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『これで解決!みんなの臨床研究・論文作成』より

連載 辻本哲郎

2021.10.15

 臨床研究の実施に何が必要で,論文を書くためにはどうすればいいのでしょうか。First Authorとして50本近い論文報告をしてきた辻本哲郎氏が,新著『これで解決!みんなの臨床研究・論文作成』の中で,医療者が臨床研究を行い論文を作成するうえで有用なノウハウを伝授します。「医学界新聞プラス」では本書のうち,臨床研究の実施に背中を押してくれるトピックを3回にわたり紹介します。

まずは研究のストーリーをまとめよう

 論文作成に必要なアイテムはだいたいそろいました。さて,論文のどこから手を付けましょう? 書き慣れた研究者はおそらくどこからでも論文を書けます。その理由は論文を書き始める前から完成形を強くイメージできているからです。ただし,実際に何本か論文を書いていないと,その完成した全体像をイメージすることができません。論文作成に慣れていない人は,どこに何を書けばよいか,常に半信半疑で進んでいくかもしれません。さらに,英語を一生懸命書こうとするあまり,どうしても視野が狭くなりがちで,全体像どころでなくなることも多々あります。

 前述のように論文はTitle Page, Abstract, Introduction, Methods, Results, Discussion, Acknowledgement, References, Figure Legends, Tables, Figuresなどいろいろなセクションに分かれています。しかし,AbstractやIntroductionなどから始めて,Methods, Results, Discussionという順番通りにそのまま論文を書くのは,ある程度慣れてからのほうがよいと思います。全体像を強くイメージできていないとまっすぐ進めず,何度も無駄に行ったり来たりする可能性があります。

 論文を書く作業に入っているということは,ある程度の研究結果が出ているということです。まずはどの研究結果が一番重要か,再度確認しましょう。次に,それ以外の結果も,何のために解析した結果か確認しましょう。そのうえで「研究のストーリー」を言葉にして簡潔にまとめましょう。まとめるのは日本語でも英語でもかまいません。「何を目的にして,どのような結果が得られ,どのような結論が導かれるか」を明確に言葉にし,数文で短くまとめてみてください。重要な部分は多少詳細に書いてもかまいません。当然すぎて面倒くさいと思うかもしれませんが,これが結構大事な作業です。紙に手書きでも,論文を書いているWord文書に記載しておいてもいいです。ぼんやりとはイメージできているかもしれませんが,この作業をすることで論文の骨格が明確になり,論文を書き進める中で流れがブレにくくなります。

[研究のストーリーの例]
〇〇病院においてAの摂取量と死亡や心血管イベントとの関連を調査することを目的にした。全体ではAの摂取量が増えるほど死亡や心血管疾患のリスクは低下していた。男女別に解析した結果,女性にだけその関係を認めた。女性においてAの摂取量の増加は死亡や心血管イベントのリスク低下と関連することが示唆された。

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 さて,実際にどこから書き始めるかというと,私がお勧めしているのは,最初にResults,特に論文の目玉となるTableとFigureを完成させることです。できれば研究の結果はTableとFigureにすべてまとめ,TableとFigureを見れば研究内容がある程度わかるようにしましょう。Original Articleでは多くのジャーナルでTableとFigure を合わせて4~5個を上限にしていることが多いので,その程度の数で最も主張したい研究結果をまとめましょう。メインではないけれど,TableやFigureで示したい結果は,Supplemental TableやSupplemental Figureとして載せることができるので,同じように作成して大丈夫です。TableやFigureはReviewerがその研究を評価するときに非常に注目するので,しっかりと,かつ丁寧に作業しましょう。
 論文を作成する際には,以下の①〜⑩の順序で書くのがお勧めです。

論文作成の順序

① 研究のストーリーをまとめる
②Results(TableとFigureから)
③Methods
④Discussion
⑤Introduction
⑥Abstract
⑦References
⑧Acknowledgement
⑨Title Page
⑩Cover Letter

 最初にResultsから手を付ける理由として,論文作成の中で,出た結果をそのまままとめる比較的作業しやすい部分であること,実際にやってきた研究を意識しながら論文作成に取りかかれることなどがあります。また,TableやFigureはそれらが必要な場面になってから作成していると,作図などのために文字を書く作業が止まり,行ったり来たりして疲れます。最初にTableとFigureを完成させたほうが,その後の文章作成に集中できることも理由の1つです。
 実際に,私は論文を何本も書いた今でもResultsから作業することが多いです。ResultsのあとはMethods,Discussionと書いていきますが,そのセクションを書き終わらないと次のセクションに取りかかってはいけないわけではありません。Results同様にMethodsも書きやすい部分であるため,同時並行で作業してもよいでしょう。
 慣れないうちは,頻繁に上級医や頼りになる研究メンバーのチェックをもらいながら次に進みましょう。全部書いたあとにやり直すのは大変なので,こまめにやり取りしながら進みましょう。

POINT

★「研究のストーリー」を言葉にして簡潔にまとめる
★論文はResults(特にTableとFigure)から書き始める

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<内容紹介>「リサーチクエスチョンの立て方は?」「プロトコールには何を書くの?」「論文はどう書くの?」「英語が苦手でも大丈夫?」「査読者は何をみているの?」など,臨床研究・論文作成にまつわる数々の疑問が解決。臨床で研究・論文作成を続ける著者がまとめた至極の手引書。

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