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取材記事

2026.10.20

日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は2026年10月20日,妊産婦や家族への説明および診療録・各種文書において「異常分娩」「正常分娩」という用語を原則使用しないよう求める留意点を発出した1)。同日,両団体の代表者が厚生労働省を訪れ,上野賢一郎厚生労働大臣および中司宏少子化対策・こども政策担当大臣(こども家庭庁大臣)と面会して方針を報告。これを受け,政府側も出産育児一時金などの関連通知から「異常分娩」の表記を廃し,「保険診療を伴う分娩」などへ速やかに改正する方針を表明した。

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●写真 関沢明彦日本産科婦人科学会副理事長から書状を受け取る上野賢一郎厚労大臣(右から3人目)
左から有村治子参院予算委員長,石渡勇日本産婦人科医会会長,関沢明彦日本産科婦人科学会副理事長,上野賢一郎厚労大臣,中司宏こども政策担当大臣,亀井良政日本産科婦人科学会常務理事。

アンケートで「診療上の支障なし」を確認,「自然分娩」の表現も回避へ

これまで帝王切開や吸引・鉗子分娩などの医療介入は,母児の安全を守るために行われる医療であるにもかかわらず,包括的に「異常分娩」と呼ばれてきたことで,出産を経験した女性に「自身の出産が異常なものであった」との精神的負担や傷つきを与える可能性が指摘されてきた。今回の見直しは,今年5月の健康保険法改正の国会審議において帝王切開などが「異常分娩」として議論されたことに対し,有村治子参議院議員が問題提起したことを端緒として,医療界と行政が連携して検討を進めてきたものである。

10月20日の大臣面会には,日本産婦人科医会の石渡勇会長,日本産科婦人科学会の関沢明彦副理事長,亀井良政常務理事,有村議員らが出席した。関沢副理事長は今年7月に実施した産婦人科医対象のアンケート調査の結果を報告し,「日常診療において『異常分娩』という言葉を使用しないことについて,産婦人科医の多くから賛同が得られた。『異常分娩』という言葉の代わりには,具体的な診断名や実施した処置名を用いることで,診療上の支障は全くないことが確認できた」と説明。「今後は妊産婦等への説明において,『異常分娩』という包括的な言葉を原則使用しない方針を産婦人科医全体に対して発出して,周知していきたいと考えている」と表明した。

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同日付で周知された留意点では,妊産婦や家族への説明や文書において「正常分娩」「異常分娩」という包括語は原則用いず,実際に行った分娩方法や処置名を用いて説明するよう推奨している。また,他の分娩方法を「不自然」と受け取られる可能性がある「自然分娩」という表現についても,経腟分娩の同義語として用いることは避けるよう明記した。あわせて,医学的介入は母児の安全を守るための医療判断であり,本人の努力や出産の価値を評価するものではないと伝わるよう配慮することや,緊急手術・処置時に十分な説明が困難だった場合は産後に経過を振り返り質問・相談の機会を設けることを求めている。さらに同留意点では,診療録や電子カルテ,統計・学術上の記載でも「異常分娩」は用いず,具体的な診断名や処置名を記載することを求めた。

表 推奨される記載・説明の例(文献1より)
場面 推奨する表現例 備考
分娩経路・方法 経腟分娩/帝王切開による出産(帝王切開分娩) 包括語ではなく実際の分娩方法を示す
帝王切開 予定帝王切開/緊急帝王切開 区別が説明上必要な場合に用いる
器械的介助 吸引分娩/鉗子分娩 実施した方法を具体的に示す
陣痛・分娩管理 自然陣痛発来/陣痛誘発/陣痛促進 分娩経路とは別に記載する
鎮痛・手術・処置 無痛分娩(硬膜外鎮痛など)/会陰切開/その他の手術・処置名 必要に応じ,実施した内容を個別に示す
問診票・診療文書 妊娠・分娩時の特記事項/妊娠・分娩中に行った治療・処置 「正常/異常」の選択欄による二分を避ける
制度・費用説明 「○○のために行う治療・処置には,健康保険が適用されます」 保険適用の対象を確認し,具体的な診断名や診療・処置内容を示す
行政・保険制度上の書類等 具体的な診断名,分娩方法,処置名/保険診療を伴う分娩 通知や様式の改正に合わせて表記を改める

行政通知も順次改正の見通し

両団体からの報告を受け上野厚労大臣は,「ご提案をしっかり受け止めたい。出産育児一時金の通知の中に『異常分娩』という用語があり,『保険診療を伴う分娩』など他の表現に速やかに変えていきたいと考えている」と明言した。中司大臣も同様に法令・通知などの行政文書における記載の順次見直しを行う方針を示した。

厚労省が協会けんぽの請求データを分析した結果によると,帝王切開や吸引・鉗子分娩など,全分娩の約8割において自費だけでなく何らかの病名がついて診療報酬が併せて請求されており,行政・レセプト上はこれら全てが「異常分娩」として扱われてきた。こうした実態を踏まえ,厚労省保険局は出産育児一時金関連の通知を速やかに改正し,「正常分娩」を「保険診療を伴わない分娩」,「異常分娩」を「保険診療を伴う分娩」へ改める。また,保険適用の有無とは異なる文脈で用語が使用されている医政局所管の保健師助産師看護師学校養成所指定規則についても順次見直しを検討するなど,関係各所へ対応を呼びかけていく方針だ。


参考文献
1) 日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会.妊産婦等への説明等における「異常分娩」という用語の使用に関する留意点.2026.