医学界新聞

連載

2010.01.11

ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

[ アドバンスト ]

〔 第10回 〕

各科コンサルテーションへの対応(3)腎臓内科での発熱の考えかた(2)

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回からつづく

 今回は,透析患者ならではの感染症である“血液透析ブラッドアクセス感染症”,“CAPDカテーテル関連腹膜炎”へのアプローチを考えます。


■CASE

ケース(1) ADL自立した74歳の男性。糖尿病性腎症による慢性腎不全にて左前腕内シャント作成の上,週3回血液透析中。昨日透析を行ったが帰宅後から40℃の高熱,悪寒戦慄ありER受診。頭痛,呼吸苦,咳嗽,腹痛,関節痛なし。既往に糖尿病,高血圧。内服はアスピリン,シロスタゾール,シメチジン,アムロジピン,ビタミンD,カルシウム製剤。身体所見:体温39.5℃,心拍数120/分,呼吸数30/分,血圧100/60mmHg,全身状態:きつそう,頭目耳鼻喉:問題なし,心臓:I・II音正常,雑音なし,胸部:ラ音なし,腹部:平坦・軟,圧痛なし,肝脾腫なし,CVA叩打痛なし,四肢:皮疹なし。内シャント部分の発赤,熱感あり。検査データ:Ht 27%,白血球1万2500/μL(好中球72%,桿状球19%,リンパ球3%,6%単球),血小板12×104/μL,CRP12mg/dL,電解質正常,肝機能正常,胸部X線:浸潤影(-),尿一般:無尿であり検査不可能。→診断・治療方針は?
ケース(2) ADL自立した64歳の男性。糖尿病性腎症による慢性腎不全にてCAPDカテーテルを留置し,腹膜透析を毎日行っている。前日,透析液注入時に不潔操作となった。本日朝から嘔気・嘔吐,腹痛,下痢の訴えあり,症状軽快しないため夕方にER受診。頭痛,呼吸苦,咳嗽,関節痛なし。既往に高血圧,二次性副甲状腺機能亢進症,脳梗塞後遺症があり,アスピリン,ランソプラゾール,シナカルセト,セベラマー,エナラプリル内服している。身体所見:体温37.6℃,心拍数90/分,呼吸数12/分,血圧150/60mmHg。全身状態:腹部を痛がっている,頭目耳鼻喉:問題なし,心臓:I・II音正常,雑音なし,胸部:ラ音なし,腹部:平坦・軟,圧痛びまん性にあり,肝脾腫なし,CVA叩打痛なし,四肢:皮疹なし。検査データ:Ht 26%,白血球8500/μL(好中球80%,桿状球10%,リンパ球4%,単球6%),血小板20×104/μL,CRP2.5mg/dL,電解質正常,肝機能正常,胸部X線:浸潤影(-),PD排液:白血球800/μL,グラム染色所見なし。→診断・治療方針は?

血液透析ブラッドアクセス感染症

1.総論
 血液透析ブラッドアクセスには,(1)UKカテーテルによる一時的ブラッドアクセス(内頸,大腿静脈に短期・長期留置),(2)人工血管,自己血管による永久的ブラッドアクセス(内シャント)があります。感染の頻度は一時的ブラッドアクセス>人工血管>自己血管の順になります。これらの感染は血液透析患者の菌血症の50-80%に上るといわれるため,感染をいかに診断・治療・予防するかは血液透析患者のケアで重要な部分を占めます。

2.臨床症状と徴候
 カテーテル操作直後(透析開始時・終了時)の発熱,悪寒戦慄の場合,感染を疑います。またブラッドアクセス部分の発赤,圧痛,浸出液には注意が必要です。しかし,局所所見を伴わない場合もあり,感染部位がみつからない・はっきりしない場合でも発熱時には感染を常に考慮することが大切です。

ブラッドアクセス関連血流感染:全身症状(発熱,悪寒戦慄)+敗血症。
出口部感染:カフなしカテーテル・カフ付皮下埋め込み型カテーテルの刺入部の局所炎症所見(発赤,痂皮形成,排膿)±全身症状(発熱,悪寒戦慄)。
トンネル感染:カフ付皮下埋め込み型カテーテルの皮下トンネル内の感染でカフ刺入部から静脈までに圧痛,腫脹,発赤および出口部から排膿。

3.起因菌と検査・治療・予防
 皮膚常在菌と院内感染症で問題になる微生物が起因菌となるため,グラム陽性球菌,グラム陰性桿菌が問題となります。また中心静脈ライン併用のブラッドアクセスの場合,真菌が問題になることもあります。

 検査は,血液培養2セット(ブラッドアクセス,末梢静脈に各1セット)と局所排膿時の膿グラム染色・培養が最も大切です。また一時的ブラッドアクセス感染を疑って抜去する場合は,カテーテル先端培養を追加します。

 一時的ブラッドアクセスの場合,(1)抗菌薬全身投与+カテーテル抜去(敗血症では必ず抜去),(2)抗菌薬全身投与+抗菌薬ロック(Antibiotic-lock),の2つが治療のオプションとしてあります。抗菌薬ロックを透析後に行うことで一時的カテーテルのサルベージを図り,短期的には表皮ブドウ球菌で75%,グラム陰性菌で87%,黄色ブドウ球菌の40%でカテーテルを温存できるとされています。しかし,耐性菌誘導や長期的な予後はまだ不明です。

 一方,永久的ブラッドアクセスの場合,刺入部の感染徴候の有無で以下の治療メニューとなります。

あり:抗菌薬投与+そのブラッドアクセスは使用せず,早期閉鎖考慮。
なし:抗菌薬投与のみで治療開始。

 しかし,血行動態が悪く,敗血症が疑われる場合は一時的・永久的を問わず抜去・早期閉鎖を考慮する必要があります。

発熱のみで全身状態・血行動態が安定
 血液培養2セット採取し,他の感染部位の検索を行うとともに,培養結果が出るまでバンコマイシン投与を考慮。
重症敗血症,敗血症性ショック
 ブラッドアクセス抜去ないし閉鎖術を行い,培養結果が出るまでバンコマイシン+セフェピム±アミノ配糖体投与開始。
重症敗血症,敗血症性ショックで高カロリー輸液
 ブラッドアクセス抜去ないし閉鎖術を行い,培養結果が出るまでバンコマイシン+セフェピム+ミカファンギン投与開始。

 治療開始48-72時間後に,血液培養陽性持続もしくは臨床的な改善がみられない場合,合併症として,敗血症性血栓性静脈炎,敗血症性肺塞栓症,感染性心内膜炎(IE),骨髄炎,眼内炎(特にカンジダ真菌血症の場合),を考える必要があります。

 予防の大原則は,一時的カテーテル使用期間の短縮,大腿静脈カテーテルの使用制限,カテーテル取り扱い時(透析開始・終了時)の清潔操作の徹底です。また,内シャントの透析患者は特別な血行動態ですので,菌血症リスクがある医療処置(歯科処置,尿路処置)の前後では,IE予防に準じた抗菌薬予防投与を考慮しても良いと考えます。

CAPD腹膜炎

1.症状と臨床徴候,診断
 CAPD(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis)腹膜炎は表の3項目中2つ以上満たす場合に診断します。

 またCAPD腹膜透析中の患者が発熱した場合,CAPD腹膜炎の可能性とともに他の感染フォーカスの検索も行います。症状・徴候として,特に原因のない全身倦怠感,また嘔気・嘔吐,便秘・下痢といった消化器症状がある場合,積極的に疑う必要があります。

2.起因菌と治療,予防
 CAPD腹膜炎はカテーテル感染のため,起因菌はブラッドアクセス感染と類似します。二次性腹膜炎との鑑別が重要ですが,CAPD腹膜炎は単独菌感染が基本のため,二菌種以上分離,嫌気性菌分離の際に二次性腹膜炎(消化管穿孔)を考えることが大切です。

 治療は,軽症で抗菌薬腹腔内投与,中等度から重症では抗菌薬の経静脈投与が基本となります。

 選択すべき抗菌薬は,ブドウ球菌カバーとして,セファゾリンないしバンコマイシン(MRSA分離が多い施設),緑膿菌カバーとして,セフタジジム,メロペネム,アミノ配糖体,アズトレオナムなどです。しかし,特に自尿が100mL/日以上の腹膜透析患者では,アミノ配糖体は腎機能保持のため避けたほうが無難です。また,腹膜炎発症時以外で無菌操作が破綻した場合は,まず黄色ブドウ球菌・表皮ブドウ球菌に感受性がある経口抗菌薬(セファドロキシル,クリンダマイシン,ST合剤,レボフロキサシンなど)を投与し注意深くフォローアップしていく必要があります。

 治療開始後は,症状,PD排液の混濁・細胞数をフォローします。混濁・細胞数は4-5日で,腹膜炎症状は72時間以内で改善するのが典型的な治療経過です。もしこれらの経過をたどらない場合,難治性腹膜炎と考えてカテーテル抜去の必要があります。また,常に二次性腹膜炎や真菌,抗酸菌の可能性も考慮します。治療中は便秘になるため,リン吸着剤内服は控えます。治療期間は,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌で経過良好の場合は14日間,黄色ブドウ球菌,腸球菌,グラム陰性菌の場合は21日間を目安としますが,臨床症状によって適宜調整します。

 予防としては,CAPDカテーテル取り扱い時の清潔操作の徹底,ムピロシン・ゲンタマイシンの出口部塗布,クロルヘキシジンやイソジン液を染み込ませたガーゼによる出口部保護。また鼻腔内ブドウ球菌保菌の場合,毎月5-7日の鼻腔内ムピロシン塗布2回/日,3か月ごとに5日間リファンピシン600mg経口,ST合剤1錠3回/週で除菌,といったオプションがあります。腹膜炎予防には,腸管・婦人科・泌尿器科的処置前にPD液を排液して腹腔内を空にし,菌血症リスクのある医療処置(歯科処置,大腸ポリペクトミー)の前にIE予防に準じた抗菌薬予防投与を行います。

 CAPD腹膜炎の診断

(1)腹膜炎の症状および徴候
 全身倦怠感,悪心・嘔吐,下痢,腹痛
(2)腹腔内液の混濁と腹腔内液細胞数上昇
 白血球>100/μL,多核好中球の割合>50%
(3)グラム染色,培養により細菌陽性
 PD排液(10mL程度)を血液培養ボトルにまく
 ※PD排液50mLを3000gで15分間遠心分離し沈渣を3-5mLの滅菌生理食塩水で懸濁して血液培養ボトルで培養すると陽性率が上昇するといわれている。

(1)-(3)のうち2つ以上を満たす場合,CAPD腹膜炎と診断する。

ケースをふりかえって
 ケース(1)はブラッドアクセス感染が考えられます。透析後からの発熱,悪寒戦慄,局所の発赤・腫脹などが典型的なケースです。

 ケース(2)はCAPDカテーテル関連腹膜炎が考えられます。腹膜透析不潔操作後の消化器症状出現などが典型的なケースです。

Take Home Message

●ブラッドアクセス感染のマネジメントを理解する。
●CAPD関連腹膜炎のマネジメントを理解する。

つづく

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