一歩進んだ臨床判断
[第5回] エビデンスに基づいた解熱鎮痛薬の使い方
連載 谷崎 隆太郎
2019.11.25
一歩進んだ臨床判断
外来・病棟などあらゆる場面で遭遇する機会の多い感染症を中心に,明日からの診療とケアに使える実践的な思考回路とスキルを磨きましょう。
[第5回]エビデンスに基づいた解熱鎮痛薬の使い方
谷崎 隆太郎(市立伊勢総合病院内科・総合診療科副部長)(前回よりつづく)
こんな時どう考える?
細菌性肺炎の診断で救急外来より緊急入院した65歳男性。酸素投与(鼻腔カニューレ 3L/分)で呼吸困難は改善したが,38.4℃の発熱が続いている。本人は,体熱感があるが水分摂取も可能で,特に熱で苦しいわけではないとのこと。さて,この患者は積極的に解熱すべきだろうか……? |
医師不在時の指示の中に,発熱時にどう対処するかの指示はよく見掛けますよね。「発熱時:クーリング」といった指示に対し,「発熱時って,何℃からやねん!」と心の中で声なきツッコミを入れた経験のある方も多数いらっしゃるのではないでしょうか。本連載の第2回(3335号)を読まれた方は,「その前に,まずは血液培養2セットだよね?」と既に実践的な思考回路へと昇華されていることと思います。
さて,解熱させる方法としては,クーリングまたは解熱鎮痛薬の使用が思い浮かびますが,古くから行われてきたこの対症療法に対して近年,新たな知見が集積されてきています。
今回は,そんなエビデンスを紹介しながら,解熱処置の判断について考えていきましょう。
発熱を見たら,すぐ解熱か?敗血症による発熱への解熱処置
現在使用できる代表的な解熱鎮痛薬はアセトアミノフェン,非ステロイド系消炎鎮痛薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs;NSAIDs)の2種類であり,病棟でもよく見掛けるかと思います。両者とも解熱・鎮痛作用はありますが,NSAIDsは抗炎症作用も有することが特徴の一つです(表)。また,NSAIDsの中にも作用時間や作用の強さなど,細かい分類が存在します。
表 アセトアミノフェンとNSAIDsの特徴の違い(クリックで拡大) |
さて,発熱の原因で多いのは,何と言っても感染症ですよね。「熱は悪!」と思いがちですが,発熱自体は原因微生物に対する生体の反応ですので,外部から強制的に解熱することは予後を悪化させるかもしれない,といった研究もいくつか報告されています。しかし,熱でつらそうな患者さんを目の当たりにすると,解熱して少しでも早く楽にしてあげたいとも思ってしまいますよね……。比較的お手軽に試みられる処置であるクーリングについての研究を見てみると,38.3℃を超えた敗血症性ショックの患者に対して36.5~37℃まで下げるのを目標に,48時間を目安にクーリングしたところ,14日後の死亡率が低下したそうです1)。その後の研究でもクーリングが死亡率を上げる,という報告は出てきていませんので,発熱に対してまずはクーリングを行う,という方法は許容されそうです。
では,解熱鎮痛薬はどうでしょうか? 実は,敗血症患者にNSAIDsまたはアセトアミノフェンを投与すると,28日死亡率がそれぞれ2.6倍,2.1倍高くなったとの前向き観察研究があります(クーリングは死亡率を上昇させませんでした)2)。発熱自体は死亡率とは関連しておらず(むしろ高体温よりも低体温のほうが死亡率が高い),解熱薬を投与したほうが予後が悪い,というのは興味深い結果です。一方で,その後発表されたより質の高い研究では,少なくと......
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