医学界新聞


元患者のリベンジ

連載

2007.11.19

 

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第116回

MRSA感染予防策を巡って(1)
元患者のリベンジ

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2755号よりつづく

 ジーニン・トーマス(45歳)が氷に足を滑らせて転倒,左足首を骨折したのは2000年11月のことだった。シカゴのある病院で手術,2日後に退院したものの,術部の激痛で,その日のうちに救急外来に舞い戻る羽目となった。

 救急で診た整形外科レジデントが,「感染の疑いがある」とギプスを外すと,左足首は赤黒く膨れあがり,大量の膿を吹き出していた。レジデントは,「できる限り膿を出さなければいけない」と,足首の周囲を絞り上げるように圧迫した。あまりの痛さに,トーマスは恥ずかしさも忘れて泣きわめいた。

 救急での処置が終われば家に帰れると思い込んでいただけに,再入院はショックだった。しかし,高熱とモルヒネとのせいで,トーマスは,入院後すぐに意識朦朧状態となった。医師が,自分の同意を得ないまま足を切断する悪夢にうなされては,「起きている」よう努めたが,すぐに眠りに落ちてしまうのだった。

カルテのコピーでMRSAを確認

 「臨死体験」をしたのは再入院の直後だった。「自分は死ぬんだ」と覚悟しつつも,「なぜこんなに早く死ななければならないのか」と思うと怒りがこみ上げた。看護師が夜中に外科医を呼び出し,バンコマイシンの投与が開始された。翌日目が覚めたときには昼近くになっていたが,自分がまだ生きていることに驚いたものだった。

 入院はひと月に及び,足を切断せずに済ませるために,何度も再手術が行われた。入院中,医師も看護師もMRSA感染だとは教えてくれなかった。「MRSAではないか?」と言ってくれる友人がいたので退院後自分で調べるようになったのだが,最後は,入院中のカルテのコピーを取り寄せて,診断を確認したのだった。

 トーマスは,足首を骨折するまで,健康そのものの暮らしを送ってきた...

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