「ユマニチュード」が聖路加に来た日(井部俊子)
連載
2015.04.27
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加国際大学学長 |
(前回よりつづく)
病棟で起こった「大変なこと」
2015年2月,最後の木曜日は雨であった。イヴ・ジネストさん(ユマニチュード創始者,ジネスト・マレスコッティ研究所長)はトレードマークの赤いつりズボンではなく,白のワイシャツと黒色の革製つりズボンでやって来た。寒い地方での講演会のために新調したという。2か月ぶりの再会であったが,両手を大きく広げて包み込むあいさつはフランス流であった。雑誌「看護管理」の座談会1)でお会いしたときの,「今度は聖路加に行きます」という約束を果たしてくださった瞬間であった。
当日は,午後から病棟訪問と2時間の講演会を予定していた。私は学外の会合に出席するためしばらく不在にするが,夕方の講演会で再会することを告げた。数時間後,私が大学に戻ると,講演会の会場入口で受付をしていたナースが私を見つけるなり,「大変なことになっています」と興奮して駆け寄ってきた。ジネストさんと盛真知子さん(国立病院機構東京医療センター/ユマニチュードインストラクター)のかかわりで,大変なことが起こり,それをみていたある医師は「これは医療の革命だ」と驚いたというのである。
ベッドから起き上がり,「友達」とダンスを
その「大変なこと」を以下に再録しようと思う。
ジネストさんたちの病棟訪問は内科病棟から始まった。「93歳のキクエさん(仮名)は,誤嚥性肺炎という診断です。厚揚げを詰まらせ呼吸停止となり,蘇生された後,介護施設から搬送されてきました」と,病棟のナースは紹介した。ナースステーションのいすに腰掛け,(通訳を介して)ジネストさんは10分ほど「情報収集」をした。「何に困っていますか」とナースに尋ねる。「点滴の自己抜去で,再挿入すると拒否される」とナースは答えた。付き添っていた娘にあいさつし,患者訪問の了解を得た。彼女はジネストさんと英語で会話し,打ち解けた。
一行はキクエさんの病室へ移動した。十数人のギャラリーはこれから起こることに興味津々で,ぞろぞろと従った。まずナースの盛さんがキクエさんにアプローチする。盛さんは,病室入口でノックを3回した。3秒置いてもう一度ノックを3回して,部屋に入った(これはユマニチュードの作法である)。
「キクエさん,こんにちは。私はモリと言います。○△(地名)からキクエさんに会いに来ました。顔色がよいですね。私の友達がフランスから来ているので紹介していいですか」
盛さんのこのあいさつの仕方にも特徴があった。入口で距離を置いて立ったまま,(通常のやり方で)あいさつしたのではなかった。盛さんは,背もたれに寄りかかってベッド上に起きているキクエさんに真正面から近付き,顔がほとんどくっつきそうな距離から,大きな声でゆっくりと話しかけた。後ろからみると,それはまるでキクエさん...
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