病状説明
ケースで学ぶハートとスキル

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病状説明は「説得」でも「同意を得る」だけでもありません。患者と医療者がそれぞれの情報と価値感を共有し、ともに意思決定をしていく場です。本書は、説明全体を組み立てるフレームワークや、すぐに使える会話上の技をたくさん掲載しました。さらにケーススタディを通して実践的に学ぶことができます。
天野 雅之
発行 2020年04月判型:A5頁:310
ISBN 978-4-260-04170-6
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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推薦のことば(矢野晴美、志水太郎、北原康富)/まえがき(天野 雅之)

推薦のことば

 覚えやすく、現場で実践しやすい“CUPSOUP”。医療のプロフェッショナルとして、患者およびその家族に十分な配慮をした病状説明やその後の方針について相談する機会を設けることはもっとも重要なスキルの1つです。本書は、これまで、“現場で慣れて経験から覚えていく”のが通例であった患者への説明についてよく起こるケースを効果的に取り入れ、会話形式で進めながらわかりやすく提示しています。後半では、「なぜ、そうすると効果的なのか」について、その背景となる学術理論を展開する構成です。プロフェッショナルな患者説明を学びたいすべての医療者にお勧めします。
国際医療福祉大学医学部・教授 矢野晴美


 病状説明というテーマを1つのジャンルとして体系化したことにこの書籍の最大の功績があると思います。戦略思考を鍛えた天野雅之先生ならではの要素も様々な場所に光ります。また、現場目線のわかりやすく、天野先生らしい様々な心配りのきいた構成も使いやすく、例えば実践編が先というのも読者フレンドリーです。家庭医療学を背景にCUPSOUP(2重の意味が込められています)を軸とし、倫理学や経営学にも踏み込んだ包括的な病状説明の指南書は、類書がないのではないでしょうか。本書が歴史の風化に耐え長く読まれることを心より願います。
獨協医科大学総合診療科・教授 志水太郎


 本書は、患者自身が意思決定することを専門家が援助するという潮流のなかで、専門家と患者との共創という斬新なアプローチを取り入れた方法論を明解に提示している。同時に、意思決定やサービス設計における経営学の諸理論を積み上げて筆者が考案した、CUPSOUPフレームワークによる実践的なワークブックでもある。実践編における豊富なケースは、唯一の正解がなく不確実性に満ちた臨床課題に対して、読者自身が状況を追体験し、様々な解を検討することに有効である。また、複数の読者によるワークショップなどにも、きわめて効果的に活用できる教材となろう。本書によって、私達が受ける医療の質がさらに向上していくものと期待している。
名古屋商科大学ビジネススクール・教授 北原康富



まえがき

病状説明で悩むすべての人のために
 『病状説明 ケースで学ぶハートとスキル』を手にとっていただきありがとうございます。この本は、「病状説明の準備・実践・教え方」をリアルなケースを通じて楽しく学べるようにデザインされた“病状説明の教科書”です。
 「悪い知らせの伝え方」や「臨床推論/医療面接」に関しては教育の機会も増えてきましたが、“臨床現場でよく出会う病状説明の方法”を体系的に学ぶ機会は少ないのが現状でしょう。「見て学べと言われたけれど、見学のポイントがわからない」、「説明の最中に臨機応変に対応できない」、「“背中を見せる”以外に教育法を知らない」といった不安や悩みに対する解決案を示し、「数歩進んだ病状説明ができるようになる」ことを目指し心を込めて執筆しました。

病状説明とは何か
 本書において、「病状説明」という単語は「相手とともに価値を共創するプロセス(Value Co-creation)」という意味で使用しています。病状説明の相手は「患者本人」にとどまらず、家族、医療チームメンバー、院内外のスタッフなど多岐にわたります。どれだけ正確に診断し、完璧なアセスメントを立てても、本人を含めた関係者と連携できなければ現場を動かすことはできません。日常診療において、「病状説明」は必要不可欠な要素なのです。

「アートとサイエンス」は到達可能だが時間がかかる
 すべての医療者が当然のように行っている病状説明ですが、突き詰めれば無限の深みがあります。絶妙な間合いで心を通わせ対話を進める達人のワザはまさに「アート」ですし、臨床試験で効果の示された最新のコミュニケーション理論はまさに「サイエンス」です。もちろん医療のプロフェッショナルとして最終的に目指すべきはこのレベルなのですが、初めて学ぶ側からすれば“少し敷居が高い”のが本音でしょう。また教える側からすれば、長い年月をかけて無意識的に体得した“暗黙知”を今さら言語化することも難しく、「…背中を見て盗め!」と言いたくなるのもわかります。

千里の道も一歩から―架け橋としての「CUPSOUP」
 この点に関して、筆者も非常に悩んでいました。どのように学べばよいか、そして、どのように教えるか…。時間と労力をかければ修得できるけれど、今まさに困っている人が現場にいる。考えれば考えるほど、「日常の説明」と「アートとサイエンス」をつなぐ“架け橋”が必要だという思いが高まってきました。そこで、青春時代の10年間をつぎ込んで身に着けた「演劇の演出家の視点」、専攻領域として必死に修得した「家庭医療学の視点」、そしてビジネススクールで苦労して学んだ「経営学の視点」という3つの視点を統合し、初心者がまずは修得すべき“あたたかく、効果的な病状説明の実践方法”を「CUPSOUP」という愛称のフレームワークに整理しました。

本書は「実践編」と「理論編」の二部構成
 実践編では、このフレームワークを“スキルとして”どのように使いこなせばよいか、リアルな状況を再現したケースを用いて具体的に解説しています。ストーリーのなかには、患者に真摯に向き合おうとする研修医と、熱いハートを具体的に伝えてくれる指導医が登場します。通読することで一連のストーリーが完成しますが、“つまみ読み”でも十分に活用できます。時間に余裕がない状況であれば、オリエンテーションに目を通したのち、該当ページへ進むとスムーズでしょう。
 理論編では、フレームワークを使いこなすための知識やコツを紹介しつつ、病状説明の各段階で使えるキーフレーズ集を紹介しています。また、思わず人に語りたくなるような背景理論をピックアップして簡潔に紹介しているので、フィードバックやショートレクチャーにもご利用いただけます。難しい部分は読み飛ばして全く構いませんので、「とりあえず全体像を掴む」ことを優先していただくと効率よく学べます。

病状説明の実践的能力が求められる時代
 インターネットやSNSの世界的な浸透により、価値の源泉は「情報を所有している」ことから、「情報を共有し、使いこなす」へと静かに・しかし確実に変化してきています。この時代において、本書で提示するような“病状説明の能力”はますます重要となるでしょう。
 本書が臨床現場で活躍される皆さんの診療の一助となればそれに勝る喜びはありません。

 2020年4月1日
 天野 雅之

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実践編
 0 オリエンテーション――CUPSOUPで“あたたかい病状説明”をしよう
 01 入院説明――入院の必要性を明確に伝えよう
 02 心肺停止時の意向確認――DNARはあくまで蘇生処置の意向です
 03 帰宅説明――相手の来院理由を常に意識しよう
 04 お看取り説明(ER編)――その場にいるすべての人をケアしよう
 05 検診異常/検査提案――プロとしてのオススメを提示しよう
 06 病名告知――相手のペースに合わせよう
 07 小児への説明――保護者にも本人にも説明しよう
 08 退院説明――退院への不安に向き合おう
 09 転院説明――バトンを引き継ぐことを伝えよう
 10 院内急変――家族にもスタッフにも説明が必要
 11 お看取り説明(病棟編)――故人にも家族にも主治医にも敬意を払おう
 12 感情的な相手――自分の感情を落ち着かせよう
 13 Advance Care Planning――全体の流れを意識して対話をつなげよう
 14 在宅診療への退院支援カンファ――立場や役割を明確にしよう

理論編 Part 1 CUP:Support Activities
 C Circumstance――説明環境を整えよう
 U U(You)――あなたの考えを整理しよう
 P Partner――相手の状況を分析しよう

理論編 Part 2 SOUP:Bedside Activities
 S Share――スタートラインを揃える
 O Offer――評価項目と選択肢を提示する
 U Unite――優先順位をチームで決める
 P Plan――具体的な行動と全体のまとめ

理論編 Part 3 「病状説明」をさらに深く学びたい人のために
 1 事実と解釈のギャップのマネジメント
  フレームと“問題”の定義
  Disease-Illnessモデル
  解釈モデル
 2 非合理的な判断のマネジメント
  限定合理性
  古典的意思決定理論
  行動経済学
 3 チームとしての意思決定のマネジメント
  プロセスの妥当性
  臨床倫理4分割法
  Sturmbergの複雑性分類
 4 病状説明アップデート
  先人や他分野に学ぼう
  後輩に伝えよう
  病状説明に関わり続けよう

あとがき

索引

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ベテランも初学者も「スキル」として学べる
書評者: 藤沼 康樹 (日本医療福祉生協連合会家庭医療学開発センターセンター長)
 医師は患者の診断と治療を行う仕事であると一般にはイメージされています。しかし,実は患者や家族に何らかの「説明」をすることに,医師は多くの時間を費やしています。入院時の説明,病状の説明,予後の説明,退院や転院の説明,お看取り後の説明など,実に多くの場面で「説明」をしているのです。こうした「説明」がわかりやすいタイプの医師とわかりにくい,伝わりにくいタイプの医師がいることは私の経験上も明らかです。例えば,病状説明をするときに,疾患の病態生理をまるで学生に講義するように行う医師もいれば,まず患者の様子をみて「いかがですか?」と開かれた質問を使って説明相手の感情にアプローチする医師もいます。おそらく説明する内容(コンテンツ)は医学知識に由来するものでしょうが,その語り口はほぼ個々の医師の「個性」と従来は見なされていたように思います。この個性は医師自身の生育史や価値観に相当依存したもので,ある種のバイアスに満ちています。しかも,退院や転院の説明などは,医学知識の伝達というよりは,ある種の意思決定を伝えて同意をしてもらうということですし,治療の説明は患者・家族と医療者で協働の意思決定を要するので,単なる伝達ではあり得ず,ヘルスコミュニケーションの中でも最も難しい部類に入るもので,「個性」だけに依存していると,うまくいかない場合の対処に困り,医師自らが困難事例を生み出してしまうことになりかねません。

 この『病状説明 ケースで学ぶハートとスキル』という本では,この「説明」する仕事をする専門職という視座から,患者・家族と医療者のコミュニケーション全般を再構成しようとする野心的な試みが行われています。

 現場で実践する医師ならではの,さまざまなアクチュアルなシチュエーションがケースに基づく仮想医療スタッフのディスカッションによって提示されます。読者はこのディスカッションを追うことで,自身の経験を振り返ることが可能になり,なるほどと思わせるフレームワークや,極めて具体的で「使える」フレーズなどを身につけることができます。また,この本のユニークなところは,ビジネススクールで学ぶような交渉スキルやコミュニケーションの枠組みを医療現場に落とし込んでいるところで,オリジナルで領域横断的なアプローチが新鮮です。

 この本は研修医,専攻医など発展途上の医師にとって有用であるだけでなく,オレ流で凝り固まってしまっているベテラン医師の頭を柔らかくする効果もあると確信します。

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