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  • がん患者のせん妄を看護する エビデンスと臨床の間で(12)最終回 アルコール離脱せん妄――見落とさない評価と初期対応(野村優子)

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がん患者のせん妄を看護する エビデンスと臨床の間で

――見落とさない評価と初期対応

連載 野村優子

2026.09.08 医学界新聞:第3589号より

 アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)は,長期間・大量に飲酒していた人が急に飲酒量を減らす,または中止した後に起こる重症の離脱症状です。アルコール離脱に伴うせん妄は見逃されやすく,重篤化しやすいため,予防や早期発見のポイントを知ってケアすることが大切です。

 慢性的な飲酒では,中枢神経系がアルコールの抑制作用に適応しています。アルコールを長期間摂取して身体依存している時期に,禁酒もしくは飲酒できなくなって急に中止すると,GABA神経系の抑制作用が低下し中枢神経や自律神経の過剰な興奮を生じることで,退薬症状(withdrawal symptoms)と呼ばれる離脱症状が生じます。症状は大まかに以下に示す通りです1)

早期発症群(小離脱)
離脱後20時間頃を頂点に発症
振戦:手指,上下肢などの粗大な振戦。飲酒中止後,数時間で出現,24時間頃に頂点に達し,次第に消退します。
錯覚・幻覚:幻視が最も多く,幻聴,幻触,幻嗅などを生じることもあります。
けいれん発作:全般けいれん発作が多く,飲酒中止後数時間ないし2日以内に多く,単発または数回出現します。

後期発症群(大離脱)
離脱後72~96時間頃に発症
振戦せん妄:せん妄状態では,軽度の意識障害による意識混濁や意識の変容が起こり,見当識障害や注意障害,幻覚などが生じます。幻覚の中でも幻視が多く,小動物視,こびと幻覚,情景的幻視が特徴的です。

 離脱症状には,アルコールレセプターとベンゾジアゼピン系レセプターが類似していることからベンゾジアゼピン系薬剤を用います。併せてビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症を予防するためビタミンB1やマルチビタミンの静脈内投与による薬物療法が行われます。

 アルコール離脱せん妄は,放置すると脱水,電解質異常,不整脈,誤嚥,外傷などを伴うため全身管理が必要です。脱水や電解質異常はせん妄の原因にもなるため,通常のせん妄なのか,離脱症状によるせん妄なのか,見極めが求められます。離脱症状によるせん妄は小離脱の後に現れる点がポイントです。

 患者が長期にわたって飲酒をしている場合は次の内容(例)を聴取しましょう。

最終飲酒日時:最後にお酒を飲んだのはいつですか。それは何時頃でしたか?

飲酒習慣(飲酒時間,飲酒量,酒類):お酒はいつ飲みますか。晩酌ですか? 朝から飲みますか? 何をどのぐらい飲みますか? それぞれどのぐらいの量を飲みますか?

飲酒期間:お酒は何歳から飲み始めて,何歳まで飲んでいますか?

休肝日の有無:休肝日は1週間に何日ぐらい取っていますか?

 特に飲酒量に関しては,正直に申告すると医療者に責められるのではないかと気にして,実際よりも少なく申告する方もいます。「離脱症状を予防するために,これから尋ねる飲酒状況についてできるだけ正確に教えてください。飲酒量が多くても責めることはありませんのでご協力ください」など,さまざまな可能性を念頭に置いて聴取することが大切です。

 看護師は,飲酒量,最終飲酒日時などの飲酒状況を患者や家族から聴取し,離脱症状のリスクの評価,早期対応が重要なウェルニッケ脳症による症状(意識障害,眼振や眼球運動の制限で見られる眼球運動障害,歩行時のふらつきで見られる小脳性運動失調)や,ビタミンB3不足による症状〔ペラグラ(皮膚炎,下痢,認知機能低下),食欲不振,口内炎,不眠〕の観察を行います。

 離脱症状が疑われる場合,入院後はセルフケア状況の観察,特に食事量が少なくビタミン不足と考えられるケースにおいては,ビタミン補充など予防的薬物療法について積極的に医師に相談する必要があります。また,アルコールの大量摂取を続けている患者は,肝機能障害やその他の疾患が併存することも多く,セルフケアの不足も生じやすいため,せん妄予防ケアが欠かせません。

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 急変時には,アルコール離脱症状としてみられる不穏や興奮だけに注目せず,生命にかかわる身体的変化が起こっていないかを同時に確認することが重要です。急変時に備え,アルコール離脱症状出現の可能性がある期間が過ぎるまで1,2時間ごとに観察を継続し,症状の出現があれば速やかに医師へ報告,早期対応につなげることが役割として求められます。

 特に,けいれん,意識レベルの低下,強い見当識障害,幻覚による著しい興奮,頻脈,血圧上昇,発熱,大量発汗,SpO2低下,脱水,転倒や頭部外傷,嘔吐,誤嚥のリスクがある場合は,速やかに医師へ報告し,院内の急変対応体制につなげましょう。患者の安全確保と全身状態の安定化が最優先です。

 また,アルコール離脱症状の予防においては,精神科リエゾンチームへの依頼など多職種による情報共有や連携が欠かせません。当院では薬剤師が各病棟に常駐していることから,患者の持参薬の内容や飲酒状況の聴取を薬剤師が行い,せん妄の原因となる薬剤やアルコール離脱リスクがある場合は医師,看護師に報告,助言が行われる体制が構築されています。患者の申告する内容が各職種で異なることは普段から割とあることですので,各職種が得た情報をタイムリーに共有し,ハイリスク患者に関しては常に意識をしておきましょう。

 事例を用いた看護の実践を紹介します。

事例 アルコール離脱せん妄なのかはっきりしないせん妄に対応した一例
Aさん,65歳男性。一人暮らし。近隣に姉が住んでいるが日頃からの交流はない。毎日居酒屋に通い,店の店主や飲み仲間と交流があり,40年以上毎夜,焼酎水割り350 mLを7杯程度飲んでいた。腎臓癌,肺転移,骨転移の診断で放射線化学療法を行った。これにより進行は抑えられていたものの,検査で傍大動脈リンパ節転移がみつかり,放射線療法を近日中に受ける予定だった。1週間前より体調不良を自覚。身体の脱力があり,食事をとることができなかった。家で動けないでいるAさんを居酒屋の店主がみつけて救急搬送された。

入院当日:病院到着後,血圧低下,頻脈,発熱,尿素窒素・クレアチニンの上昇から脱水の診断で1日2 Lの外液点滴を実施,バイタルサインは正常化した。アルコール離脱せん妄予防のために総合ビタミン剤を添加した補液が投与され,翌日から食事とビタミンB1も開始された。

入院2日目0時:「あ~!」と叫ぶことを繰り返し,辻褄の合わない会話,点滴を触るなどのせん妄症状がみられた。

看護師による具体的なケア

 看護師は,過去の飲酒歴を考慮し,Aさんが入院当日まで飲酒していたことを想定してアルコール離脱せん妄に注意して観察を続けたところ,離脱症状がいくつか確認されたため,医師に報告。その際,せん妄が生じた場合に速やかに対応できるよう,せん妄による興奮時に使用する薬剤の指示を医師から受けて備えていました。実際,入院2日目にせん妄症状を認めました。一方で,脱水でも同様の症状を来すため,せん妄の原因をアセスメントする必要があります。この時点では脱水によるせん妄なのか,アルコール離脱によるせん妄なのかははっきりと区別できませんでしたが,両方の原因を踏まえて不穏時指示であったハロペリドールとビタミン剤を投薬した結果,入院4日目にせん妄が軽快しました。

 病状や治療の副作用によってがん患者の飲食の摂取量が減り脱水を生じることがしばしばあります。まして大量飲酒している患者が飲酒できなくなった場合には,アルコール離脱症状の観察と離脱予防はもちろんのこと,脱水をはじめせん妄の原因をなくす基本的なせん妄予防ケアが欠かせません。アルコール離脱せん妄をベンゾジアゼピン系薬剤で治療することは他の原因によるせん妄と異なりますが,どちらも基本的なせん妄(予防)ケアがなされることが大切な支援となります。

・アルコール離脱症状が出現する可能性のある時期に観察を続ける。

・離脱症状の早期対応を行う。

・基本点なせん妄の原因を減らし,せん妄予防ケアを続ける。


1)大熊輝雄.現代臨床精神医学 改訂第11版.金原出版.2008;pp238-9.

東京都立駒込病院看護部緩和ケアセンター / 精神看護専門看護師

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