一歩進んだ臨床判断
[第4回] 主な静注抗菌薬の投与方法
連載 谷崎 隆太郎
2019.10.28
一歩進んだ臨床判断
外来・病棟などあらゆる場面で遭遇する機会の多い感染症を中心に,明日からの診療とケアに使える実践的な思考回路とスキルを磨きましょう。
[第4回]主な静注抗菌薬の投与方法
谷崎 隆太郎(市立伊勢総合病院内科・総合診療科副部長)(前回よりつづく)
こんな時どう考える?
78歳男性,腸閉塞のため中心静脈栄養を併用していたところ,経過観察中に発熱し,血液培養採取後にセフトリアキソン(1 gを30分かけて点滴)が開始されていた。その後,血液培養2/2セットからStaphylococcus epidermidis(註)が検出されたため,中心静脈カテーテル関連血流感染症としてバンコマイシン点滴に変更されることになった。 医師からは特に投与時間の指示はなかったため,セフトリアキソンと同様にバンコマイシンを30分かけて点滴したところ,急に患者の顔面,頸部に掻痒感を伴う発赤が出現した。 |
看護師の重要な業務に,患者への薬剤投与があります。私たち医師は何気なくいつものように薬のオーダーをしていますが,その指示を受け取った薬剤師が準備・確認した後,実際に患者さんに投与するのは看護師なんですよね(いつもありがとうございます)。今回は感染症治療薬の基本である静注抗菌薬について解説していきます。
静注抗菌薬の基本的な投与方法について
抗菌薬の中には主に肝臓で代謝されるもの,腎臓で代謝されるものがありますが,このうち腎臓で代謝される薬剤は,腎機能(クレアチニン・クリアランス;CCr)に合わせて投与方法を調整する必要があります。抗菌薬の種類によって,投与間隔や投与量,あるいは血中濃度を測定しながら調整していきます(表1)。多くのβラクタム系抗菌薬(ペニシリン系,セフェム系,カルバペネム系),アミノグリコシド系抗菌薬は,基本的には投与間隔を延ばして調整します。中でもβラクタム系抗菌薬は最も多く使用される抗菌薬ですので,病棟でもよく目にするのではないでしょうか。
表1 抗菌薬の投与方法(文献1より作成) |
具体的な投与方法は,例えばアンピシリン・スルバクタムは正常腎機能であれば1回3 gを6時間ごとに点滴しますが,腎機能が低下してCCrが低下したら投与間隔を延ばし,1回3 gを8~12時間ごとに点滴します(CCr 10~50 mL/分の場合)。このように,βラクタム系抗菌薬は,腎機能が低下しているからと言って1回量を減らすことはそうそうありませんが,ピペラシリン・タゾバクタムやセフェピム,メロペネムなどは,高度な腎機能低下例では投与間隔だけでなく,いよいよ投与量まで減らして調整します。
例えば,正常腎機能ではメロペネムは1回1 gを8時間ごと点滴ですが,CCr 25~50 mL/分では1回1 gを12時間ごと投与(投与間隔を延長),CCr<10 mL/分では1回0.5 gを24時間ごとに投与します(投与間隔の延長だけでなく投与量も減量)1)。
βラクタム系抗菌薬の中では例外的に,セフトリアキソンだけは腎機能にかかわらず1日1回投与で良いので,臨床的に大変使いやすい薬として頻用されています(投与回数という観点からは,βラクタム系抗菌薬の中ではちょっと異質な抗菌薬になります)。
■備えておきたい思考回路
腎機能の低下した患者では,βラクタム系抗菌薬の投与間隔は長くなる。
抗菌薬を投与する時刻,採血すべき時刻の確認を
次に,血中濃度を測定しながら調整する抗菌薬の投与方法についてです。主にバンコマイシンやテイコプラニンといった,グリコペプチド系抗菌薬が該当します。前述のアミノグリコシド系抗菌薬も血中濃度を測定しながら調整します(他に,抗真菌薬のボリコナゾールがあります)。体重やCCrで初期投与量はある程度決まるのですが,通常,投与開始3日目あたりで血中濃度を測定し,その結果を踏まえてその後の投与量を調整していきます。この血中濃度測定のための採血は,「抗菌薬投与前30分以内に採取する」ことが推奨されていますので,抗菌薬を投与する時刻,採血すべき時刻をしっかり確認しておきましょう。
■備えておきたい思考回路
バンコマイシンやテイコプラニンが開始されたら,血中濃度測定のための採血オーダーが数日後に出る。採血時刻の確認を!
抗菌薬の適切な投与時間は?
さて,皆さんは実際にどれくらいの時間をかけて抗菌薬を点滴していますか? 慣習的に30~60分程度かけて点滴することが多いのではないでしょうか。多くの抗菌薬はそれで問題ありませんが,しかし注意が必要なのがバンコマイシンです。バンコマイシンは,投与時間が短か過ぎると,投与開始から数分で,主に顔面や頸部,体幹上部に掻痒感を伴う紅斑が生じることがあります。この現象は「レッドマン症候群」と呼ばれ,まれながら,ショックや呼吸困難などアナフィラキシーさながらの重篤な症状を呈することもあります。具体的には,投与時間が1時間未満だと起こりやすいため,少なくとも1時間以上かけて点滴する必要があります。そして,1回当たりのバンコマイシンの投与量が500 mg増量するごとに投与時間を30分ずつ延長していきます。表2にまとめた通り,例えば0.5 g~1 gなら1時間かけて点滴,1.5 gなら1時間半かけて点滴,2 gなら2時間かけて点滴します2)。
表2 バンコマイシンの投与量と点滴時間の関係 |
「レッドマン症候群かも」と思ったらすぐにバンコマイシンの投与を中断し,医師に報告しましょう。治療には抗ヒスタミン薬などが投与され,多くは次第に症状が改善しますが,上述の重症例では急速輸液や,まれに昇圧薬などを要する場合もあるようです(筆者は経験がありませんが)。ちなみに,レッドマン症候群と診断されても,掻痒や発赤などの症状がおさまったらバンコマイシン点滴は再開できます3)(個人的には重度のレッドマン症候群でアナフィラキシーとの判別が難しい場合,再投与はちょっと怖い気もしますが……)。もちろん,医師の判断を仰いで再投与するにしても,その際は時間をかけてゆっくりと投与しましょう。
■備えておきたい思考回路
バンコマイシン点滴時は,投与時間を医師に確認すべし!
さて,冒頭の患者さんにはどう対応したのでしょう。アナフィラキシーを疑い,ただちにバンコマイシンを中止して医師に報告したところ,状況からはレッドマン症候群が疑われると判断されました。バンコマイシン点滴中止と抗ヒスタミン薬の点滴で患者の症状は速やかに軽快し,点滴時間を延長することでレッドマン症候群を起こすことなく再投与することができました。
今日のまとめメモ
多くの静注抗菌薬では1時間以内で点滴することは問題にはなりませんが,上述のようにバンコマイシンの投与時には,投与時間が短くなり過ぎないよう,注意しましょう。 |
次回は,病棟でよく使用する鎮痛薬や解熱薬の使いどころについて,近年の知見を踏まえてお話しします。
(つづく)
註:表皮ブドウ球菌。コンタミネーションと判断されることが多い菌だが,中心静脈カテーテル関連血流感染症の起炎菌としても最も多く見られる。
参考文献
1)Gilbert DN, et al. The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2019:50 Years:1969-2019. Antimicrobial Therapy;2019.
2)日本化学療法学会/日本TDM学会編.Ⅳ.各論,1.バンコマイシン.抗菌薬TDMガイドライン2016;12-20.
3)Crit Care. 2003 [PMID:12720556]
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