シェーグレン症侯群/多発性筋炎・皮膚筋炎(高田和生)
連載
2012.01.09
もう膠原病は怖くない!
臨床医が知っておくべき膠原病診療のポイント
◆その8◆
シェーグレン症侯群/多発性筋炎・皮膚筋炎
高田和生(東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 准教授)
(2956号よりつづく)
膠原病は希少疾患ですが,病態はさまざまな臓器におよび,多くの患者で鑑別疾患に挙がります。また,内科でありながらその症候は特殊で,多くは実際の診療を通してでなければとらえにくいものです。本連載では,膠原病を疑ったとき,膠原病患者を診るとき,臨床医が知っておくべきポイントを紹介し,膠原病専門診療施設での実習・研修でしか得られない学習機会を紙面で提供します。
今回は,シェーグレン症候群(Sjögren's Syndrome; SS)および多発性筋炎(Polymyositis; PM)・皮膚筋炎(Dermatomyositis; DM)の診療におけるポイントを学びます。
■シェーグレン症侯群
(?)SS患者の多くは若年で発症する?
SSの主体は涙腺・唾液腺における慢性炎症であり,緩徐に腺機能低下が進み,40-60代で眼・口腔乾燥症状が出現します。経過中,急性反復性または慢性持続性の耳下腺・顎下腺腫脹を来すこともあります。
患者の70%はこのように涙腺・唾液腺に病変が限局し,緩徐進行型の経過をたどりますが,20%はそれに加えて関節,皮膚,腎,肺,血球,神経などの腺外臓器病変を合併します。また,早期から低補体血症や微小血管炎を呈し,悪性リンパ腫合併率が比較的高い患者も少数います。
(?)眼・口腔乾燥症を来し得る原因はSS以外には少ない?
表1にSS以外で眼・口腔乾燥症を来し得る原因をまとめました。問診・診察により鑑別が容易なものが多く,涙腺や小唾液腺生検を必要とする場合は多くありません。
表1 シェーグレン症候群以外の,ドライアイ,ドライマウスを来し得る原因 |
*角膜の表面は,内側からムチン層(角結膜上皮細胞などから分泌されるムチン),水液層(涙腺より分泌される涙液),油層(マイボーム腺より分泌される油)の3層より成る涙液層で覆われており,いずれが障害されてもドライアイを来す。 |
(?)ミクリッツ病はSSの亜型?
無痛性の両側涙腺・耳下腺・顎下腺の腫大が特徴のミクリッツ病は,従来SSの亜型だとされていましたが,抗SS-A/SS-B抗体陽性率が低く,ステロイド反応性が高いという点でSSと臨床像が異なり,さらに高IgG4血症・病変へのIgG4陽性形質細胞浸潤を認め,現在はIgG4関連疾患の一つと認識されています。
(!)SS患者は眼・口腔以外にも乾燥症を来す
SS患者は皮膚,膣,気道などにも乾燥を来します。気道乾燥症を来した場合には乾性咳嗽を呈し,高分解能CTにて気道壁肥厚を認め,コリン作動薬が有効な場合があります。
(!)SS患者の悪性リンパ腫相対リスクは健常人の16-44倍
悪性リンパ腫は,SSの経過中に低補体血症,クリオグロブリン血症,微小血管炎(SSの15%に見られ,皮膚に限局)を呈する患者に多く,そのような場合注意が必要です。通常節外性リンパ腫であり,唾液腺が50%,ほか消化管,肺,皮膚などに出現し,緩徐に進行するMALTリンパ腫が大多数です。ただ,数年の経過を経てびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に形質変換し,急速に進行する場合もあります。
(!)口腔乾燥による,白苔を伴わない口腔カンジダ症の合併に注意
腺外臓器病変に対しては免疫抑制治療が主体となりますが,眼・口腔乾燥症には効果がなく,対症療法となります。眼に対しては,涙の補充(人工涙),涙の排出抑制(涙点プラグ等),涙の蒸発防止(眼鏡フレームへのフード装着)により,症状軽減とともに角膜損傷を防ぎます。口腔に対しては,唾液の分泌促進(コリン作動薬)や唾液の補充(人工唾液)がありますが,口腔乾燥の緩和には難渋し,う歯や口腔カンジダ症の合併に注意が必要です。後者は舌・口腔粘膜痛を来し,白苔を伴わず,赤色舌や硬口蓋の紫斑にて発症する場合もあります。Bリンパ球標的治療が眼・口腔乾燥症を改善することを示唆する報告があり,開発が期待されます。
■多発性筋炎・皮膚筋炎
(?)PM・DMでは筋痛は必発である?
PM・DMでは,数週から数か月の経過で四肢近位筋が障害され,病歴ではしゃがみ立ちや車の乗り降り,整髪の際の上肢挙上困難等が聴取されます。また,50%で頸部屈筋群も侵され,40%で咽頭筋の障害により嚥下困難を来す一方,筋痛は25-50%程度しか呈さず,呼吸筋や心筋の障害はまれです。
(?)PMとDMは,皮膚病変の有無が異なるだけの同一疾患である?
DMには,皮膚病変が筋病変に先行する場合や,皮膚病変のみを呈する場合(皮膚限局型DM)がありますが,筋病変に遅れて皮膚病変が出現する,つまり当初PMと診断された症例が後にDMに形質変換することはほとんどありません。PMとDMは筋病理,悪性腫瘍合併の相対リスク(健常人に比してPMで2,DMで3-4),合併する間質性肺炎(IP)の治療反応性も異なり,別の疾患として考えられています。
(?)PM・DMの確定診断方法は筋生検である?
PM・DMを疑った場合の初期評価は,(1)筋炎の存在の確認[病歴・診察・検査(筋逸脱酵素・筋電図・MRIなど)],(2)鑑別疾患の除外,(3)筋・皮膚外臓器病変(特にIP)合併の有無の評価,(4)悪性腫瘍合併の有無の評価,の4過程に分けられます。
では筋生検はどの過程に含まれるのでしょう? PM・DMの筋病理所見は特異度が低く,確定診断には至りません。むしろ筋生検の最大の目的は鑑別疾患の除外であり,実際,遅発性筋ジストロフィー疾患の一部や糖原病のポンペ病などはPMと同様な発症経過をとり,筋生検によらないかぎり除外できません。したがって,特異的な皮膚所見を呈し臨床的にDMが強く疑われる場合を除き,可能な限り筋生検を行うことが推奨されます。
(!)筋炎で見られる自己抗体には,IPや悪性腫瘍合併,治療反応性と相関するものがある。
筋炎特異的自己抗体は全症例の40%程度でしか見られず,診断においては参考程度にしかなりません。一方,IPや悪性腫瘍の合併,治療反応性などに相関する抗体が発見され(表2),臨床応用が期待されます。
表2 筋炎特異的自己抗体 |
*抗Jo-1抗体はヒスチジンのtRNA合成酵素が抗原だが,他のアミノ酸のtRNA合成酵素を抗原とする抗体もある。 |
(?)PM・DMはステロイド反応性が高い?
PM・DMの治療は,リリーバーとして高用量ステロイド(パルス療法を含む)とγグロブリン大量静注療法が,コントローラーとしてメトトレキサート,アザチオプリン,シクロスポリンなどが用いられます。標準的初期治療は高用量ステロイドですが,PMでは50%が抵抗性であり,DMでは当初87%が良好な反応を示すものの,そのうち92%が漸減中に再燃するため,コントローラーの追加や,場合によっては再度リリーバーを必要とします。長期的には,DMには一部単周期性の症例もありますが,大多数が慢性持続性または多周期性の経過をとり,長期にわたりコントローラーを必要とします。
(!)DMに合併するIPは治療抵抗性で生命予後不良
PM・DMの30-40%が合併するIPのステロイド反応性は原病のそれと逆で,PM合併IPは90%がステロイド反応性で生命予後も良好ですが,DM合併IPは50%以上が抵抗性であり,その中には急速進行性で短期死亡率の高い亜群も含まれます。したがって,DM合併IPでは,重症度が高い場合や発症後進行が早い場合には,初期治療開始時からの免疫抑制薬(シクロスポリン,タクロリムス,シクロホスファミド)併用が推奨されます。
(つづく)
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