医学界新聞

連載

2010.03.08

ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

[ アドバンスト ]

〔 第12回(最終回) 〕

内服抗菌薬を使いこなす! アドバンスト

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回からつづく

 最終回となる今回は,「第2回:内服抗菌薬を使いこなす!――5つの内服抗菌薬」をさらに発展させ,入院マネジメントが必要な感染症での内服抗菌薬の使用法と,“内服抗菌薬スイッチ”について解説します。


■CASE


ケース(1) ADL自立の60歳男性。重喫煙者で肺気腫の指摘あり。2日前からの発熱,呼吸苦,喀痰増量でER受診。診察で39℃の発熱,酸素3L投与下でSpO295%,右肺野にラ音聴取。胸部X線で右上肺野浸潤影あり。喀痰グラム染色でグラム陰性小桿菌,白血球多数。抗酸菌染色陰性。尿中肺炎球菌・レジオネラ抗原陰性。市中肺炎の診断で入院加療となり,セフトリアキソン2g/日とミノサイクリン200mg/日の点滴静注にて治療開始。3日目になり,呼吸状態は著明に改善し,解熱,食事摂取可能となった。→内服抗菌薬スイッチは可能か?
ケース(2) ADL自立の50歳女性。前日からの発熱,腰部痛,排尿時痛でER受診。膀胱炎の既往あり。悪寒戦慄を伴う38℃の発熱と左腰部のCVA叩打痛あり。尿グラム染色で白血球多数,グラム陰性菌貪食+。急性腎盂腎炎の診断で入院加療となり,セフトリアキソン2g/日で治療開始。治療2日目に37℃台まで解熱,全身状態改善し,食事摂取可能となった。尿培養で大腸菌陽性だが,まだ感受性結果は出ていない。→内服抗菌薬スイッチは可能か?
ケース(3) ADL自立の糖尿病既往のある55歳男性。3日前より右足背から第2足趾にかけて発赤,腫脹,熱感がありER受診。診察上,右足背から第2足趾にかけて4×4cm大の紅丘疹あり。蜂窩織炎の診断にて入院加療。セファゾリン2g×3/日で治療開始。治療2日目に解熱し3日目には局所の腫脹・熱感もひいてきた。患者は食事可能であり,退院を希望している。血液培養も含め,各種培養陰性。→内服抗菌薬スイッチは可能か?

内服抗菌薬スイッチとは何か
 今まで使用していた経静脈投与の抗菌薬を,内服投与に変更することを「内服抗菌薬スイッチ」といいます。近年,入院加療が必要な重症感染症(敗血症性ショック含む)の診断・治療の改善に伴い,内服抗菌薬スイッチは世界的に推奨されるようになってきました。臨床感染症の診断・治療では,“Surviving Sepsis Campaign 2008”などの重症感染症のガイドラインの登場で全身管理が改善したこと,また,PK/PDに基づく抗菌薬投与の考え方が浸透し,各薬剤の副作用,薬物相互作用の理解から抗菌薬全般,特に内服抗菌薬の理解が進んだことが挙げられます。

 その結果,内服抗菌薬スイッチをうまく行うことで多くのメリットが生まれることがわかってきました。

静注抗菌薬と内服抗菌薬のメリット・デメリット
 静注抗菌薬には,十分な血中濃度・組織濃度を維持でき,状態が悪い患者を即座に治療開始可能,消化管からの吸収を意識する必要がない,というメリットがあります。一方,投与ルート関連の問題(ライン感染,静脈炎)が生じる可能性や入院期間の延長,また投与に要する労力や内服抗菌薬に比べ高価,といったデメリットがあります。

 逆に,内服抗菌薬には,安価,投与ルート問題の回避,労力の軽減,入院期間の短縮といったメリットが,またデメリットには,十分な血中濃度・組織濃度維持のために腸管からの吸収を常に意識する必要性,状態の悪い患者を即座に治療できない,内服アドヒアランスの確認が必要,といったことがあります。

 以上から内服抗菌薬スイッチの利点を考えると,まずルートがなくなることから,院内感染症の発生頻度の低下が挙げられます。そのほか,特にDPC管理下での経費節減やナース・コメディカルの労力軽減による医療の質向上,早期退院の実現,病床稼働率の改善といった多くの利点が,病院・患者の双方に生まれる可能性があります。そのため,静注・内服抗菌薬それぞれのメリット・デメリットを理解し,うまく使い分けることが重要です。

内服抗菌薬スイッチの実際
 内服抗菌薬スイッチを安全に行うためには,用いる抗菌薬の薬物動態と抗菌スペクトラムに対する十分な理解が必須となります。そして,最も想定される起因微生物に対し抗菌活性のある抗菌薬の適切な選択法を熟知し,感染臓器の治療開始後の経過や,地域および病院内での感受性テストの結果,また内服抗菌薬の薬物相互作用・副作用を理解することが必要です。

 入院加療が必要な重症感染症では,十分な効果を早期に発揮させるため静注抗菌薬で治療を開始します。適切な全身管理が行われ抗菌薬が有効な場合には,概ね治療開始後48-72時間で解熱・全身状態の改善が得られます。そのため,血行動態が安定し,腸管からの抗菌薬の吸収に問題がない状態となったときが内服抗菌薬スイッチのタイミングとなります。

 実際には,次の4点を確認した上で内服抗菌薬スイッチを行います。

(1)患者の全身状態(バイタルサイン安定,局所所見の改善)
(2)消化管機能の改善(腸管からの吸収は可能か)
(3)食事摂取が可能
(4)治療開始後の経過が順調

 内服抗菌薬は,表1,2を参考に使用していた静注抗菌薬の抗菌スペクトラムを満たし,Bioavailabilityが良好なものを選択します。また,入院が必要となる市中感染症の起因微生物については,表3を参照してください。

表1 静注抗菌薬・内服抗菌薬の対照例

表2 Bioavailabilityが良好な内服抗菌薬

表3 入院が必要となる市中感染症の起因微生物

ケースをふりかえって
ケース(1) 市中肺炎の約半数は起因菌不明です。一方,グラム染色からはインフルエンザ桿菌が疑われます。ここでは,表3での起因微生物を外さないように抗菌薬を選択することで,内服抗菌薬スイッチが可能です。抗菌スペクトラムを考えて,キノロンではレボフロキサシン,モキシフロキサシン。結核のリスクがある場合は,ドキシサイクリンやミノサイクリン,ST合剤が選択肢になります。
処方例:レボフロキサシン500mg1T×1,モキシフロキサシン400mg1T×1,ミノサイクリン100mg1T×2,ドキシサイクリン100mg1T×2,ST合剤2T×2

ケース(2) 急性腎盂腎炎のケースであり,大腸菌が起因菌と判明しています。その地域での大腸菌の感受性も重要となりますが,十分な投与量で腎臓・尿中濃度を高く保てるため,レボフロキサシン,シプロフロキサシン,ST合剤が選択肢になります。感受性判明後,de-escalationを行っていきます。
処方例:レボフロキサシン500mg1T×1,シプロフロキサシン200mg2.5T×2,ST合剤2T×2

ケース(3) 糖尿病患者での蜂窩織炎のケースですが,セファゾリンが奏効しているため第1世代セフェムからのスイッチとなります。内服の第1世代セフェムないしテトラサイクリン系へのスイッチが可能です。
処方例:セファドロキシル250mg2T×2,セファレキシン250mg1T×4,ミノサイクリン100mg1T×2

Take Home Message

●静注・内服抗菌薬のスペクトラムを十分に理解し,抗菌薬スイッチ可能な抗菌薬を常に頭に入れる。
●Bioavailabilityの良好な内服抗菌薬を使いこなす。
●入院後の経過から内服抗菌薬スイッチ可能かどうかを常に臨床判断できるようにする。

(おわり)

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