医学界新聞

連載

2008.11.17

看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第47回〉
うれしい手紙

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 「秋もずいぶん深まってまいりました。お元気でお過ごしのことと存じます。先月のファーストレベルではお世話になりました」という書き出しの手紙が10月末に届いた。この夏に本学で開講した看護管理者研修の受講生からであった。「ファーストレベル」とは,日本看護協会認定看護管理者になるための第一段階の研修を指す。

認定看護管理者と教育体制

 日本看護協会は,「多様なヘルスケアニーズを持つ個人,家族および地域住民に対して,質の高い組織的看護サービスを提供することをめざし,一定の基準にもとづいた看護管理者を育成する体制を整え,看護管理者の資質と看護の水準の維持および向上に寄与し,保健医療福祉に貢献することを目的」として,1993年に日本看護協会認定看護管理者制度を発足させた。この制度は,看護管理者の教育と資格認定を体系化したものであり,教育課程は,ファーストレベル,セカンドレベル,サードレベルと段階を踏んで実施される。

 認定看護管理者の資格認定審査(書類審査と筆記試験等)を受けることができる者は,(1)サードレベルの教育を修了した者,(2)看護部長もしくは副看護部長等の職位にあり,4週間以上の看護管理者研修を受けている者,(3)看護系大学院で看護管理を専攻し,定められた分野の経験がある者,(4)管理経験が3年以上あり,大学院で管理を専攻している者など(2002年改定),多様なルートを開いている。2008年7月までに408名の「認定看護管理者」が登録されている。

 ファーストレベルは,看護管理概説,看護専門職論,ヘルスケア提供システム論,看護サービス提供論,グループマネジメント,看護情報論の6つの教科目で構成され,150時間の講習とレポート審査に合格しなければならない。各レベルを開講する教育機関は,あらかじめ運営体制やカリキュラム等について日本看護協会の認定を得なければならないことになっている。

 認定看護管理者の資格認定を受けた者は,5年ごとに資格更新の審査を受けなければならないため,5年間の活動業績を記録しておく必要がある。

 ファーストレベル教育機関は,当初,都道府県看護協会でスタートしたが,最近は増加している看護系大学の研究センター等が継続教育の一環として開講する傾向にある。

管理者の働きを承認し保証する

 聖路加看護大学看護実践開発研究センターのファーストレベルは,毎年8月下旬から9月にかけて開講され,今年で4年目を迎えた。日ごろ病棟で忙しく動き回っている看護管理者やリーダーたちが1か月間,「学生」として授業を受け課題をこなすわけであり,生活の切りかえと適応が求められる。

 受講者の事前提出書類に課した「受講の理由」を読むと,彼女たちに共通していることは,「自信がない」ことである。中には,「10年も病棟の看護師長をしているのにまったく自信がありません」などと書いているものもあり,愕然とする。ナースたちの継続教育機関の最大の使命は,彼女たちの働きを承認し保証することではないかと私は考える。

 本学のファーストレベル研修で私が担当した授業は9コマであり,それらは「組織とリーダーシップ」「組織のカタチ」「ベナー看護論」「ジェネラリストとスペシャリスト」「医療制度」「介護制度」「組織のダイナミズム」「組織とミッション」「サービスの基本概念」から成る。この他にコース運営責任者として「ガイダンス」と「コース評価」を担当したほか,研修初日には受講生全員の1分間スピーチを企画して「楽しい管理,不愉快な管理」を傾聴した。私が一貫して強調したことは,経験を大切にすることと発言をすることであった。

最高のフィードバック

 前述の手紙には「先生が,会議は必ず出席して発言すること,ただし建設的な意見を述べてくださいと話されましたので,何か発言するぞと意気込んで参加しました。が,実際はそんなに力を入れなくても自然に意見が言えました。あの5週間を耐え抜いた自信でしょうか。誰も誉めてくれませんが,自らを成長したなあと誉めたたえ,ひとりほくそ笑んでおります」とあった。さらに,「定年まであと10年と思いながら勤務していましたが,どうやらもっと働きたくなる環境に変化していきそうで,ちょっぴりうれしい気もします。〈中略〉看護職を選んだ自分の人生,まんざらでもないのかなあと思えます」とあり,「『看護のアジェンダ』を楽しみにしています」と結んでいた。

 暑い夏を80名の受講生との看護管理者研修に費やした成果が,こうした形でフィードバックされるのはたまらなくうれしい。

つづく

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