医学界新聞

医学界新聞プラス

『これで解決!みんなの臨床研究・論文作成』より

連載 辻本哲郎

2021.10.01

 臨床研究の実施に何が必要で,論文を書くためにはどうすればいいのでしょうか。First Authorとして50本近い論文報告をしてきた辻本哲郎氏が,新著『これで解決!みんなの臨床研究・論文作成』の中で,医療者が臨床研究を行い論文を作成するうえで有用なノウハウを伝授します。「医学界新聞プラス」では本書のうち,臨床研究の実施に背中を押してくれるトピックを3回にわたり紹介します。

リサーチクエスチョンは最重要かつ最難関

 何となく研究はしたいのだけれど,何を研究すればいいかわからない人もいると思います。研究を開始するにあたっては,どのような研究をするか,リサーチクエスチョンを考える必要があります。リサーチクエスチョンとは研究課題のことで,当然最初に決めなければいけない部分ですが,実は研究全体を決める最も重要な部分です。

 よいリサーチクエスチョンは,結果が有効/無効のどちらであっても臨床的に重要なことが多いです。有意差がついた結果だけが必要なわけでは決してありません。リサーチクエスチョンを決める段階で,どのレベルのジャーナルを狙えるかがある程度決まるといっても過言ではありません。

最高の種を見つける感覚

 リサーチクエスチョンがなぜそこまで大事なのかは,研究をしたことがないとイメージが湧かないかもしれません。自分の持っている土壌(研究環境)で育てるとても大事な種(リサーチクエスチョン)を思い描いてください。種によって,だいたいどんな実(結果)がなるか検討がつきます。実をつけても誰も興味を示さないものであれば,その種はそもそも育てる意味がありません。予期せぬ実(予想外の結果)がなることもありますが,最初からそればかりを期待してはいけません。

 また,自分自身にその種を育てたいという気持ち(研究意欲)がなければ,種を植えても育ちません。さらに,あなたの土壌にも限界があるので,すべての種を育てられるわけではありません。10万人規模で調査するような特別な種を見つけても,育てる土壌がないとその種は育てられません。この土壌は,肥料(研究費)や新しい道具(検査機器やデータベース)を加えることで改良することができます。国内外で研究が盛んな施設には広大でよい土壌があるので,いろいろな種が育ちやすいのです。

 ちなみに,よい土壌とよい種があっても,育たない(研究が進まない)ことも起こりえます。また,頑張って育てて実をつけたとしても,丁寧に収穫(論文化)し,買ってくれる市場(ジャーナル)を探さなければ,広く世界に行き渡りません。もちろん,魅力的な実でないと誰も買いません。自分の土壌でよく育ち,大事に世話することができ,魅力的な実がなる最高の種を見つけましょう。

現場での疑問は? 自分の興味は? 施設の強みは? データベースは?

 研究をする際の理想的な流れは,実際に臨床現場で疑問に思っていることを研究することです。例えば,
「糖尿病患者にいつも行っている心電図は有用か?」
「減量のための食事指導はすべての肥満患者に同じように効果がある?」
「高齢者に対するインスリンの注射指導の効果は?」
「入院早期に嚥下訓練を施行すると,その後の肺炎発症のリスクは低下する?」

など,自分の身近で施行されている検査や治療などに関連した臨床的疑問から,まずは漠然としたリサーチクエスチョンを作り,過去の研究結果や実現可能性などを考慮して研究を考えていきます。

 実際に私も臨床の現場で,「これだけ合併症が進んでいたら,症状がなくても心臓の血管が狭窄しているだろうな」とか,「重症低血糖で運ばれてくる患者さんの血圧が異常に高いな」という点から研究を開始した経験があります。当たり前にやっていることでも,実はあまり根拠がないということはしばしばあります。日本では当たり前のことも世界では当たり前ではない検査や治療などがあれば,それを検証することで新しい知見が報告できる可能性もあります。

 また,研究は多くの労力を費やし苦労も多いことから,自分自身が研究をしながらワクワクするテーマや分野であることも大事です。例えば,心不全に興味があれば,それに関連するリサーチクエスチョンを考えるとよいでしょう。いろいろな学会に行ったり,興味のある論文や総説を読んだりして,理解を深めながらリサーチクエスチョンを出してもよいです。リサーチクエスチョンから研究を進める過程で必ず関連する論文などをチェックするので,悪くない方法です。

 実際に論文にしてジャーナルに投稿するとなると,世界に通用する内容である必要があります。そこで大事になってくるのが,世界から見たときに,所属する施設の強みは何かということです。例えば,「うちの施設は他の施設より〇〇という希少疾患を多く診ている」「うちの施設は△△という特殊な検査が施行できる」「他の施設ではできない□□という治療ができる」など,施設の強みを活かしたリサーチクエスチョンを考えるのも手です。

 身近に利用できる有用なデータベースがあれば,そのデータベースからリサーチクエスチョンを考えるのもよいでしょう。日本の中だけでなく,世界を見渡して武器になるものがあるかどうかが重要です。他の施設にはないよいデータベースを持っている施設は非常に強いです。もしあなたがそのようなデータベースを使えるのであれば,その強みを利用すべきです。海外には他を寄せ付けないようなビッグデータや特殊なデータなどがあり,海外に留学するとそのようなデータも扱えるといったメリットもあります。

 広く浅いだけのデータベースでは世界には通用しません。また,あとで述べるように各項目がしっかりと定義されていないと使えないので注意しましょう。

p022_Ill_01-06_F57_RGB.jpg

リサーチクエスチョンが出てこない……

 さて,上記のことを考えても全くリサーチクエスチョンが思いつかない場合はどうしましょう。じっとしていても何も変わりません。まずは一緒に考えてくれる先輩や上司に相談してみるのがいいと思いましょう。できれば相談相手は臨床系の論文を何本か出している人がよいです。私もリサーチクエスチョンについて相談されることがありますが,その場で本人に臨床現場での疑問を聞いてもリサーチクエスチョンにつなげるのは難しいことが多いです。まず本人にどんなことに興味があるかを聞き,その中で一緒に考えるようにしています。少なくともある程度は分野を絞らないと,路頭に迷ってしまいます。

 それでも難しいときには,上司からリサーチクエスチョンをもらってもよいでしょう。特に,論文を多数書いている部署に行けば,よい研究環境やデータベースとともにリサーチクエスチョンが手に入れられる可能性も高いです。他人からもらったリサーチクエスチョンでも,自分で納得したうえで自覚を持って誠心誠意その研究に取り組むようにしてください。

リサーチクエスチョンのストック

 私は常にリサーチクエスチョンを考えながら過ごしています。ふと思いついた内容は忘れないうちに紙に書き,部屋に戻ってからリサーチクエスチョンのリストにストックしています。いい切り口が見つかるととても嬉しいですが,そんなことはめったにありません。また,当然すべての思いつきが研究に結び付くわけではなく,すでに報告されていたり,研究費が足りなかったり,後述するPECOの観点から実現不可能であったりと,ストックしてあるリサーチクエスチョンで実際に研究につながるものは10個に1個もありません。50〜100個に1個など,その程度です。それほど研究につながるリサーチクエスチョンを見つけることは難しいです。

 ただし,はじめて研究をする人にはさらに難しいかというと,必ずしもそういうわけではありません。最初からあふれるようによいアイディアが出てくる人もいます。逆に,臨床経験が豊富で臨床医としては非常に優秀でも,研究の視点で新しいアイディアが出やすいかというと,必ずしもそういうわけでもありません。私の印象ですが,新しい研究そのものを考えることにおいては,若手のほうが斬新で面白いことが多いです。とにかく漠然とでもいいので,思い浮かんだリサーチクエスチョンをどんどんストックしておきましょう。個人が小規模で行う観察研究では際立った個性的な視点が求められるので,これまでの慣例や常識にとらわれず斬新な切り口を考えてください。この時点では最初から具体的なものを出す必要はありません。次項で説明する徹底的な論文検索の結果を踏まえ,PECOを意識しながら研究を具体化すればよいです。また,最近のトピックや自分の専門領域のジャーナルでどのような研究がアクセプトされているかは知っておきましょう。どんな研究テーマが多いか,どれくらいの規模の研究が必要かなども,ある程度抑えておきましょう。

 研究したいのにリサーチクエスチョンが立てられず,研究を始められずにもどかしい気持ちでいるそこのあなた! 今ぶつかっている壁は研究者が誰しも苦労する最初の難関です。ぶつかるほうが普通なのです。焦らずに「これだ!」と思うリサーチクエスチョンを見つけましょう。

p024_Ill_01-07_F57_RGB.jpg

POINT

★リサーチクエスチョンはすべての研究者が苦労する最初の難関であり,研究全体を決める最も重要な部分です

https://www.igaku-shoin.co.jp/application/files/1616/3333/7437/110335.jpg
 

<内容紹介>「リサーチクエスチョンの立て方は?」「プロトコールには何を書くの?」「論文はどう書くの?」「英語が苦手でも大丈夫?」「査読者は何をみているの?」など,臨床研究・論文作成にまつわる数々の疑問が解決。臨床で研究・論文作成を続ける著者がまとめた至極の手引書。

目次はこちらから