レジデントのための患者安全エッセンス
[第11回] ハイリスク手技(CVC,胸腔ドレーン)を安全に実施したい
連載 小坂 鎮太郎
2025.03.11 医学界新聞:第3571号より

ハイリスク処置による合併症は予防できる
中心静脈カテーテル(CVC)留置や胸腔ドレーン留置は,侵襲的な医療処置であり,それぞれ一定の頻度で合併症が発生するハイリスク処置に分類されます。CVCでは,気胸,血管損傷・動脈穿刺,血腫,カテーテル迷入が多く1),胸腔ドレーン留置や胸腔穿刺では気胸,肋間動脈損傷などの出血,皮下気腫,再膨張性肺水腫に特に気をつけなければならず,胸腔ドレーン挿入時の合併症発生率は19%とも言われています2)。しかし,これら合併症の多くが予防可能です。
いずれの処置も近年は超音波ガイド下で実施するほうが安全性が高いと示されています1, 3, 4)。標準的手技も進化を遂げていることから,アップデートされた方法の修得が重要です。一方で胸腔ドレーン留置を実施する医師への調査では,たった4割程度の医師しか安全な挿入部位を選ぶことができなかったことから5),揺るぎない基本的知識の習得も安全な処置実施の鍵になると考えます。
このようなハイリスク手技を安全に実施するには,チェックリストとシミュレーションに基づく習得学習(SBME)が有効です。シミュレーションにより,ポイントを押さえながら手技の早期体験をすることで技能も自信も達成度が早期に高まり,臨床的安全閾値に到達しやすくなります(図1)6, 7)。また,久しぶりに手技を実施する人の技能回復効果(リカレント効果)もあるため,病院内に教育環境を整備することは不可欠です6, 7)。

一般的に新しい手技を学習する際は,ゆっくりとした習得スピードで始まり,要領を得てからは急峻な成長を遂げ,やがてプラトーに達し,しばらく手技をしなくなるとその能力は低下するという学習曲線を描く。シミュレーション訓練を通じて早期体験をすることで,技能も自信も達成度が早期に高まり安全性が上昇する。また,久しぶりに実践する人の回復効果も見込める。
Barsukらの研究8)では,CVC挿入の手技習得において,SBMEで訓練を受けた群は手技時間と初回穿刺成功率が有意に高く,自信も増加したとされています。また,Légerらによる研究9)では,胸腔ドレーン留置の手技習得において,SBMEで訓練を受けた外科研修医群は有意な成績の向上につながったことが示されています。
レジデントが個々人でできる患者安全対策
●冒頭の会話を分析する
手技経験を積みたい一心で,経験が浅い,かつ夜勤明けであるにもかかわらず手技に臨んでしまうケースは,向上心のある研修医にはよくあることかと思います。また指導医も技能達成度を完全に把握せず,研修医の言葉を鵜呑みにしてしまいました。こうしたすれ違いは,コミュニケーションの中では必ず起こるものです。
● 指導医と共に安全な実施環境を整備
上述したように,ハイリスク手技と呼ばれるCVC留置や胸腔穿刺などは,チェックリストとシミュレーションによる学習機会をまずは準備することが大切です。これらが存在しない施設は,研修委員会と医療安全管理室に本記事を持ってすぐに整備を訴えてください。加えて,手技を安全に行えるとはどういうことかを指導医と研修医でしっかりと学習する機会を設定することが重要となります。以下の2点を踏まえつつ,研修医が手技を安全に行える状態を実現していきましょう。
1)手技は,準備して,実践できれば良いかというとそうではない。適応と禁忌を理解し,患者・家族に同意を得て,合併症にまで対処できる必要がある。
2)手技を包括的に理解,実践するために,臨床手技評価(DOPS)に基づいた評価表と10),安全に手技を実施する7ステップを理解する11)。
①適応と禁忌を知っている
②手技の説明ができる(同意が取れる)
③準備ができる
④手技ができる
⑤成功・失敗の判断ができる
⑥合併症を把握し,対処できる
⑦手技記録が書ける
これらの項目を研修医と指導医が一緒に意識して行えるように,実施前に確認すること,標準的な手技については可能であれば病院で環境を整備することが重要です。古典的な「See one,Do one,Teach one」も悪くはないですが,近年は4 stageアプローチ(実演・脱構築・理解・実践)のプロセスを追って上記7つを理解する方法が主流となっており12),ぜひ参考にしていただきたいです。
これらを踏まえて,今回示した事例において研修医が手技による合併症を起こしてしまった時の上流の問題は,図2のように分析できると考えます。

研修医のその後
患者はその後,治療により,後遺症なく回復しました。研修医と指導医は患者へ説明,インシデントレポートを提出した上で,CVCと胸腔穿刺のシミュレーションワークショップの開催要望を医療安全管理室と研修委員会に提出しました。それを受けて病院はワークショップの開催環境を整備し,受講者および指導者に対して資格制度を導入するようにしました。資格取得者第1号となったこの研修医は,次に出会った胸水貯留の患者さんへの胸腔穿刺の実施に当たって,安全に手技を実施するための7ステップを踏まえながら手技を行いました。丁寧な説明とスムーズな手技の実施によって,患者・家族に加え,多職種からも高い評価を得ることができました。
覚えておこう!
・胸腔穿刺,中心静脈穿刺等のハイリスク処置に伴う合併症は予防可能であることを認識し,実施前に十分なシミュレーション訓練が必要です。
・イベントの上流にある問題を考えて,シミュレーションや指導医による教育環境がない場合は,研修委員会と医療安全管理室に相談しましょう。
・手技の実施には7つのステップが重要です。同意書の取得,準備,実施から合併症対応,片付けと手技記録記載までを実践してみましょう。
参考文献
1)N Engl J Med. 2003[PMID:12646670]
2)J Trauma Acute Care Surg. 2018[PMID:29443856]
3)N Engl J Med. 2018[PMID:29617577]
4)Crit Ultrasound J. 2018[PMID:30066098]
5)Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2010[PMID:20864452]
6)Chest. 2010[PMID:20061397]
7)Acad Med. 2011[PMID:21512370]
8)J Hosp Med. 2009[PMID:19753568]
9)Adv Simul(Lond). 2016[PMID:29449990]
10)Clin Med(Lond). 2003[PMID:12737369]
11)橋本忠幸.2-37手技・手技ノート.筒泉貴彦,他(編).総合内科病棟マニュアル 病棟業務の基礎(赤本).MEDSi;2021.
12)Kim DI(ed). A Textbook for Today's Chief Medical Resident, 25th ed. Alliance for Academic Internal Medicine;2018.
小坂 鎮太郎 都立広尾病院病院総合診療科 部長
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