医学界新聞

連載

2012.03.05

臨床研修ええとこどり!!
around the world
研修病院見学ルポ[番外編]

水野 篤(聖路加国際病院 循環器内科)


 『研修病院見学ルポ』(「週刊医学界新聞」連載,2009年5月-10年4月)での日本の研修病院見学に加え,かねてから行いたかった世界の病院見学。「世界の中での日本を知りたい」という思いを胸に,若造でしかわからない何かを求めて旅に出た。相も変わらず一部の研修病院についての主観的な報告だが,各国での初期研修の実際や研修医のその後の進路を紹介し,日本にも生かせる「ええとこ」を見つけていけたらと思う。さらに熱い日本をめざして。

(全4回)


2964号よりつづく

【第2回 台湾編】

人口-2322万人(2011年)。人口密度は日本,韓国よりも高い637人/km2

見学病院-National taiwan university hospital(2087床)

 

 第2回は台湾。台湾も韓国同様,近年は電子機器が有名とのこと。かつて「ニューヨークタイムズ」紙で,世界10大レストランの一つに選ばれた「鼎泰豐」に代表される料理は,日本でも人気がある。韓国に続き,アジアからもう一か所報告します。

 台湾では,National taiwan university hospitalを見学し,さらにChina medical university, Taipei medical universityの医師に話を伺うことができた。台湾独自の医学教育システムを体験でき,刺激的な見学となった。


台湾の医学教育

 台湾の医学部は日本と異なり7年間の教育課程となっている。4年間の基礎医学教育の後,2年間のクリニカルクラークシップ,1年間のインターンシップを行う。クリニカルクラークシップは日本の臨床実習に相当し,各診療科をローテーションする。期間は一つの診療科当たり約1か月。ただ,内科でも回ったり回らなかったりする科があり,これは筆者の出身校京都大学でも同じだった。当時はそんなローテーションでいいのかと納得がいかなかった記憶がある(今となっては,短期間で得られるものは少ないため,仕方がないと思うようになった)。1年間のインターンシップの後,国家試験を受験する。研修病院の選択方法はマッチングではなく,各病院を直接受験するシステムを採用している。

臨床研修の歩き方

 臨床研修では,台湾も日本と同様,Common diseaseを診ることができる市中病院での研修が好まれる傾向にあるらしい。見学した病院の内科では,3年間のレジデントの後,全員がチーフレジデントを1年間経験する研修システムとのこと。チーフレジデントは,レジデントの教育プログラムの運営や他科からのコンサルテーションの対応などの役割を担う。また,その期間にICUをローテーションしたりと,手技に磨きをかける医師が多いようだ。

 台湾の病院での臨床研修で重要なことに,レジデントの間に国際的な雑誌への論文投稿が義務付けられていることがある。これは日本の臨床研修と比べると,チャレンジングな教育システムであり感銘を受けた。ただ,さすがにデータを用いた実際の解析までは,レジデントの間にほとんど行うことはないようだ。1年間のチーフレジデントの後は各々が各科のフェローを経験して,指導医(アテンディング)となる道を選ぶのが一般的だという。

キャリアの選び方

 キャリアの選び方は,基本的に日本と変わらないと感じたが,自宅の近くの病院への就職を希望する人が多いという。診療科の選択は,学生時代から徐々に決断を迫られてくるとのことだが,現在は形成外科の人気が高いと聞いた。

 給与体系は日本と異なり,脳神経外科のような専門的な手技が要求される診療科は給与が高くなっている。日本では,どの診療科でも基本的に医師の給与は同じ,という話を台湾の医師にしたところ非常に驚いていた。

 卒業と同時に米国などの国外で臨床研修を行う医師数は,全体のわずか1%ほどとのこと。留学は,基礎・臨床を含め研究目的で行くことが多く,日本も留学先の一つの候補となっている。

病院のアメニティ

 コーヒーショップやサプリメントショップ,またフードコートなどが病院内にあり,日本とほとんど変わらないように感じた。

カンファレンスと教育ツール

 病院内では,基本的に公用語である中国語(台湾華語)が使用されるとのことだが,ほぼ毎日開催されるケースカンファレンスでは,クリニカルクラークシップの学生が英語でプレゼンテーションを行う。もちろんディスカッションもすべて英語。これは医療の国際化を図る上で重要な方法だと思う。日本でも手稲渓仁会病院のように英語でプレゼンテーションを行う研修病院もあるが,まだまだ少数であろう。

 診療マニュアルとしては,英語で書かれた海外の書籍を用いることが多いようだ。教育用PowerPointなども,各病院で共有しているシステムがあるが,これは前回(第2964号)のサムスン医療院ほど充実はしていないようだった(筆者私見)。

<左>National taiwan university hospital。歴史を感じさせる建造物が多く残っている。
<右>学生向けのカンファレンスの光景。なんと英語だ!

台湾医療の現場

 日本と同様,国民皆保険制度が施行され,基本的に患者はどこの病院でも受診できる。救急車も基本的には無料。しかし,日本と違う習慣もあり,患者の多くは自宅での死を選ぶという。例えば癌の終末期などで余命が残り少なくなった場合には,私営の救急車で病院から自宅に帰る患者が多い。日本ではようやく訪問医療や訪問看護の充実で在宅医療が,広く受け入れられるようになってきたところだが,終末期には病院に来ることはあっても,病院から自宅に戻って最期を迎えるという選択をする患者の割合はまだ少ないだろう。文化の違いを実感した。

台湾の研修医からのメッセージ

 最後に研修医からのメッセージを紹介する。

 「日本は素晴らしい国で,フレンドリーな方が多いです。医療の面でも,お互い頑張っていきましょう」

特徴

多くの病床を持つ大学病院の国際競争力は高い。総合的な英語教育が行われているわけではないが,医学生時代からのルーティン化した英語での症例報告教育など,優れた医学教育システムが構築されている。

日本への思い

台湾の方は日本人と感覚が似ており,文化面では親近感が強い一方,医療面では国際化に積極的にアプローチしようとする心意気を感じた。また,国民への平等な医療の給付など制度面でも日本と同じ部分が多いため,超高齢社会における保険制度などに関しても共に学ぶ必要があるだろう。日本を,医師の留学先だけにとどまらず,あらゆる面で魅力的な国にしていきたいと心から思った。

つづく

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