医学界新聞

連載

2010.02.08

ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

[ アドバンスト ]

〔 第11回 〕

各科コンサルテーションへの対応(4)脳外科領域の発熱の考えかた

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回からつづく

 今回は脳外科領域の発熱へのアプローチです。この領域の難しさは,患者とのコミュニケーションが困難なケースが多くアセスメントが行いにくいことにあります。発熱がないいきなりのショック状態もあるため,バイタルサインのわずかな変化に注目しFever workupをためらわないでください。また,3つの主要合併症〔人工呼吸器関連肺炎,DVT(深部静脈血栓症)/肺塞栓,ストレス潰瘍による消化管出血)のリスク評価も大切です。


■CASE

ケース(1) 高血圧の80歳男性。頭痛,嘔吐,右片麻痺でER受診し左視床出血の診断で入院加療となった。入院時,グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)E4V5M5。ICU入室翌日に意識レベル低下(E1V1M3)し,頭部CTフォローで脳室穿破しており緊急血腫除去術および脳室ドレーン挿入となった。入院5病日に発熱あり。降圧目的でニカルジピン持続静注,H2ブロッカーによるストレス潰瘍予防を行っている。セファゾリン1g×2/日投与継続していたが,微熱継続およびバイタルサイン異常のためコンサルト。診察所見:発熱時のバイタルサイン:体温37.2℃,血圧120/50mmHg,心拍数120/分・整,呼吸数20/分,SpO298%(RA),口腔内汚染および胸部背側に水泡音あり,四肢冷汗・チアノーゼ・浮腫なし,褥瘡・septic spotなし。現在のルートは末梢・中心静脈ライン,動脈ライン,脳室ドレーン,経鼻胃管と尿カテーテル。ドレーンからのCSFはやや濁っている。→何を発熱の原因として考え,どのようにアプローチするか?
ケース(2) 肺気腫の既往のある60歳男性。くも膜下出血にて準緊急クリッピング術を受けた。周術期にセファゾリンを投与。術後3日目から37-8℃の発熱が持続。気道確保目的で気管内挿管され,ADLは寝たきりで応答なし。発熱評価でコンサルト。現在はチアミラールによる抗痙攣・脳圧亢進予防療法およびニカルジピン持続静注,H2ブロッカーでストレス潰瘍予防を行っている。診察所見:発熱時のバイタルサイン:体温37.8℃,血圧100/60mmHg,心拍数110/分・整,呼吸数20/分,SpO294%(O23L),GCS E1V1M3,項部硬直・口腔内汚染あり,心音正常,両肺野ラ音なし,腹部は平坦・軟,腫瘤なし,四肢:冷感・チアノーゼあり,浮腫はない,褥瘡・septic spotなし。現在のルートは経鼻胃管,末梢・中心静脈ライン,動脈ラインと尿カテーテル。→何を発熱の原因として考え,どのようにアプローチするか?

抗菌薬の髄液移行性
 脳外科術後の感染症では,髄液移行性および投与量を常に考慮して治療にあたる必要があります。皮膚表面の常在菌をターゲットとする術前予防投与では,第1,第2世代セフェムは使用可能ですが,脳室炎や髄膜炎などの中枢神経系感染症を発症した場合には,常に髄液移行性を考慮した抗菌薬選択・投与量設計を行う必要があります。

髄液移行性を考慮した抗菌薬の標準投与量(腎機能正常の場合)
アンピシリン2g×6,セフトリアキソン2g×2,セフォタキシム3g×4,セフタジジム2g×3,セフェピム2g×3,メロペネム2g×3,バンコマイシン15-30mg/kg×2,リネゾリド600mg×2。

術後髄膜炎
 脳外科領域でまず問題となる感染症です。頭部外傷や脳腫瘍術後で頻度が高く,起因菌は術前予防投与(セファゾリンなど)の影響を受け,大腸菌,クレブシエラ,緑膿菌などのグラム陰性桿菌が多いため,まずこれらを確実にカバーします。次いでMRSAも問題となります。また鼻腔・咽頭との交通がある場合,肺炎球菌,インフルエンザ桿菌も問題となります。

 術後7-10日以内の発症が多く,市中発症の細菌性髄膜炎と同様に症状は発熱,頭痛,嘔気・嘔吐,項部硬直などです。術後の意識状態が悪い場合,わずかなバイタルサインの異常(血圧低下,頻脈や頻呼吸など)が発症早期のサインとなることもあります。

 鑑別が必要な疾患に無菌性髄膜炎である化学性髄膜炎があり,高熱,頻脈,頻呼吸など同様の症状を起こします。手術時の血液成分などの髄膜刺激によって起こるとされ,細菌性髄膜炎と同様の経過をたどります。髄液検査での白血球増多,低血糖,タンパク質増加は両者にみられるため,これらの病態を明確に鑑別できる検査はなく,最終的には髄液培養で後向きにしか診断が下せない点が重要です。そのため,治療はエンピリックに開始せざるを得ず,髄液一般・培養と血液培養を含めたFever workup3点セット(連載第6回参照)を必ず提出し,第3世代セフェムないし耐性菌の可能性がある場...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook