こころが動く医療コミュニケーション
[第2回] 共感力低下を防ぐために医療者に必要なこと
連載 中島 俊
2020.12.21 週刊医学界新聞(通常号):第3401号より
医療コミュニケーションにおける共感とは,医療者が患者さんの観点や価値観をどの程度理解しているか,または理解しようとしているかを表します。前回(3396号)では共感力の高い医師が対応する2型糖尿病患者さんの死亡率が低いとの研究1)を紹介しました。共感力を向上させるには座学よりも面接の陪席やロールプレイなどによるトレーニングの効果が高いと報告されており2, 3),実践的な内容のプログラムが求められることがわかります。
今回は医療者が学んでおきたい共感力のポイントとして,医療者の感情や経験が自身の共感力を低下させる要因になり得ること,そしてその対処法を紹介します。
CASE
一人暮らしの40歳女性Aさん。10か月前から不眠症状がみられB病院を受診し,不眠症と診断された。B病院で薬物療法が開始されるも症状の改善がみられないこと,自分の不眠が年齢相応のものと言われ納得できなかったことがきっかけで,その後,複数の医療機関を転々とするも症状は改善せず。著者が勤務するC病院の初診時には,不眠の訴えだけでなく,どこの医療機関を受診しても満足のいく病態の説明がないこと,症状が改善しないことから声を荒げて医療機関への不信感を訴えている。
Aさんと医療者のかかわりを通して医療者の共感力とそれに関連する要因を考えましょう。
自身と患者をモニタリングし認知バイアスの影響を減らす
医療者の共感力を低下させる要因の1つが認知バイアスです。共感は対象者の心的状態を推測するという特徴上,相手への偏見があると生まれにくい特徴があります4)。また認知バイアスには個人的な経験が大きく反映されます。例えば過去に患者さんから叱責を受けた経験のある医療者が本ケースのAさんを担当する場合を考えてみます。この医療者は,以前の患者さんと同様に怒鳴られるのでないかとの不安からAさんを恐怖の対象としてとらえ,共感的姿勢でかかわることが難しいと容易に想像できるでしょう。この医療者の感情はおかしなことではなく,過去に別の患者さんから受けた強いストレスと同様の体験にさらされることを防ごうとする自然な防衛反応です。医療者が自分自身の心身を守りながら患者さんとかかわることは必要である一方,そのかかわり方が客観的に望ましいかどうかは十分に検討される必要があります。
医療者の認知バイアスが患者さんに及ぼす影響を減らすには,医療者が自分の考え方や感情を客観視するモニタリングが重要です5, 6)。医療者が,①何を感じ(感情),②何を考え(認知),③どう振る舞うか(行動)という3つの視点をモニタリングすることで,患者さんとのかかわりが自分の感情や経験に過剰に引きずられていないかどうかを検討します。モニタリングを行う際に自分を第三者の視点でとらえる客観性が大切です。
同時に患者さんの感情をモニタリングし,その背景を推論することも医療者の共感につながります。Aさんの場合,B病院を含め複数医療機関の受診を経てC病院へとたどりついています。一見医療機関を転々とするドクターショッピングを行うとっつきにくい方のように感じますが,コミュニケーションを通してAさんの怒りが何に由来するのかをひもといてゆきます。このとき「あなたの怒りは何に由来しますか?」という直球の質問は火に油を注ぎますので,図に示した最初の医療者の質問のように,相手の言葉を聞き返すテクニックを用いて会話を進めていくことがポイントになります。

医療者は自らの①感情,②認知,③行動の視点とともに,Aさんの怒りの背景を理解して感情をモニタリングすることで,より共感的なコミュニケーションを行うことができる。
会話を続ける中で,Aさんの背景には,1)自分の苦しみを医療者も家族もわかってくれないという孤独感,2)このまま不眠がずっと続くのではないかという将来の不安の2つがあるとわかりました。これらのネガティブな気持ちによる怒りが医療者に向けられていたという背景を理解できれば,医療者のAさんへのかかわり方も図のようになるのではないでしょうか。
また,患者さんへの共感を難しくさせるもう1つの要因が医療者の忙しさです。医学生やレジデントの共感力と共感力に関係する要因についての系統的レビュー7)では,医学教育課程...
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