図書館情報学の窓から
[第11回] ハゲタカ雑誌の論文を「査読している」のはどんな人?
連載 佐藤 翔
2020.04.20
図書館情報学の窓から
「図書館情報学」というあまり聞き慣れない学問。実は,情報流通の観点から医学の発展に寄与したり,医学が直面する問題の解決に取り組んだりしています。医学情報の流通や研究評価などの最新のトピックを,図書館情報学の窓からのぞいてみましょう。
[第11回]ハゲタカ雑誌の論文を「査読している」のはどんな人?
佐藤 翔(同志社大学免許資格課程センター准教授)
(前回よりつづく)
2020年3月11日,プレプリントサーバbioRχivに,ハゲタカ雑誌の論文を「査読」しているのはどんな研究者かを調査した論文,「Who reviews for predatory journals? A study on reviewer characteristics」1)が掲載されました。著者はスイス国立科学財団(Swiss National Science Foundation:SNSF)の研究者らと,査読登録サービスPublonsのスタッフらです。同日中にNature誌オンライン版に紹介ニュース記事2)も掲載されるなど,大きな注目を集めています。
Publonsといえば本連載の契機となったインタビュー記事(第3312号参照)でも紹介した査読登録サービスで,これが一般化すればハゲタカ雑誌対策にもなるだろう……と自分は自信満々にコメントしたわけです。しかしなんとそのPublonsに,ハゲタカ雑誌と思わしき雑誌に掲載された論文への査読レポートが登録されている,ということにスタッフが気付いたのが調査の発端でした。詳細に調べてみようと思い立ちSNSFの研究者らに相談を持ちかけ,今回の調査に至ったとのことです。
「ハゲタカ雑誌なのに査読をしている? どういうこと?」と疑念を持たれる人もいらっしゃるかもしれません。ハゲタカ雑誌といえば,実際には査読をしていないにもかかわらず,「査読をしている」と銘打って片っ端から論文を掲載する雑誌,その目的は掲載料収入を得ること……というイメージが自分にもあります。それなのに査読者がいるとは? 査読者がいるならハゲタカ雑誌じゃないんじゃないの,という気もします。しかし,そこが前々回(第3359号)取り上げた「ハゲタカ雑誌の定義」3)ともつながってくるところです。
同定義ではハゲタカ雑誌を「学問を犠牲にしてでも,自己の(もっぱら経済的な)利益を優先するもの」とし,その判断基準として虚偽・誤解を招く情報の掲載や,編集・出版ベストプラクティスからの逸脱など4つの要件を決めました。一方,査読の質については現状では外部から評価の仕様がない,ということで基準に含めませんでした(ちなみに今回の論文の著者たちは,このハゲタカ雑誌の定義に関する会議の参加者であり,結果をまとめた論文の共著者でもありました)。逆にいえば,それ以外の外形的に判断可能な基準を満たしているなら,それで「ハゲタカ雑誌」と認定するには十分,ということになります。そうした外形的基準からすれば疑わしい雑誌の中に,Publonsに査読が登録されているものがあった,ということのようです。
*
実際の調査には,Cabell社が作成する有料の雑誌リストが用いられました。同リストは出版プロセスや論文のアクセス可能状況等の複数の基準から,ハゲタカ雑誌と疑わしい雑誌と,真っ当と考えられる雑誌を分けてまとめたものです。もちろん,実際にはグレーゾーンも存在し奇麗には分かれないだろうことは今回の論文でも指摘されているものの,出発点として使うには比較的,妥当なものに思えます。
その中か...
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