医学界新聞

連載

2012.02.06

臨床研修ええとこどり!!
around the world
研修病院見学ルポ[番外編]

水野 篤(聖路加国際病院 循環器内科)


 『研修病院見学ルポ』(「週刊医学界新聞」連載,2009年5月-10年4月)での日本の研修病院見学に加え,かねてから行いたかった世界の病院見学。「世界の中での日本を知りたい」という思いを胸に,若造でしかわからない何かを求めて旅に出た。相も変わらず一部の研修病院についての主観的な報告だが,各国での初期研修の実際や研修医のその後の進路を紹介し,日本にも生かせる「ええとこ」を見つけていけたらと思う。さらに熱い日本をめざして。

(全4回)


【第1回 韓国編】

人口-4887万人(2010年)。人口密度は日本よりも高い(韓国488人/km2,日本343人/km2)。

見学病院-アサンメディカルセンター(2680床),サムスン医療院(1951床),延世大学セブランス病院(1006床)

 

 第1回は韓国。韓流スターやタブレット型端末などからもわかるように,多分野で国際競争力を持つ国だ。果たしてこの国の医療現場はどうなっているのか? 病院見学の一部のみですが紹介します。

 韓国では,3つの病院を見学できた。アサンメディカルセンター,サムスン医療院,延世大学セブランス病院である。延世大学周辺は若者が非常に多く,街並みは東京の原宿のようであり,学生たちの活気あふれる雰囲気は万国共通だなぁと実感した。


韓国の医学教育制度

 まず,韓国も当然医師免許を取らなければ医師になれないが,取得のためには日本と同様の医学教育施設に入る必要がある。制度は大きく6年間(一般教養2年+医師教育4年)の医学部課程もしくは医学部以外の大学(4年)+4年間の医師教育(いわゆるメディカルスクール)に分かれる。聞いた話では,長期間の教育が敬遠されてなのか,日本と同じような6年間の医学部を選択する傾向が強いとのことだ。

 卒後は,インターンという1年間の全科ローテーションを経て,4年間のレジデントに進む。その後,男性は通常約3年の兵役に従事し,終了後にフェローシップに進む。医学部卒業と同時に開業が可能であり,どの科でも標榜できるようだが,米国と同様にFamily Practiceも1つの専門医の分野であり,Family Practiceの専門医とそうでない開業医では収入が違うそうである。

 このなかでやはり特徴的なのは兵役。研修を中断するというデメリットはあるが,兵役のような制度があるからこそ韓国人男性のあの男らしさ,はかないようなさわやかさがあるのかもしれない(私見)。また臨床研究に向かう姿勢にも日本との間に違いを生んでいるのかもしれない。

臨床+研究

 見学した3病院はすべて1000床を超える大規模病院であり,外来患者数も多い。日本と最も異なるのは,上記の病院は研究施設である上にさらに救急を含めた一般臨床も充実していることだ。つまり日本では,臨床研修を行う場合に大学病院はcommon diseaseが少ないなどという意見が散見されるが,そのようなことは韓国ではない。実際アサンメディカルセンターには,救急外来だけでも3つある(小児救急センター,一般救急センター,がん関連の救急センター)。Common diseaseを含め,多数の症例に暴露される臨床研修。これは日本の研修医からすればうらやましい環境だろう。しかも,世界レベルの研究が行える。必然的にそのような大規模施設で臨床研修を行うことが明確なキャリアプランとなっているようだ。

キャリアの選び方

 レジデントに話を聞いたところ,韓国の医学生は「Common diseaseを診たいから一般病院」というようなことではなく,自身のめざす専門分野が強い施設に行きたいというように,専門志向での選択が強いと思われる。インターンやレジデントの間でも論文執筆が盛んである。ある病院では,筆者の目の前で自分の名前をPubMedで検索して自身の論文を示すレジデントもおり,カルチャーショックであった。自分を表現しようとするエネルギーを強く感じた。各病院は欧米の病院と協力体制を敷いており,交換留学などの制度もあるようだ。これは日本も同じであろうが,1つの病院だけで臨床,研究に加え留学まで可能,つまり介入可能な医学教育のほとんどを受けることができる大規模病院で研修を受けたいと医学生が考えるのは当然だろう。キャリアプランニングとしても非常にわかりやすいため,都市の病院に医師が集中するのも無理はない。

病院のアメニティ

病院のロビーはホテルさながらであり,コンサートなども頻回に行われているようだ。
 設備は3病院とも非常にきれいのひと言。アサンメディカルセンターの健診センターやセブランス病院は,ホテルかと見間違うほどだ。サプリメントの販売店やフードコートも備わっており,非常に快適な空間である。日本でも設備が充実した病院が増えてきているが,こちらの充実っぷりには最初唖然とした。この点だけで自分もこの病院に来たいと思ってしまう。

教育ツール

 内科の医師は日本と同じようにポケット版のマニュアル本を使用しているようだ。カンファレンスも教育的なものから各科のDutyのものまであり,日本と同じような雰囲気であった。各病院,各科ごとでもマニュアルが作成されているようで,学習に非常に役立つ内容のものもあった。麻生飯塚病院(2833号参照)と同じような共有スライドも大量に作成されており,閲覧が可能となっている。このようなツールがデジタル管理され,迅速に教育に生かされているのは時代の流れだと実感した。IT技術の進歩は世界中の医学教育現場に等しく大きな影響を与えている。

サムスン医療院の院内携帯。スマートフォンだ。 サムスン医療院の循環器のポケットマニュアル。非常に秀逸であった!!

韓国医療の現場

 患者はほとんどがソウル市内の大規模病院への受診を希望しており,常に患者でごった返している。一方で,地方には規模が小さな病院しかない。この医療格差が非常に大きく,日本とは社会保障の面で異なる部分があるのではないかと思う。日本でも中央志向はあり,地方で医師不足が叫ばれているとはいえ,実際にはそれなりに分布している。日本,韓国ともに良し悪しはあるが,これからの医療は世界各国の医療現場をお互い参考にしながら行っていかなくてはならないと感じた。

韓国の研修医からのメッセージ

 最後に韓国の研修医からのメッセージを紹介しよう。

 「韓国では研修病院の選択の際に大学の関連施設に行くことが多いので,そこは日本とは異なる部分だね。専門科では,米国の傾向と同じく眼科や皮膚科が人気。研修医の生活はかなり大変で,特に1年目は2日に1回の割合で当直なんだ。研修の最初が大変なのは,世界中変わらないかもしれないね。韓国の医学教育もどんどん発展しているけど,今後さらに進歩していく必要があると思っている。日本との交流は盛んで,多くの日本の医師が年中韓国に来ているのでぜひ皆さんも遊びに来てください」

特徴

個人的な印象だが,兵役の影響が日本との違いを生んでいると感じた。兵役が自分の義務を果たすという韓国医師の芯の強さを形成しているのではないだろうか。中央集約的な病院では,大規模臨床と最先端の研究が行われており,ここに行けば最高の医療を受けられるのではないかという強い期待感を抱かせる。このほか,出会ったどの医師も熱い思いを持っていたことも,韓国のカラーだと思う。

日本への思い

韓国では少数の最先端病院に資源を集約し,日本より進んだ技術を持ち,大規模な臨床試験を行う医療現場があった。また,さまざまな欧米の病院とのコラボレーションが行われていることが見学からうかがえた。見学でお世話になった韓国の医師たちは皆フレンドリーで,われわれ日本の医師も一緒に学んでいけるのではないかと感じた。日本の医師も良い医療環境の構築に向けて頑張っているが,さらに「頑張ろう,日本」と,感じさせられる見学であった。

つづく


水野 篤
2005年京大医学部卒。神戸市立医療センター中央市民病院にて初期研修,聖路加国際病院にて後期研修。同院内科チーフレンデントを経て,現職。今年も研修に役立つことをどんどん発信していきたいと思っています。読者とのコラボレーションも大歓迎です!!

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