医学界新聞

連載

2012.02.06

もう膠原病は怖くない!
臨床医が知っておくべき膠原病診療のポイント

◆その9◆
全身性強皮症

高田和生(東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 准教授)


2960号よりつづく

 膠原病は希少疾患ですが,病態はさまざまな臓器におよび,多くの患者で鑑別疾患に挙がります。また,内科でありながらその症候は特殊で,多くは実際の診療を通してでなければとらえにくいものです。本連載では,膠原病を疑ったとき,膠原病患者を診るとき,臨床医が知っておくべきポイントを紹介し,膠原病専門診療施設での実習・研修でしか得られない学習機会を紙面で提供します。


 今回は,全身性強皮症(Systemic sclerosis;SSc)の考え方と診療におけるポイントを学びます。

(?)限局性強皮症と限局型全身性強皮症は同じ?

 強皮症(Scleroderma)には,SScのほか,限局性強皮症(Localized scleroderma)も含まれます(図1)。

図1 強皮症の分類(Semin Arthritis Rheum. 2011[PMID:22169458]より改変)
*斑状強皮症と線状強皮症の頻度分布は小児と成人で異なり,小児では線状強皮症が主体(約3分の2),成人では逆となる。

 後者は,前者より発症年齢がやや低く(20-40代),レイノー現象や内臓臓器病変合併はまれであり,生命予後は良好です。なお,後述する限局型全身性強皮症とは大きく異なるので整理して理解する必要があります。

(!)全身性強皮症の限局型とびまん型:単なる皮膚硬化の範囲による違いではない

 全身性強皮症(日本における推定患者数1万人弱)は,皮膚硬化の範囲により限局型全身性強皮症(Limited cutaneous systemic sclerosis;lcSSc)とびまん型全身性強皮症(Diffuse cutaneous systemic sclerosis;dcSSc)に分けられ,両者は自己抗体や発症経過,内臓臓器病変合併頻度など,さまざまな点で異なります()。さらに,全身性強皮症に伴う自己抗体や内臓臓器病変,レイノー現象などを伴いながら皮膚硬化をみないSystemic sclerosis sine scleroderma(sineは英語のwithoutを意味するラテン語)もまれに経験されます(図1)。なお,CREST症候群はlcSScと同義ではなくその亜型です(“C”のcalcinosisを伴う症例はまれ)。

 全身性強皮症の亜型と内臓臓器病変合併頻度(Mod Rheumatol. 2011[PMID:21874591]より改変)

※消化器病変は半数では無症候性。罹患率は食道>小腸>大腸。小腸病変による吸収不良は10-30%でみられ,また少数例は偽性腸閉塞症(小腸または大腸病変による)を繰り返す。

(!)dcSScとlcSScは,皮膚硬化とレイノー現象の発症時期との関係で識別可能

 dcSScは皮膚病変とレイノー現象がほぼ同時期に発症し,皮膚硬化は当初5年程度かけて進行しピークを迎えた後は,緩徐ですが軟化傾向となります(図2)。よって,当初の硬化速度とピークの程度が低い場合は,その後の軟化によりほぼ肉眼的には正常に近い皮膚に戻る場合もあります。内臓臓器病変が出現するのも当初5年程度ですが(肺高血圧症を除く),それらは皮膚病変ピーク後も進行します。

図2 全身性強皮症の亜型と皮膚病変の経過との関係(文献1より改変)

 一方,lcSScは皮膚病変を認識するはるか以前よりレイノー現象が始まります。そして皮膚硬化はdcSScと異なり進行性ですが,非常に緩徐です(図2)。

(!)強皮症の治療は,抗炎症・免疫抑制療法による閉塞性血管病変や線維化形成の制御と,血管拡張療法

 全身性強皮症の病態には,下記の3つの特徴があります。

(1)病変における線維化
(2)罹患臓器の多くにみられる閉塞性血管病変(好中球ではなくリンパ球浸潤が主体で,内膜過形成を伴い内腔狭窄を来す)
(3)炎症・自己免疫病態(自己抗体産生,他の自己免疫疾患の合併や家族歴)

 (3)が(1)(2)に先行する一方で,(1)(2)が(3)の維持に寄与するなど,これらの複雑な相互関係により病態が形成・維持されていると考えられています。したがって,治療も以下のようにまとめられます。

(1)に対する治療
既成の線維化病変に対する有効な治療法はまだない。
(2)に対する治療
既成の血管病変に対しては血管拡張療法が主体(皮膚潰瘍,指尖壊疽,肺高血圧症,強皮症腎)。
(3)に対する治療
抗炎症・免疫抑制治療により,(1)や(2)の形成・進行を制御する[皮膚(後述),間質性肺炎,心筋病変]。
その他
消化管病態に対しては対症療法が主体。

(?)皮膚硬化は免疫抑制治療に非常によく反応する?

 皮膚病変に対する治療を要するのはdcSScですが,前述のようにほとんどの症例で皮膚硬化が5年程度でピークを迎えた後緩徐軟化するため,治療の有効性の評価には,無作為割付プラセボ対照試験が欠かせません。しかし,そのような形で評価された治療法は,シクロホスファミド(小さいながら有意差あり),メトトレキサート(複数試験あるが結果は一定せず),D-ペニシラミン(有意差なし)に限られます。糖質コルチコイド(glucocorticoid;GC)は,プラセボ比較試験で評価されていませんが,浮腫期には効果があります。ただ,後述する強皮症腎クリーゼ(scleroderma renal crisis;SRC)のリスク上昇との関連があるため,使用においてはできる限り低い用量にとどめることが推奨されています。

(!)全身性強皮症に合併する間質性肺炎の半数が進行性,治療はシクロホスファミドパルス療法が主体

 高分解能CTでは,SSc患者の75%に間質性肺炎(Interstitial pneumonia;IP)(70%以上がNSIPパターン)を認め,その半数が進行性(急速進行例はまれで,ほとんどは緩徐に進行)です。進行性の予測はKL-6値や気管支肺胞洗浄所見をもってしても難しく,定期的評価にて経過を追いつつ判断する必要があります。

 他の膠原病合併IPで用いる高用量GCも効果がありますが,後述するSRCリスク上昇との関連があるため積極的に使えず,免疫抑制薬が治療の主体となります。プラセボ対照試験にてシクロホスファミドの経口投与の有効性が(小さいものの)示されていますが,実際には安全性への懸念から同薬のパルス療法が用いられることが多いです。

(?)ステロイド治療と強皮症腎クリーゼには直接的な因果関係がある?

 SRCはdcSScの早期合併症(欧米ではdcSScの15%,日本では8.2%)で,まれに血圧上昇を伴わないこともあります。治療はACE阻害薬(可能な限り高用量)が主体で(ARBはACE阻害薬に劣る),他の降圧薬も併用して血圧上昇をコントロールする必要があります。たとえ数か月間透析依存状態が続いても,離脱できる症例もあります。

 複数の後ろ向き研究データより,高用量GC(プレドニゾロン換算15 mg/日以上)はSRCのリスク上昇と関連があることが示唆されており,dcSSc患者では使用をできる限り控えるよう推奨されています。しかし,SRCはそもそも皮膚硬化進行速度の大きな症例で発症リスクが高く,そのような症例でGCが皮膚硬化進行制御目的で使われることが多いことから,GCとSRCリスク上昇との関係は,直接的な因果関係ではない可能性もあります。臨床現場では,筋炎,心外膜炎,IPなどを対象に,GCが注意しながら使用されています(dcSSc症例の49%でGC使用)。

つづく

文献
1)WigleyFM, et al. Clinical features of systemic sclerosis. In: Hochberg MC, et al, editors.Rheumatology, 3rd ed. Mosby; 2003.

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