医学界新聞


可視化と言語化で総合診療へのモヤモヤをスッキリ解決!

寄稿 天野 雅之

2025.09.09 医学界新聞:第3577号より

 “19番目の専門医”である総合診療医は,日常の健康管理から診断困難例,複雑事例,地域活動に至るまで多様な健康問題を扱います。この多様さは総合診療の魅力ですが,総合診療医の具体的なイメージをつかみにくくする側面もあり,「結局,総合診療医は現場でどんな仕事をしているの?」との質問を多くの方からいただいてきました。そこで筆者らは,広大な総合診療の世界を説明するための“地図”となるモデルを作りました1)。本稿はこの論文を中心に,総合診療医の仕事を解説します。

 総合診療の専門性を明らかにするため,診療の段階を「問題設定」と「問題解決」の二つに分けて整理してみましょう2)

 「問題設定」は“その患者にとって最良な状態の実現”をめざします。状況を広く分析して全体像をつかみ,“その人らしさ”に配慮しながら,優先的に対処すべき問題を患者や関係者と共に厳選します。

 「問題解決」は“その問題にとって最良な対応の実践”をめざします。対処すべき問題に対して初動時評価を行い,特定の医学領域に分類した上で,その領域のスタンダードに配慮しながら優先的に採用すべき対処法を患者や関係者と共に厳選して実行します。

 内科学・外科学といった専門分野は「病気をどう治すか」という「問題解決」を重視することで近代医学の発展を支えてきました。内科を幅広く扱う総合内科学もこの流れを汲んでいます。一方,総合診療は「問題設定」と「問題解決」の両面において独自の知識体系を持つのが特徴です(1)

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図 総合診療の特徴と総合診療医の仕事(文献1をもとに作成)

 なお,総合診療の専門性を理解する際には,医学分野としての「総合診療」と肩書としての「総合診療医」を分けることも重要です。例えば循環器内科学の基本知識を麻酔科医が使っても,循環器内科学や麻酔科学の専門性が疑問視されることはありません。同様に,総合診療のエッセンスを他科の医師が活用したり,総合診療医が他分野の知識を使ったりしても,総合診療の専門性は揺らぎません。総合診療を深く理解し,高いレベルで実践する医師が「総合診療医」なのです。

 総合診療医の診察は問題設定から始まります。問題設定における総合診療の特徴は以下の3点です。

(1)幅広く情報を集める

 病気の原因となる「医学的・心理的・社会的なネガティブ要素3)」,健康の源となる「趣味・仲間・資源などのポジティブ要素4)」,その人らしさの基礎となる「人生の物語5)」など,幅広い情報を集めるための専門技術があります。

(2)状況を構造的に理解する

 病気・家族・友人・趣味・仕事など,患者に関連する多様な要素がお互いに影響し合う仕組みを「システム」と呼びます。システムが働くと患者の身にさまざまな出来事が生じます。その中で,その診療にかかわる誰かが困っている出来事を「問題:Problem(s)」と呼びます。総合診療には,集めた情報を整理して問題の背景にあるシステムを分析し,相手の生活や人生において各問題が持つ意味を把握し,全体像を明瞭化するための専門技術があります6)

(3)その人らしさを尊重する

 患者自身が“その人らしく”いられることを尊重しつつ,優先して対処すべき問題を共に厳選し,その問題に関連するシステム上の課題を見定め,その人に最適な診療方針を練り上げるための専門技術があります7)

 問題解決は「初動時評価による担当領域への分類」で始まります。総合診療医は問題設定に引き続き「振り分け」にもかかわりますが,他科に振り分けて終わりではなく,総合診療の担当領域については専門性を発揮して問題解決を行います。例えば循環器内科学に虚血性心疾患や不整脈,心不全などの担当領域があるように,総合診療には以下の担当領域があります。

(1)よくある健康問題:Universal health problem

 頭痛・発熱などの急病,生活習慣病,日常のケガ,予防医療,基本的な終末期ケアなどの「よくある健康問題」は総合診療の担当領域です。その解決のため,総合診療には行動科学や各医学分野のエッセンスを含むプライマリ・ケアの技術があります。

(2)不確実性が高い状況:Uncertain condition

 複雑でシステムの全容が把握できない状態,未来が全く予測できない状況,意思決定が難しい場面など,多くの人が「不確実性8)」を感じる健康問題も総合診療の担当領域です。多疾患併存状態の対応理論9),診断困難例での診断戦略10),不確実性の程度に応じた対処法11),「複雑科学」という学問分野の応用12)など,総合診療特有の専門知識が整備されています。

(3)要対応の医療ニーズ:Unmet needs

 従来の医学領域には分類できない健康問題,医療アクセス制限のため訪問診療やへき地診療を要する住民の健康問題,医療需要が供給を大きく上回る災害やパンデミックなど,社会的に対応が望まれる問題は総合診療の担当領域です。相手のニーズに一肌脱ぐ感覚で広く応えるための心構えや能力13),リーダーシップやプロフェッショナリズムに関する専門知識14)が整備されています。

 このように総合診療は広い範囲をカバーしますが,総合診療医は全てを一人で解決するわけではありません。多職種チームでの診療を基本とし,重症度によっては担当領域の問題でも専門家に支援を要請し,複数領域にまたがる高難易度の問題は熟練の総合診療医と連携します。自身の対応可能範囲を広げる努力は必要ですが,それを超えた問題は「(医師に限らない)他の専門家と連携すべき領域」に分類し,患者にとって最適な環境を整えます。

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 総合診療の基礎技術は研修プログラムで修得できます。専門医取得後は教育や研究に加え,総合診療医としての臨床力をさらに磨くこともできます。例えば次のような方向性があります。

Expert generalist practiceの実践15):家庭医療学の知見で総合診療の技能を深める

Diagnostic excellenceの達成16):診断学の知見で診断/診療プロセスの質を磨く

Special interestの拡充:各自が関心領域を学び対応可能範囲を広げる(地域活動,在宅医療,膠原病,スポーツ医学など)

 以上より,総合診療医の仕事は「問題設定と問題解決の両輪で,患者にとっての最適な状況を共創すること」と集約できます。対象を患者から「病院組織・地域コミュニティ」などに置き換えれば,総合診療医の多様な活動も一元的に説明できます。個々の取り組みは一見バラバラな総合診療医ですが根っこの部分は共通しており,総合診療の専門性を発揮して仕事に取り組んでいます。総合診療は患者の人生を支えつつ,学問的好奇心も刺激される,やりがいあふれる医学分野です。

 本稿が,他科の医師やメディカルスタッフの皆さんには「総合診療医とのコラボの仕方のヒント」を,総合診療に興味を持つ医学生や研修医の皆さんには「将来の進路として一歩踏み出す勇気」を,そしてすでに総合診療領域でご活躍の皆さんには「さらなる発展に向け,皆で一つになって前進する力」を,それぞれにお渡しできていたらうれしいです。


1)Amano M, Watari T, Shimizu T. The clinical roles of generalists in Japan:A descriptive model of problem setting and problem-solving. J Gen Fam Med. 2025. DOI:10.1002/jgf2.70043
2)J R Soc Med. 1997[PMID:9227375]
3)Science. 1977[PMID:847460]
4)Antonovsky A. 健康の謎を解く――ストレス対処と健康保持のメカニズム.有信堂高文社;2001.
5)Sociol Health Illn. 1982[PMID:10260456]
6)J Eval Clin Pract. 2022[PMID:34652051]
7)Br J Gen Pract. 2015[PMID:25824174]
8)Med Decis Making. 2011[PMID:22067431]
9)Mercer S, et al. ABC of Multimorbidity. BMJ Books;2014.
10)Diagnosis(Berl). 2022[PMID:36351261]
11)Int J Gen Med. 2022[PMID:36451798]
12)BMJ. 2001[PMID:11566836]
13)J Gen Intern Med. 2019[PMID:31420826]
14)Soc Sci Med. 2014[PMID:24507917]
15)JRSM Short Rep. 2013[PMID:24475347]
16)JAMA. 2021[PMID:34709367]

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南奈良総合医療センター総合診療科 医長 / 教育研修センター 副センター長

2012年自治医大卒(学長賞)。義務年限の傍ら経営学修士(国際認証MBA)を取得。家庭医療専門医(優秀ポートフォリオ賞),総合診療専門医,総合内科専門医をはじめ総合診療系の複数の専門医/指導医資格を持つ。病院総合診療医学会「良質な診断ワーキンググループ」共同代表。家庭医療学・経営学・診断学の知識を用いて総合診療の面白さを若手に伝える活動に従事。22年より現職。著書に『病状説明』(医学書院)。医学書院ジェネラリストNAVIにて『臨床現場の仕事術』を連載中。

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