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『これで解決!みんなの臨床研究・論文作成』より

連載 辻本哲郎

2021.10.08

 臨床研究の実施に何が必要で,論文を書くためにはどうすればいいのでしょうか。First Authorとして50本近い論文報告をしてきた辻本哲郎氏が,新著『これで解決!みんなの臨床研究・論文作成』の中で,医療者が臨床研究を行い論文を作成するうえで有用なノウハウを伝授します。「医学界新聞プラス」では本書のうち,臨床研究の実施に背中を押してくれるトピックを3回にわたり紹介します。

 

 論文を投稿するとReviewerとの戦いが待っています。私はReviewerとしても多くの論文をチェックしているので,本項ではReviewerについて記載します。論文を投稿する前にReviewerの視点を知っておくことも大切です。

Reviewerはどのように選ばれて査読するのか?

 あなたが論文を投稿すると,Editorial Officeで必要な書類がそろっているかチェックされ,その後Editor-in-ChiefやEditorに論文が回されます。その時点で評価されなければリジェクトの判定がなされて,メールがCorresponding Author(時に共著者全員)に送られます。

 Editor-in-Chief/Editorに評価されると,次にその分野の専門家や論文を発表している研究者に,Reviewerとして査読依頼のメールが送られます。Reviewerからすると,ある日突然,査読依頼のメールが届くのです。私は臨床現場にいるReviewerですが,主に研究だけを行っている人がReviewerになることもあり,状況はさまざまです。また,トップジャーナルや査読体制のしっかりしたジャーナルになると統計の専門家がReviewerとして入ってきます。

 Reviewerは基本的にボランティアで,多くのジャーナルでだいたい2週間以内に査読結果を返すことになっています。以前とある有名ジャーナルから査読依頼が来たときには,通常のOriginal Articleにもかかわらず“within about 3 working days”と言われ,迅速な査読を求められました(そのときは査読に対する対価がありました)。もちろんReviewerも忙しいので,示された期限内に返せないこともあります。その場合はReviewerがEditorと交渉することで,多少査読期間を延長することは認められています。

 そもそもReviewerも1つの論文だけ査読しているとも限らず,同時に複数のジャーナルからいろいろな分野の論文の査読を依頼されている場合もあります。私もOriginal Articleとして幅広い分野で論文を書き,そのほとんどの論文でCorresponding Authorとなっていることから,数週に1本,多ければ1週間に2~3本は査読依頼のメールが送られてくるような状態です。本項を執筆している間にも,体制がしっかりしているであろうとある有名ジャーナルから査読依頼が2週間に3本も届きました。違うジャーナルならともかく,同じジャーナルの査読をしていても,そこに配慮はありません(笑)。

 抄読会などで読む論文とは異なり,Reviewerが読む論文は完成度にとてもばらつきがあります。Reviewerもボランティアでチェックするので正直しんどいのですが,今まで多くの論文を誰かに査読してもらってきたことから,おそらくReviewerたちは頑張って査読しようという気持ちで取り組んでいます。また,研究領域が近いこともあり,現在自分が取り組んでいる研究と似た研究の査読依頼が来てしまうと,新規性の点で負けているだけでなく,内容を盗んだ疑いもかけられてしまうので,こちらの研究はやめざるを得ません。稀ですが,Reviewerの悲しさの1つです。

Reviewerとしての仕事

 Reviewerは何を書いてもいいわけではありません。査読の際に記載すべきことをまとめた規約があることも多く,それに沿って論文を評価していきます。しかし,Reviewerのための詳細な規約があるジャーナルでも,そこはボランティアでやっていることもあり,基本的にその論文をどう評価するかはReviewerに任せられています。あるジャーナルの査読で,規約に沿って査読をしたものの,判定の際に他のReviewerの査読結果を見ると,私以外は各自自由に記載していることがありました。これは稀なことではありません。そんな感じで,何を書くかについては比較的Reviewerに一任されていると考えてください。もちろん査読結果の書き方はさまざまでも,しっかり査読しているかどうかは見ればわかります。その点はEditorたちもよくわかっています。ここからは,私のReviewerとしての経験を踏まえ解説します。

Reviewerの視点

 Reviewerとして論文をもらうと,タイトル,著者,所属施設を最初に確認します。著者の編成や所属施設から,統計解析はしっかりできていそうだなど,ある程度イメージしますが,ここで何かを決めることはありません。次にAbstractを読み,図表を見ます。ここで内容をある程度つかみますが,この時点でだいたい研究のレベルがわかり,あまりに出来が悪いとリジェクトも考えながら本文(Introduction, Methods, Results, Discussion)を読み始めます。

 Introductionはだらだら長いと減点です。ここは研究背景から目的までスムーズな流れになっていることが大事です。Methodsは,研究の方法,アウトカムや重要な測定項目の定義が十分か,また,統計解析のところでは調整は十分かなどを評価します。Resultsは,客観的かつ明瞭に結果が記載されているか,目的に沿った解析が十分に施行されているか,図表は問題ないかなどをチェックしていきます。

 最後にDiscussionですが,結果をまとめられているか,結果に対する解釈や考察は十分か,どのような機序や病態が考えられるか,先行研究の引用は十分かなどを見ていきます。Discussionで特にしっかり見るところは,この研究の限界点(Limitation)を十分に理解し,記載しているかどうかです。Limitationの記載が不十分だと,Reviewerとしては突っ込みたくなります。もちろんLimitationがしっかり記載されている場合でも,そのLimitationを考慮してもこの研究結果をアクセプトするだけの価値があるかを検討します。また,全体を通して,研究そのものに新規性や斬新な切り口があるか,研究のストーリーがしっかりしているか,結果の解釈とこれから必要な研究などが書かれているかなどもチェックします。

Reviewerの評価

 最終的にReviewerはその論文の評価をまとめますが,多くのジャーナルで「チェックを入れる評価シート」「Editor-in-Chief/Editorに判定を含めてコメントする箇所」「著者らにコメントする箇所」に分かれています。

 評価シートには,「Originality」や「統計解析」などの複数の評価項目があり,評価の当てはまる箇所にチェックします。例えば,「十分」「やや不十分」「不十分」などに分かれている評価項目があるとすると,Reviewerがその評価項目を不十分だと判定したら,不十分のところにチェックを入れる,といった感じです。ジャーナルによっては「この研究が研究全体の上位何%のところにいると考えるか」を評価させるところもあります。また,総合的な判定についても「Accept」「Major Revision」「Minor Revision」「Reject」など,当てはまるところにチェックします。ここは重要な部分であり,論文そのものだけでなく,ジャーナルのレベルなども考慮して判定します。評価シートの結果は,著者らにオープンにされることはありません。

 次に,Editor-in-Chief/Editorに対して研究全体を通じて判定を含めたコメントを記入します。自由記載ではありますが,研究の目的や結果を簡単にまとめたうえで,評価できる点と問題点を記載し,「Accept」「Major Revision」「Minor Revision」「Reject」など,推奨する判定を記載します。ここもconfidentialとなっており,著者らに伝えられることはありません。

 最後に,著者らへのコメントを記入します。研究の目的や結果の優れた点などを簡単にまとめたうえで,「Major Points」「Minor Points」を書いていきます。Major Pointsは改訂や追加の解析が必要な部分,重大な間違いやLimitationについて記載します。Minor Pointsは誤字や軽微な変更を要する内容について記載します。

 以上の査読した結果をジャーナルに送ればReviewerとしての仕事は一旦終了になります。最終的にどうするかについては,Reviewerたちの評価とEditorの評価などを総合的に判断し,Editor-in-Chiefが結論を出します。Editor-in-Chief/Editorが高評価であれば,たとえReviewerの1人がネガティブな評価や難しい要求をしていても,「Reviewerのコメントのここだけ対応してください」など,一部のリビジョンだけで済むこともあります。リビジョンの判定となった場合,著者がReviewerのコメントごとに返答し,再度Reviewerにそれが送られてきます。リビジョン後の対応は1回だけで最終判定が下されることが多いですが,複数回そのやり取りを繰り返すこともあります。

POINT

★Reviewerは忙しい中でのボランティア。論文の著者はReviewerからもらったコメントがよくても悪くても,査読に対する感謝の意を忘れないようにしよう

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<内容紹介>「リサーチクエスチョンの立て方は?」「プロトコールには何を書くの?」「論文はどう書くの?」「英語が苦手でも大丈夫?」「査読者は何をみているの?」など,臨床研究・論文作成にまつわる数々の疑問が解決。臨床で研究・論文作成を続ける著者がまとめた至極の手引書。

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