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「卓越したジェネラリスト診療」入門
複雑困難な時代を生き抜く臨床医のメソッド

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マルチモビディティ、下降期慢性疾患、複雑困難事例、心理・社会的問題、未分化健康問題…。現代の臨床医は外来で、ガイドラインや医学的知識だけでは太刀打ちできない、さまざまな患者・家族の健康問題に直面する。そんな時、医師として、どう考え何ができるか? 日本のプライマリ・ケアと家庭医療学を牽引してきた著者が、そのメソッドを開示し“新たな医師像”を提示した。藤沼康樹氏の現時点での集大成、待望の単著。

藤沼 康樹
発行 2024年06月判型:A5頁:296
ISBN 978-4-260-05354-9
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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 医学・医療は日進月歩です。新たな疾患メカニズムの解明、新たな治療法の開発などは、目を見張るものがあります。私が医師になってから40年の間にも、不治の病いとされてきたさまざまな疾患が根治可能になったり、症状を抑えたりできるようになっています。近代以降、医療が、こうした生物学をはじめとした自然科学と結びつくことによって、多くの画期的な成果をあげてきたことは厳然たる事実です。しかし、そうした自然科学のパラダイムでは、ある疾患に罹患している1人の患者は、その疾患における「症例1」とされます。また、そうしなければ臨床研究を実施することはできません。
 この自然科学のパラダイムでは、個々の患者の家族や仕事、ライフヒストリー、価値観、感情など個別性の高い要素は捨象されます。また、「こころ」は脳内代謝の影として扱われ、自然科学の対象とはならなくなります。しかし現実の医療の場面、特に日々生活している患者の健康問題の相談にのるプライマリ・ケアの場面では、これらの「個別性」に寄せた医療が必要になることが多いのです。
 従来の医療は、「サイエンス(科学)」と「アート(技芸)」から成ると言われてきました。本書では、サイエンスに原則があるように、アートについても、曖昧なものではなく行動原則があり、ガイドラインがあるということを、できるだけ厳密かつ明快に語っています。このアートの領域は歴史的に、自然科学の発展とは違って、多くの哲学者や思想家、人類学者、心理学者、社会学者など、医学以外のさまざまな領域の到達に基づいて豊かに進んできました。私たちは、こうした領域における過去の偉大な賢人たちの視点を借りつつ、自らの臨床経験とその省察に基づいて、より妥当性のある「医療のアート」を深めていくことができます。
 そして「卓越したジェネラリスト」は、医療のサイエンスとアートを同等の価値をもつものとして取り扱います。そこにこそ、卓越したジェネラリストの最大の特徴があります。本書では、そうした立場から医療の「アート」の側面を、これまでになく幅広く議論しています。通読することによって、さまざまなunlearning、“学びほぐし”が生じる仕かけになっています。読者のみなさんに、ぜひ最後まで読んでほしいと願っています。
 本書は、『総合診療』誌での3年余にわたる連載「55歳からの家庭医療──明日から地域で働く技術とエビデンス」をもとに、加筆・再構成したものです。連載中にさまざまな感想、重要な示唆やアドバイスをくれた多くの同僚家庭医に感謝します。そして、連載開始当初から医学書院の杉本佳子さんは、何度も連載継続を諦めそうになった私を常に励ましてくれました。杉本さんの存在なしには、本書が世に出ることはなかったと思います。ここで改めて深く感謝の意を伝えたいと思います。

 2024年5月
 藤沼康樹

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はじめに
  プライマリ・ケア外来の一般要件
  プライマリ・ケア外来の「独自性」
  「卓越したジェネラリスト診療(EGP)」とは

第I章 プライマリ・ケア外来の一般要件
 1 「臨床診断」の技芸
  病院の一般外来とは異なる“診断戦略”が必要なワケ
  危険な疾患を除外する方法
  プライマリ・ケア独自の「事前確率の見積もり」
  プライマリ・ケアに多い「診断の遅れ」
  「診断エラー」を防ぐ方法
  12の診断エラー経験と12のパール
  重大疾患を除外したあとは
  医学的診断がつかない場合
 2 「外来診療」を構造化する
  時間をかければいいわけではない
  病棟・救急外来との違い
  「かかりつけ医」機能をもつ外来とは
  まず「アジェンダ」をつくる
  アジェンダを「1患者10分」で達成する10の手順
  「患者中心の医療の方法」による時短
  「家庭医療」ができる外来をデザインする
  「半予約制」のススメ
 3 「家族」を診る方法
  なぜ「家族(family)」を診るか
  診療ツールとしての「家族図」
  現代の「家族問題」と家族図
  「家族療法」の可能性
  家族を「構造的」に診るためのポイント
 4 外来診療におけるクリニカル・スキルズ
  「身体診察」の4つの意義
  身体診察に関する私的パール集
  「子ども」のかぜ
  「大人」のかぜ
  「高齢者」のかぜ
  「禁煙外来」を成功させる4つの認識
  「私はこれでタバコをやめました」
 5 プライマリ・ケアにおける「治療学」
  Doctor as Drug──診断=治療である
  プライマリ・ケアにおける8つの「治療法」
  「処方」の原則
  私のパーソナルドラッグ40
  リアシュアランス:「安心」を導く7つのフレーズ
  “クローズド・クエスチョン”から始めよ
  シンプルな精神療法(カウンセリング)のエッセンス
  “医学的には必要ない点滴”の治療的意義
  診療所における注射
  小外科処置をどこまでやるか
  物理療法の“心理的”効果
  鍼灸・マッサージの意外な可能性

第II章 卓越したジェネラリスト診療の実践
  「ジェネラリスト」の専門性とは何か?
 1 なぜ「卓越した」ジェネラリスト診療か
  「問題が何かわからない(未分化健康問題)」という問題
  従来型の診断・治療のパラダイムが使えない
  「意識変容」に不可欠なunlearning
  時代が求める“新たな医師像”
 2 医学的治療が問題解決にならない場合:「病い」へのアプローチ
  「病い」にアプローチする4つの道筋
  ①FIFE:「共感」ではなく、患者にとっての意味を知る
  F:feelings(感情)
  I:ideas(概念)
  F:functions(生活機能)
  E:expectations(医療への期待)
  ②ライフヒストリーの聴取:治療を拒否する患者へのアプローチ
  ライフヒストリー聴取の実際
  ライフヒストリーを引き出す3つのトリガー質問
  ③健康生成論に基づく診療:患者の“強み”に注目する
  疾患ではなく「健康」に直接アプローチする臨床的方法
  ④解釈学的医療:患者の「主体/自己」を対象とする
  ジェネラリズムは「身体化された主体」を対象とする
  患者の「主体/自己」を支える「一貫性」(ルーチン)と「エンゲージメント」
 3 「患者中心」の診断推論
  一般的な診断推論(仮説演繹型)との違い
  “無限”の問題空間を扱う
  「帰納的採集」と「トリガー・ルーチン」
  患者と協同で行う「アブダクション・アプローチ」
  “演繹的に考える癖”から脱する方法
  「患者中心のプロブレムリスト」をどうつくるか?
 4 「複雑困難事例」へのアプローチ
  あなたのストレス・陰性感情も徴候です
  ①“複雑な状態”を表現する用語やコンセプトを使う
  ②患者の「creative capacity」を同定・援助する
  ③“インフォーマルなリソース”も使う(社会的処方)
  ④「チーム力の向上」もアウトカムと考える
 5 「マルチモビディティ」へのアプローチ
  コモビディティとは違う
  マルチモビディティはなぜ問題か?
  ためしにガイドラインどおりにやってみると…
  「治療負担」のマネジメントを起点に
  複雑な介入法とシンプルなポイント
  マルチモビディティへの介入における7つのパール
 6 「下降期慢性疾患」へのアプローチ
  “下降期”でもできることはある
  下降期慢性疾患の5つの構造的特徴
  下降期慢性疾患へのアプローチの実践例
 7 診察室から地域への“水路”としての「社会的処方」
  「孤独」や「寂しさ」につける薬はないのか?
  患者の“居場所”と“出番”をつくる「テーマ・コミュニティ」
  診察室とテーマ・コミュニティをつなぐ「リンク・ワーカー」
  「患者」としてみることと「生活者」としてみることの“中間”を行く
  日本における「社会的処方」の課題
  社会的処方の理論的根拠となる「社会関係資本」
 8 プライマリ・ケアにおける「回復」の構造
  それは本当に「治療効果」か?
  「回復」を構成する6つの性質
  回復が生じやすい環境「ヒーリング・ランドスケープ」
  回復に関わる「患者」の4つの側面

第III章 卓越性を支える「チーム」と「教育」
 1 地域医療における「チームワーク」
  個別に仕事を行う時代は終わった
  「統合ケア=多職種協働」ではない
  チームワークの「促進因子」と「阻害因子」
  「阻害因子」としての医師
  「医師誘発性困難事例」
  介護(施設)vs看護(病院)
  異文化感受性発達モデル
  チーム内の「異文化≒多様性」を活用する方法
 2 「振り返り(省察)」と実践をつなぐ方法
  “きれいごと”では「振り返り」にならない
  「振り返り」をする前に認識しておきたい4つのこと
  「振り返り」をする時に意識しておきたい6つのこと
  後悔から「省察」へ
  たとえば「告知」の事前アドバイス
  事後に「自分のこと」も振り返る
  不確実性に向き合う「省察的実践家」
 3 ジェネラリストの教育・生涯学習
  「一般外来研修」での教え方の枠組み
  「外来ケースカンファレンス」の方法
  「病院」で使える家庭医療の教育コンテンツ
  「病院」の複雑困難事例へのアドバイス
  価値転倒をもたらす「レクチャー」の方法
  “サブカル”も教材になる
  価値観の幅を広げるトレーニング
  「正解がないこと」を教えるための事例集

おわりに
 これからのジェネラリスト診療
  “コロナ禍”があぶり出したプライマリ・ケアの本質的役割
  「気候変動」は健康問題だ
  長い医師人生をどう生きるか?
  新たな時代を肯定的に生き抜くための6つのアドバイス
  最後に改めて「卓越したジェネラリスト診療」とは何か?
  「卓越したジェネラリスト診療」への4つのステップ

索引

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魔法の書でも奥義の巻でも自己啓発本でもない
書評者:酒井 郁子(千葉大大学院教授・高度実践看護学/専門職連携教育研究センター長)

 本書は,家庭医としての藤沼康樹氏(医療福祉生協連家庭医療学開発センター長)が,これまでの自身のジェネラリストとしての実践知を,多様な領域の大理論や概念モデルと照らし合わせ解説し,今後の発展の方向性を論述したものである。

 第I章「プライマリ・ケア外来の一般要件」は,家庭医としての実践を始めたばかりの方へのパール集となっており,独り立ちする際に「ここは気をつけよう」と先輩としてアドバイスするような内容となっている。第II章「卓越したジェネラリスト診療の実践」では,既存の大理論や概念モデルについて基礎知識の整理を行い,かつ“医師らしく”考えるその方法は「診断推論」だけではなく,患者を理解していくにはいろいろな見方があるということを,豊富な事例を基に解説している。特にこの章の4~8節は,看護学領域でのパトリシア・ベナーの著書『From Novice to Expert』をほうふつとさせる内容でエキスパートになっていく(卓越していく)ときのものの見方・考え方が具体的に論述されている。第III章「卓越性を支える『チーム』と『教育』」では,多職種連携教育の3つのメリット「チームスキルの獲得」「共同学習の方法の獲得」「省察と経験学習の方法の獲得」のうち共同学習・省察・経験学習について考察している。専門職連携教育は,チームビルディングなどのチームスキルの獲得のみに焦点が当てられがちだが,実は,チームを俯瞰し,どんなチームであってもその職種の役割を果たし,かつ他の職種の役割発揮を支援する「共同学習」「省察」「経験学習」のスキルが必要である。家庭医として,というか,臨床家として,全ての職種が長く活動するために必須のコンピテンシーであると思う。

 終章「おわりに」が秀逸だと思う。医師が保有しがちなシニカルな態度(すみません…)を封印し,自己と他者の人生を肯定し,希望を持ちながら,できることをやっていく,という宣言として読んだ。これから高齢の医療専門職も増えていくのだが,この「おわりに」は大ベテランとなった専門職が,これからの仕事人生を生きていくときの灯台になるような文章だと思う。

 最後に,看護職の皆さんが本書を読むと,特に第II章あたりで,「だから,今まで看護はそう言ってきたじゃん!」「人生の意味とか価値とか,病みの軌跡とか,病気を治すだけが医療じゃないって言ってきたのに,医師は全然聞いてくれなかったじゃないか!」という気持ちが湧く人も一定数おられると思う。共感するとともに,これまでの対立の歴史が頭に浮かぶというか……。でも冷静に考えてみると,看護師だって,特定行為研修で医師の診断推論などを学び,医師の知識やスキル,考え方を共有した上で看護することにより,患者さんへの看護実践に幅が出る。そして,それをよく思わない医師も確かに一定数いる。つまり,令和の今は,いろいろな職種が他の職種の保有する知識とスキルを共有することが実現しつつあるということであって,とある専門職集団が,とある知識体系を独占することに何の意味があるのか,ということを考えるきっかけにもなると思う。

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