図書館情報学の窓から
[第12回] 新型コロナウイルス感染拡大と図書館の在り方
連載 佐藤 翔
2020.05.11
図書館情報学の窓から
「図書館情報学」というあまり聞き慣れない学問。実は,情報流通の観点から医学の発展に寄与したり,医学が直面する問題の解決に取り組んだりしています。医学情報の流通や研究評価などの最新のトピックを,図書館情報学の窓からのぞいてみましょう。
[第12回(最終回)]新型コロナウイルス感染拡大と図書館の在り方
佐藤 翔(同志社大学免許資格課程センター准教授)
(前回よりつづく)
前々回(第3363号)で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する研究成果公開の在り方を取り上げましたが,その当時から感染拡大は急激に進み,外出・移動の制限や施設の閉鎖等の措置を取る国・地域も増えてきました。日本でも感染拡大の瀬戸際である,と言われる状況が続いています。
大学や図書館がサービスを縮小したり,閉鎖したりせざるを得ない例も増えており,国際図書館連盟(The International Federation of Library Associations and Institutions)によれば本稿執筆時点(2020年4月初週)でイタリア,スペイン,英,仏,独など,世界48の国・地域で国内全ての公共図書館(特に利用者を制限しない,日本で言えば市区町村立や都道府県立図書館のような,いわゆる「図書館」)が閉鎖されています1)。日本でも感染が拡大している地域を中心に複数の都府県立図書館や市立図書館等が閉館している他,国立国会図書館も閉館しています(東京本館・国際子ども図書館。京都府にある関西館は開館)2)。
各国の大学・学校も授業をオンライン化するなどの対応に追われています。教育・研究のデジタルプラットフォームを運営する米国の特定非営利団体ITHAKAの調査によれば,米国の大学の80%以上は対面授業をオンラインあるいは遠隔授業に移行したとされています3)。日本の場合はちょうど大学の春休み期間が続いていましたが,新学期開始を遅らせつつ,オンラインへの移行を検討する大学が多数現れています。自分が所属している同志社大学も,少なくともゴールデンウィーク明けまでは対面授業をせず,オンライン同時授業や教材配信等の代替措置を取ることを決めました。
*
授業ができない状況ですから,当然,大学の図書館もサービスの縮小や閉館を検討することになります。先述のITHAKAの調査によれば,3分の2以上の大学で少なくとも1つの図書館が閉館しているとされています3)。また,研究大学の図書館の団体である北米研究図書館協会(The Associaton of Research Libralies:ARL)に所属する図書館に限れば,118大学で図書館が閉館しており,何らかの利用制限を伴いつつも開館しているのは6大学にとどまっています4)。日本でも,開館時間の短縮,土日祝日の休館など,サービスの一部休止に踏み切る大学図書館が多数現れている他,一部には全面休館の動きもあります。
近年の図書館業界には,空間共有・コミュニティ創出の場としての図書館の在り方を模索する潮流がありました。それは,大学・研究図書館においてラーニング・コモンズという学習スペースの形で現れています。大学にお勤めの人は,自分の大学にもここ十数年の間にそう称する空間ができた,という心当たりがあるかもしれません。
公共図書館においては,佐賀県武雄市の図書館にTSUTAYAなどを経営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)社が指定管理者として参入したことが良くも悪くも話題になったことに代表される「にぎわいを創出する」,居心地のいい空間+多様なイベントの開催,というモデルが広がりを見せていました。これらは情報がオンラインで容易に入手できるようになったときに,それでも空間としての図書館を維持する意義として,空間を共有し,見知らぬ第三者と接触することが生み出す刺激に着目したもの...
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
対談・座談会 2025.03.11
最新の記事
-
対談・座談会 2025.04.08
-
対談・座談会 2025.04.08
-
腹痛診療アップデート
「急性腹症診療ガイドライン2025」をひもとく対談・座談会 2025.04.08
-
野木真将氏に聞く
国際水準の医師育成をめざす認証評価
ACGME-I認証を取得した亀田総合病院の歩みインタビュー 2025.04.08
-
能登半島地震による被災者の口腔への影響と,地域で連携した「食べる」支援の継続
寄稿 2025.04.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。