろう。わかりやすさがポイントかな……」などと勝手に決めつけていた。ところが,実際に読んでみるとその先入観は相当に裏切られ,かつ脱帽させられた。これは,新人教員に向くだけではない。むしろ中堅・ベテラン教員が読むべき本だと思った。本書には,著者らの教育哲学や教育の技・こつがわかりやすく端的な言葉で述べられているだけでなく,これから先10年を見通した授業づくりのポイントが紹介されている。まさに「看護教育を深める授業づくりの基本伝授」である。また,序章として「授業とは何か」が設けられ,「学習指導案とは……」といった,基礎の基礎といえる用語解説から始まっている。それらの定義は平易な言葉で貫かれ,かつ重要な特徴だけを残してコンパクトにまとめられている。だから新人教員にとっても理解しやすい。学習指導案づくりの項には,「三観(学生観・教材観・指導観)を整理してその関連を意識するとよい。書き方にこだわる必要はない」と述べられている。著者らが,授業案づくりは表面的・画一的なお作法ではなく,教える人の哲学こそが重要であると考えられていることが読み取れる。Columnが豊富に載っているのも本書の特徴である。そこに,教育のこつやヒントが満載である。その中の一つに「クラスにおいて最も目立たない学生に注目したい」とあったのには,「その通り!」と私も同感で,うなってしまった。
また,学習指導案(三観,指導目標,指導計画,本時の指導案を含む)の例示・サンプルとして7科目,および,著者の工夫による(池西型)反転授業のワークシートの実例が,掲載されている科目数すべてについて,付録として収載されている。このワークシートがまた,学生が思わず事前学習したくなるしかけになっている。このように,基本知識と具体例が豊富にあるので,現場の教員にとって活用しやすく,かつ応用しやすくなっているのも特徴である。かつ,本書で示されている学習指導案の考え方は,伝統的で基本的なものである。ただ,その考え方を具体的な方法に落とし込んだ例示が,伝統的な一斉講義法ではなく,反転授業,協同学習,TBL,ディベートなど,新時代に求められるディープなアクティブラーニングの技法によって構成されていることにある。著者たちの不断の学びの成果であろう。さらに,第1章の締めくくりに「第5次カリキュラム改正で重要度が増す授業づくり」と記載されているのは,新カリキュラム改正の動きに大いに貢献されている著者ならではで,教育現場への激励だといえるだろう。中堅・ベテラン教員こそが刺激を受け,従来の自らの学習指導案づくりを見直し,新たな時代の授業づくりに役立てられるところも本書の特徴であり,授業づくりに携わる皆で読むべきと感じた大きな理由である。
授業づくりの先達が導く、学生に気づきの愉しさを届ける手引書(雑誌『看護教育』より)
書評者: 興梠 清美 (東京慈恵会教務主任養成講習会教育責任者)
授業の設計や準備・実施は、看護教員に求められる教育実践能力の鍵である。教育のやりがいを感じられるのが授業であると同時に、それは多くの教員の悩みや課題でもある。とくに3年目までの新任教員の80%が「授業に困難や負担」を感じているという調査結果も示されている。また中堅・ベテランの多くも、時代の変化のなかで様変わりしている学生に対し、教員主体で何を教えるかだけでなく、学生が何を学びたいのかを軸にした教育方法を模索して悩んでいる。そんな現場の助けになるのが本書である。著者たちの経験知に基づいた学習指導案づくりのコツや、授業で用いられている実例およびアクティブラーニングの実践などが多数紹介されている。
本書は3章構成である。第1章「学習指導案からはじめる授業づくり」では、授業の成否を分ける学習指導案(授業づくり)の基本となる知識が整理され、具体例を示しながら紹介されている。第2章「学習指導案に基づく授業の実際」では、教材でもあり教具ともいえるワークシートを使った著者たちの実際の授業づくりが紹介されている。第3章「対話─教育学からみた看護の授業づくりと新時代の学び」は、教育学の専門研究者を交えて、前章までに紹介された授業づくり、学習指導案、ワークシートについての学びを深める内容となっている。また序章の用語解説や、教育学の立場から解説されているcolumnは、本書をより深く理解する助けとなる。さらに、付録のワークシート集は、ひと目で授業の構造が見渡せるようになっており、学習のプロセスや、その時どきでどういった知識が必要であるかが構造的に示されている。こんな授業が実施できたら、学生は授業に没入し、「気づいた、わかった、愉しい!」と感じられるのではと思える内容である。第3章で語られている、学生と教員にとってのワークシートの意義をふまえた上で、それぞれのワークシートを見るとその意味がさらに理解できる。
著者代表の池西先生は、その長年の経験値に裏づけられた考え方や実践力が刺激的で、かねてより驚かされてきた。するどいアンテナで看護教育の質向上に活用できるものをキャッチすると、実践に取り入れながら修正し、成長させて整えていく。現場改善を最優先に考える往還的な実践者である。さらには、その成果を後進に惜しみなく提供される先達でもある。多くの“引き出し”をもつ著者ならではだと思う。また、ともに実践し、発展をめざされている共著者の存在も大きいことが推察できる。本書は、学生に納得と達成感を与える授業をしたいという願いをもち、悩むすべての看護教員それぞれのニーズに応じた手引書となっている。活用を勧めたい。
(『看護教育』2019年12月号掲載)
書評者: 水戸 優子 (神奈川県立保健福祉大教授・看護学)
近年,看護教育の授業設計や指導案づくりの書籍をよくみかけるようになった。その背景には,2011年(平成23年)の文科省中央教育審議会答申で謳われた「教育の質の保証・向上」「主体性・考える力育成」が看護教育の現場にも強く求められるようになった一方で,看護教員側の教育力・指導力不足が,国の看護基礎教育検討会等の場で指摘され続けているためであろう。
本書評を依頼され,手にとっていざタイトルを見たときには,「新人看護教員向けの本なのだろう。わかりやすさがポイントかな……」などと勝手に決めつけていた。ところが,実際に読んでみるとその先入観は相当に裏切られ,かつ脱帽させられた。これは,新人教員に向くだけではない。むしろ中堅・ベテラン教員が読むべき本だと思った。本書には,著者らの教育哲学や教育の技・こつがわかりやすく端的な言葉で述べられているだけでなく,これから先10年を見通した授業づくりのポイントが紹介されている。まさに「看護教育を深める授業づくりの基本伝授」である。また,序章として「授業とは何か」が設けられ,「学習指導案とは……」といった,基礎の基礎といえる用語解説から始まっている。それらの定義は平易な言葉で貫かれ,かつ重要な特徴だけを残してコンパクトにまとめられている。だから新人教員にとっても理解しやすい。学習指導案づくりの項には,「三観(学生観・教材観・指導観)を整理してその関連を意識するとよい。書き方にこだわる必要はない」と述べられている。著者らが,授業案づくりは表面的・画一的なお作法ではなく,教える人の哲学こそが重要であると考えられていることが読み取れる。Columnが豊富に載っているのも本書の特徴である。そこに,教育のこつやヒントが満載である。その中の一つに「クラスにおいて最も目立たない学生に注目したい」とあったのには,「その通り!」と私も同感で,うなってしまった。
また,学習指導案(三観,指導目標,指導計画,本時の指導案を含む)の例示・サンプルとして7科目,および,著者の工夫による(池西型)反転授業のワークシートの実例が,掲載されている科目数すべてについて,付録として収載されている。このワークシートがまた,学生が思わず事前学習したくなるしかけになっている。このように,基本知識と具体例が豊富にあるので,現場の教員にとって活用しやすく,かつ応用しやすくなっているのも特徴である。かつ,本書で示されている学習指導案の考え方は,伝統的で基本的なものである。ただ,その考え方を具体的な方法に落とし込んだ例示が,伝統的な一斉講義法ではなく,反転授業,協同学習,TBL,ディベートなど,新時代に求められるディープなアクティブラーニングの技法によって構成されていることにある。著者たちの不断の学びの成果であろう。さらに,第1章の締めくくりに「第5次カリキュラム改正で重要度が増す授業づくり」と記載されているのは,新カリキュラム改正の動きに大いに貢献されている著者ならではで,教育現場への激励だといえるだろう。中堅・ベテラン教員こそが刺激を受け,従来の自らの学習指導案づくりを見直し,新たな時代の授業づくりに役立てられるところも本書の特徴であり,授業づくりに携わる皆で読むべきと感じた大きな理由である。
授業づくりの先達が導く、学生に気づきの愉しさを届ける手引書(雑誌『看護教育』より)
書評者: 興梠 清美 (東京慈恵会教務主任養成講習会教育責任者)
授業の設計や準備・実施は、看護教員に求められる教育実践能力の鍵である。教育のやりがいを感じられるのが授業であると同時に、それは多くの教員の悩みや課題でもある。とくに3年目までの新任教員の80%が「授業に困難や負担」を感じているという調査結果も示されている。また中堅・ベテランの多くも、時代の変化のなかで様変わりしている学生に対し、教員主体で何を教えるかだけでなく、学生が何を学びたいのかを軸にした教育方法を模索して悩んでいる。そんな現場の助けになるのが本書である。著者たちの経験知に基づいた学習指導案づくりのコツや、授業で用いられている実例およびアクティブラーニングの実践などが多数紹介されている。
本書は3章構成である。第1章「学習指導案からはじめる授業づくり」では、授業の成否を分ける学習指導案(授業づくり)の基本となる知識が整理され、具体例を示しながら紹介されている。第2章「学習指導案に基づく授業の実際」では、教材でもあり教具ともいえるワークシートを使った著者たちの実際の授業づくりが紹介されている。第3章「対話─教育学からみた看護の授業づくりと新時代の学び」は、教育学の専門研究者を交えて、前章までに紹介された授業づくり、学習指導案、ワークシートについての学びを深める内容となっている。また序章の用語解説や、教育学の立場から解説されているcolumnは、本書をより深く理解する助けとなる。さらに、付録のワークシート集は、ひと目で授業の構造が見渡せるようになっており、学習のプロセスや、その時どきでどういった知識が必要であるかが構造的に示されている。こんな授業が実施できたら、学生は授業に没入し、「気づいた、わかった、愉しい!」と感じられるのではと思える内容である。第3章で語られている、学生と教員にとってのワークシートの意義をふまえた上で、それぞれのワークシートを見るとその意味がさらに理解できる。
著者代表の池西先生は、その長年の経験値に裏づけられた考え方や実践力が刺激的で、かねてより驚かされてきた。するどいアンテナで看護教育の質向上に活用できるものをキャッチすると、実践に取り入れながら修正し、成長させて整えていく。現場改善を最優先に考える往還的な実践者である。さらには、その成果を後進に惜しみなく提供される先達でもある。多くの“引き出し”をもつ著者ならではだと思う。また、ともに実践し、発展をめざされている共著者の存在も大きいことが推察できる。本書は、学生に納得と達成感を与える授業をしたいという願いをもち、悩むすべての看護教員それぞれのニーズに応じた手引書となっている。活用を勧めたい。
(『看護教育』2019年12月号掲載)
正誤表
開く
本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。