医学界新聞

こころが動く医療コミュニケーション

連載 中島 俊

2021.01.18 週刊医学界新聞(通常号):第3404号より

 患者さんの話を聞くことは医療者の基本的なかかわりです。しかし最近の研究では,半数以上の医療者が患者さんに受診の理由を尋ねる機会を設けておらず,また尋ねたとしても患者さんの話を途中で中断させてしまうことが報告されています1)。この報告によると医療者が患者さんの話を遮るタイミングは開始から3~234秒(中央値:11秒)でした。話を遮ることは正確な診断と治療のために必要な場合もあります2)が,少なくとも患者さんの話を医療者が数秒聞いただけで遮ってしまう場合は双方にとって良い結果にならないでしょう。医療者と患者さんのコミュニケーション不足は再入院のリスク因子の一つだとする報告もあります3)

 そこで本稿では医療者が陥りがちな,患者さんとの初期段階での関係悪化を引き起こす,コミュニケーションの6つの罠(4)を紹介します。

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 6つの罠に関するそれぞれの特徴(文献4より改変)

 医療者が患者さんとの面接の初期段階を単なる情報収集と考えて,アセスメントのために,特にはい/いいえで答えられる「閉じた質問」ばかりしてしまうことです。患者さんの会話を中断させる医療者の行動の59%は「閉じた質問」だったと報告されており1),この罠にはまった医療者と接した患者さんは疎外感を感じたり治療に対して受け身になったりします。患者さんとの初期のかかわりはアセスメントではなくその人を知るためのものと考え,医療者が聞きたい内容だけでなく相手が何を話したいのかを考えることが必要です。

 医療者が患者さんの話を聞かずに専門家として解決を図ろうとしてしまうことです。プライマリ・ケア医と専門医では,専門医のほうが患者さんの話を遮りがちと報告されています1)。この罠にはまらないためには,医療者は患者さんが一緒に問題を解決していくパートナーであるという認識を持つことが重要です。

 医療者が問題解決を急ぐあまり,患者さんの話を聞かず会話を展開させてしまうことです。面接のプロセスは①関係構築とアジェンダ設定,②探索と仮説検証,③治療計画とされています2)。しかし①を飛ばして②や③に進んでしまう場合は,この罠にはまっていると言えます。この罠にはまらないためには,①~③の面接のプロセスを意識することが重要です。

 医療者が患者さん自身の情報だけですぐにその人を決めつけたかかわりをしてしまうことです。「うつ病の人は神経質な人が多い」という思い込みによって患者さんとかかわろうとする場合はこの罠にはまっていると言えます。目の前の患者さんの訴えに耳を傾ける姿勢は欠かせません。

 医療者の態度によって,患者さん自身が自身に問題の原因があると考え,医療者からの批判を恐れ防衛的になってしまうことです。例えば昼夜逆転して困っている患者さんの趣味が夜にスマホでゲームをすることだった場合,患者さんは医療者から責められることを心配して防衛的になることがコミュニケーションを難しくさせます。この罠にはまらないためには,誰が悪いのかなどの悪者探しを目的とするのではなく,医療者は患者さんが何で困っていてそれに対してどういった援助ができるかに関心がある旨を患者さんにまず伝えることが肝要です。

 名前の通り,本来のアジェンダから外れて会話を進めてしまうことです。3)早過ぎるフォーカスの罠への対処と同様に面接のプロセスを意識してどのようなアジェンダを扱うのか考えることが重要です。

 

 例えばでは睡眠・覚醒リズムの後退を伴ううつ病患者さん(20代)と医師の診察の会話を示しています。この例では医療者は複数の罠にはまり一方的な会話を展開してしまっています。このようなかかわりでは,患者さんの本音を引き出すことが難しいだけでなく,正確な病態把握も困難になりがちです。本ケースでは初めに,①どのような悩みで来院されたかや現状について共感的にかかわり,会話が脱線しても遮らず自由に話してもらう,②アセスメントだけでなく,その人の価値観や考えを知るためにかかわりを持つ,③治療計画を共有していく,というプロセスを意識すると良いでしょう。

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 複数の罠にはまった医療者のコミュニケーション(筆者作成)
実際にはこれらの「罠」は1つの会話の中で重複することが珍しくないが,本例では医療者の1つの会話ごとに分かれて登場している。

 ここまで,医療者と患者さんの関係悪化を引き起こすコミュニケーションについてお伝えしてきました。この問題の背景には医療者のコミュニケーション・スキルだけでなく,診療時間の短さも大きく関連していると考えられています5)。では診察時間を長くすればいいのかというと,現在の診療報酬体系のまま診察時間を長くしただけでは,患者さんの待ち時間の増加や医療者の業務量の増加につながると懸念されており5),慎重な議論が必要です。現状,短い診察時間の中で医療者がどのくらい患者さんの話を遮らずにいれば,患者さんが自分から話したい内容を話してくれるのでしょうか。冒頭の研究1)では,医療者が話を遮らない場合に患者さんが話したい内容を話し始めるまでの時間は2~108秒(中央値:6秒)でした。これらを踏まえると,2分間ほど患者さんに好きに話してもらうだけでも,患者さんの満足度はだいぶ高まるかもしれません。

 医療にも“急がば回れ”の精神が必要と言えます。

🖉 医療者は患者さんの会話をついつい遮りがちである。
🖉 その背景には医療者のコミュニケーションの問題と診察時間の短さがある。
🖉 患者さんの会話を引き出すために自身が陥りがちなコミュニケーションの罠を知り対策を練ることが役立つ。


1)J Gen Intern Med. 2019[PMID:29968051]
2)JAMA. 2017[PMID:28291896]
3)JAMA Intern Med. 2016[PMID:26954564]
4)ウイリアム・R・ミラー,他.原井宏明(監訳)動機づけ面接上巻.第3版.星和書店;2019.pp58-67.
5)J Gen Intern Med. 2019[PMID:31270787]

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