医学界新聞

伝わる! 同意書説明の4ステップ

連載 三谷 雄己,関 美月

2025.11.11 医学界新聞:第3579号より

上級医 お疲れさま。さっき救急搬送されてきた高校生の男の子は,外傷性気胸だったよ。胸腔ドレーンを留置することにしよう。
研修医 わかりました! (処置の見学や予習を何度かしてきたし,いよいよ実践だ。)
上級医 じゃあ,まずは患者さんのご両親へ病状の説明と胸腔ドレーンの同意書説明からやってみようか。
研修医 えっ,いきなりですか? 患者さんや家族に説明するの,苦手なんだよな……。

 医療現場において,検査や処置の前に患者や家族へ同意書の説明を行うことは日常的にあります。研修医をはじめとする若手スタッフの業務のとなりやすく,単に「署名をもらう作業」と思われがちです。しかし,この業務はインフォームド・コンセント(IC)と呼ばれる,診療において非常に重要な行程なのです。

 ICとは,医療者が治療の目的や方法,期待される効果,リスク,代替案,非施行時の見通し,費用・入院期間の目安などについて十分な情報をわかりやすく提供し,患者(と必要に応じて家族)が理解・納得したうえで意思表示するプロセスです。主に,以下の2つの点においてICが重要であると言われています。

法的側面:説明・同意は医療者の義務であり,後のトラブルでは「説明の内容」だけでなく「説明のプロセス(理解を得る努力)」が問われます。同意書・カルテなど記録の整備も不可欠です。

倫理的側面:患者の自己決定権を尊重することが前提です。未成年の患者や患者の判断能力が十分でないケースでも,本人の意思(アセント)を最大限尊重しつつ,保護者など適切な代理人の同意を得る必要があります。

 同意書の説明は「署名を得るための作業」ではなく,「安心して意思表示してもらうための対話」だとまずは理解しましょう。

 同意書説明で大切なのは,医学的に正しい内容を一方的に伝えることではありません。患者や家族と双方向の対話を行い,不安を解消し納得してもらうことが大切です。しかし,慣れるまではこの行程は難しいと感じることも多いでしょう。そこで今回は,どんな状況でも活用しやすい,基本となる同意書説明の4ステップを紹介します()。

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表 4ステップを用いた説明例(胸腔ドレーン留置の場合)

ステップ1 相手の立場に立つ

 説明の冒頭で大切なのは,目の前の人の感情に寄り添い,患者さんの状況を把握することです。「突然のことで驚かれていると思います」「不安だと思いますが,順番にお話ししますね」と,患者が今感じているであろう気持ちを言葉にして示すと,相手は“気持ちを受け止めてもらえた”という安心感を得ます。続けて,処置の意義は医学的に必要かどうかの視点のみで語るのではなく,「患者さんの呼吸を楽にするため」と,患者を主語に置いてその意味を説明します。相手の生活や価値観に寄り添う語り口にすることで,これから話す情報の輪郭がはっきりし,相手も心の準備ができるのです。

ステップ2 専門用語をかみ砕く

 次に,専門用語を患者に伝わる言葉に翻訳します。医療者にとっては自然な言い回しや用語であっても,初めて聞く側には理解の障壁になりがちです。例えば「穿刺」は「針を刺して胸の中の空気を抜くこと」と置き換えます。説明の途中で専門用語が登場するたび,短い言い換えを添えると理解は途切れません。比喩も有効ですね。冒頭で示したCaseで言えば,「現在の状態は胸の中に風船が入って膨らんでいるような状態です。その空気を抜くストローを入れるのがドレーンです」と具体物に例えると,見えない体内の出来事が一気に想像しやすくなります。

ステップ3 視覚情報で補う

 言葉だけで伝わりにくい部分は視覚で補強しましょう。胸腔ドレナージの場合は,胸部の簡単な模式図を示して胸腔と肺の位置関係を指差しながら説明したり,実際に使用するチューブを見せて太さや長さを確認してもらったりすると,漠然とした恐怖が「具体的に理解できる不安」に変わります。必要であれば紙に簡単なスケッチを描く,タブレットで写真を表示するなど,即席の工夫でも十分効果的です。視覚情報は“わからないから怖い”という感覚を和らげ,説明した情報の記憶定着も助けます。

ステップ4 よくある質問に備える

 同意書の読み合わせに質問はつきものです。実際によく聞かれる質問をいくつか想定し,その答えを準備しておくと落ち着いて対応できます。説明内容ごとに想定される質問と対応例を準備しておきましょう。質問への回答は,結論→理由→患者へのメリット→再確認の流れを心がけるとスムーズになります。それぞれのポイントは次の通りです。

 まず最初は結論を一言で提示して相手の頭に見出しを立てましょう。結論を先に示すことで,その後の情報が整理されて受け取りやすくなります。その上で,なぜその結論に至るのかという理由を1,2点で簡潔に伝えます。

 次に,その選択をすることで患者にとってどのような利点があるのかを示しましょう。医学的な正しさを患者視点で翻訳し,症状が楽になることや安全性が高まること,将来の見通しがよくなることなど,体感できる結果に言い換えると納得につながります。最後に,相手が本当に理解できたか,不安が残っていないかを確認し,質問を引き出しながら安心して意思表示できる状態で締めくくるとよいでしょう。

 もちろん,予想外の質問が出る可能性もあります。答えに窮した場合は無理にその場で答えず,「確認して後ほどお答えします」と伝えて上級医に相談しましょう。初めての説明で全て完璧に対応するのは難しいですが,事前にシミュレーションをしておけば大抵の質問には落ち着いて答えられるはずです。

 以上の4ステップは,あらゆる検査や処置の説明に共通する「伝わる説明」の型です。相手の感情に寄り添い,わかる言葉で,見える形で,そして想定問答を備えて臨む。この流れを身につけるほど説明は滑らかになり,患者・家族の納得は深まります。

 上記の4ステップも大切ですが,やはり人と人とのコミュニケーションである同意書の説明では,内容の正確さだけでなく「どう伝えるか」も大切です。言葉そのもの以上に,視線や姿勢,声のトーンといった非言語的な要素が患者や家族の理解と安心を大きく左右します。すぐに活用しやすいものをいくつか紹介しますので,ぜひ参考にしてください。

 視線や姿勢については,相手と同じ目線の高さで向き合いましょう。真正面に座るよりも斜め45度の位置に座ると圧迫感が少なくなり,自然な対話の雰囲気が生まれます。説明の途中ではうなずきや相づちを挟み,「聴いています」という姿勢を可視化すると信頼感が増します。

 声のトーンや話す速さにも配慮が必要です。ややゆっくり,はっきりと話すことで要点が伝わりやすくなります。特に重要な言葉の前後には短い間を置いて強調すると,聞き手の理解を助けます。

 この連載では,日常診療で頻度の高い検査や処置の説明シーンを取り上げ,今回紹介した4つのステップを実際にどう活用すれば患者や家族に“伝わる説明”ができるのかを具体的に整理していきます。各回の執筆は,若手医療従事者や出版関係者が集うオンラインコミュニティ「医学書クリエイティブLABO」のメンバーが担当します。現場でそのまま使えるフレーズや工夫を紹介しますので,ぜひ楽しみにしてください。


広島大学救急集中治療医学

亀田総合病院救急救命科