がん薬剤師外来で実現する,薬剤師だからこそ担える役割
対談・座談会 川上 和宜,坂田 幸雄,小澤 有輝,葉山 達也
2025.03.11 医学界新聞:第3571号より

2024年6月に新設されたがん薬物療法体制充実加算(100点)は,医師の診察前に薬剤師が患者と面談する「がん薬剤師外来」の実施が算定条件とされています。しかし,副作用の評価や処方提案といった外来業務になじみのある薬剤師はまだ少数でしょう。本座談会では,がん薬剤師外来の立ち上げを経験し,現在も日々外来業務に従事する4氏に,各施設での経験や,外来を軌道に乗せるための工夫についてお話しいただきました。
川上 このほど『がん薬剤師外来マニュアル』1)(医学書院)を上梓しました。2024年度の診療報酬改定で,薬剤師による医師の診察前面談,いわゆる「がん薬剤師外来」に保険点数が付くようになったことを受け,これから「がん薬剤師外来」を始めようとする方たちに向けて,その具体的な業務内容を中心に実践的な情報をふんだんに盛り込んで書籍とした次第です。
本日の座談会では,書籍の中では語り尽くせなかった点,特にがん薬剤師外来を立ち上げた当初のお話を中心に伺えればと思っています。よろしくお願いします。
診察の“前”に薬剤師が介入する
川上 初めに,皆さんががん薬剤師外来を始めたきっかけを伺えますか。
小澤 もともと当院では100%院内処方を行っており,受け渡し窓口にて経口抗がん薬に関する診察後面談を実施していました。ところが2019年に院内処方から院外処方への全面切り替えという方針変更がなされ,病院薬剤師による介入を継続するために診察前面談の導入を検討するようになったのです。
川上 診察“後”ではなく診察“前”とした理由はあるのですか。
小澤 診察後面談を行っていた時の課題として,会計等の院内での処理が全て終わってから患者さんと面談する形をとっていたことから,薬剤師による処方提案を行うことの難しさがありました。アドヒアランスに関する助言や服薬指導を手厚く行うことは可能なのですが,処方提案となると一旦外来に戻ってもらう必要がありますし,会計がやり直しになるなど手続き上のロスが大きいです。
川上 医師による診察前・後のどちらで薬剤師が介入するのかは,一つ大きなポイントですね。薬剤師が職能を発揮するには,診察前に介入できるスキームを作ることが必要なのだと考えます。
葉山 同感です。当院はほぼ100%院外処方であるため,どこかのタイミングで経口抗がん薬のマネジメントに病院薬剤師がかかわりたいと考えていて,「がん患者指導管理料3」(当時)が新設された2014年にがん薬剤師外来を開始しました。立ち上げ当初から経口抗がん薬では診察前面談を行い,処方提案,用量調節などの面で薬剤師の職能を発揮することを重視しながら方向性を模索しています。
川上 坂田先生の施設はいかがでしょうか。
坂田 当院は,切除不能な肝がんに対して分子標的薬であるソラフェニブが保険適用となった2009年をきっかけに,肝臓専門医から副作用に関してのサポートを薬剤師に行ってほしいとの依頼があったことが始まりです。2010年から薬剤師による診察前面談を行うようになり,電話による患者サポートも行っています。いずれのサポートも,行うのは患者さんが希望する場合に限ります。
川上 医師や看護師からの反応はどうでしたか。
坂田 とても良好でした。当院の場合はもともと医師側からの要請があって始めたこともあるとは思いますが。
小澤 当院でも他職種からの反応は総じて良く,手応えを感じています。
葉山 投与基準や減量・休薬の有無があらかじめ提示されていることでスムーズな診察につながるとのフィードバックがありました。
川上 処方提案というと,多くの薬剤師はハードルが高いと感じてしまうかもしれません。また,診察時間よりも前に薬剤師が介入を行うことで診察を遅らせてしまったらどうしよう……といった不安を抱く方もいることでしょう。しかし,薬剤師による介入は他職種の負担軽減に直結しますから,まずは導入してみて,薬剤師外来がどのようなものかがわかってもらえれば,周囲からはポジティブな反応が返ってくるはずだと確信しています。
自身の提案に責任を持つマインド
小澤 診察前と後のどちらで介入するかが重要だと川上先生がおっしゃいましたが,診察前に面談を行うようになって感じる一番のメリットは,抗がん薬の中止・減量の提案が行いやすくなったことです。診察後の提案により医師の見立てを否定しているように受け取られる可能性がなくなるだけでも,薬剤師側の精神的負担が軽くなります。
坂田 初めは緊張しますよね。医師に対して中止や減量の提案をするのって。
小澤 はい。ですから私は,初めの頃は医師のところへ伺って,顔を合わせて直接提案していました。電話ではなく,直接。そうすると,案外温かく迎えてくださって,「わざわざ伝えに来てくれてありがとうございます」といったリアクションをもらうことが多くて驚きました。
葉山 単純なことに思われるかもしれませんが,電話ではなく直接伝えるというのは重要なポイントだと思います。私も電話で提案しないよう後輩に指導しています。診察を中断させてしまうことも多いですから。
川上 そうやって信頼関係を積み重ねていくと,その後の仕事もやりやすくなりますね。
加えて,減量・中止を提案する際には,「中止を検討いただけないでしょうか」ではなく,「中止を推奨する」のような表現をすべきだと考えています。中止が適当だと自身が考えたのなら,言い切るくらいの書き方をしなければならないと。
坂田 薬剤師として責任を持つマインドでもって判断を下すということですね。
川上 根拠を持って判断を下すことが習慣になってくると,患者さんへの説明もスムーズに行えるようになります。「こういう理由で減量をしなければこういう状態になる可能性が高いから減量しましょう。減量しても効果自体は継続します」と詳細に説明することは,患者さんのためにもなります。
医師と判断が違ったとき,どうする?
葉山 薬剤師として責任を持つマインドの話は,「評価」にも通ずるところかと思います。皆さんは有害事象等の評価をどう下していますか。
川上 提案を行うに当たって,Gradeがいくつといった具体的な記載をすべきという話ですね。そうした評価をカルテに書くことに,抵抗を覚える薬剤師も少なくないでしょう。
坂田 若い薬剤師に聞くと,「評価をするのが怖い」と言われることがありますね。
小澤 私も初めは抵抗がありました。怖いのもありますし,恥ずかしい気持ちもあるのだと思います。自分の考えた評価を書き込んで,それを後で他職種に読まれた際にズレたことを書いてしまっていたらどうしよう……という気持ちです。
葉山 例えば,実際に自身が記載したCTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)のGradeと,主治医の考えるGradeが異なった場合,皆さんならどう考えますか。私自身はよく出くわす状況なのですが……。
坂田 私は医師との関係性が良好なこともあり,直接尋ねてしまいますね。「自分はこうした根拠でGrade2と判断したけれど,先生はどうしてGrade3と判断したのですか」と直接確認するようにしています。よくあることです。
川上 主治医が常に正しいとは限りませんからね。反対に,薬のことだからと言って薬剤師の側が正しいとも限らない。判断に違いが生じたのなら,そこにあるギャップが何であるのかを話し合う中で見つける必要があります。ですから,自分が判断を下した根拠がきちんとあれば問題ないのです。
葉山 その通りですね。評価に関して,私は医師から怒られた経験があります。皮膚障害を持つ患者さんが女性だったこともあり,服の下をきちんと確認せずにGradeを過小評価してしまったのです。実際には広範囲に皮疹が出現していて休薬が必要な状態でした。「医療職として評価をするのであれば必要な箇所は全て目視しろ」と注意されたのですが,おっしゃる通りだと思いました。
川上 きちんと指摘してくれてありがたいですね。
評価をめぐるディスカッションを通じて他職種との関係性が構築される側面もありますから,特に若い薬剤師には,怖がらずに自分の判断を外に出して,他職種とどんどんコミュニケーションをとっていってほしいと思います。
良好な人間関係をベースに事を進める
川上 がん薬剤師外来を始めたといっても,院内で他職種に浸透していくまでには時間も労力もかかるかと思います。そのフェーズのお話を伺いたいです。
葉山 外来開設当初のことです。診察前の説明を行うので患者さんをどんどん薬剤師外来に送ってきてくださいと伝えても,なかなか送られてこない状況が続きました。そのため,個人的に親しくしている医師,その他数人の医師から患者さんが送られてくる限定的な運用を行っていたのが実際のところです。「説明をするのは医師であるわれわれでいいのではないか」と言われたこともありました。医師のニーズに訴えかける運用ができていなかったのだと思います。
川上 それで言うと当院では「薬剤師外来では薬剤師が処方提案をする」「医師の手間が減る」といった部分を強調していたので,始めた当初からかなりの数の患者さんが訪れてくれていました。軌道に乗ってくると患者さんからも便秘薬の調整をしてほしいといった要望が寄せられるなど,次から次へと依頼が殺到するようになりました。
坂田 わかりやすくニーズに訴求することが大事だということですね。
小澤 その点では当院の薬剤師外来は健闘した部分があります。外来を開始する前に,関連する診療科の医師全員にアポをとって,1人ひとりにがん薬剤師外来がどのようなものかを説明した上で,診察前に介入させてもらえるようコンセンサスを形成しました。病院規模が大きくないため実現できたわけですが。
葉山 それは大変でしたね。お一人で対応されたのですか。
小澤 当時は抗がん薬を処方する医師が20人ほどいたため,3人の薬剤師で分担して説明に伺いました。いまだに新しく入職した医師で抗がん薬を処方しそうな方には個別にアポイントを取り,あいさつに伺うようにしています。
川上 大切なことだと思います。
葉山 顔が見える関係性は,がん薬剤師外来をスムーズに運用する上でなくてはならないものだと実感しています。
坂田 当院はもとからよく知っている医師と連携していることもあって障壁が少ない状態で薬剤師外来を運用できているので,その大切さは身に染みて感じます。
小澤 同じことをしていても,見知った人から処方提案が入るのと知らない人から入るのでは,まったく意味合いが異なってしまいますからね。
葉山 医師は異動が多いですから,薬剤師外来のことをよくわかってくれていた方がいなくなって,外来が下火になってしまうという経験を何度もしてきました。小澤先生の指摘する,新しく入職した医師との関係性を作りにいくアプローチもまた重要だと思う次第です。
ポイントを押さえたカルテ記載
川上 がん薬剤師外来を継続的に行うに当たって,後進の育成・教育も重要な課題です。教育面で意識的に取り組んでいることがあれば教えてください。
小澤 当院では毎日症例カンファレンスを行って,臨床業務の振り返り,介入の改善について検討しています。終業時刻が17時15分のため,16時30分以降の時間を充てている形です。化学療法チームの薬剤師4人全員が集まり,化学療法室,がん薬剤師外来,病棟でその日に介入した患者さん全員(30人ほど)に関して,1人ずつ共有しています。
坂田 全例を振り返るのはすごいですね。
小澤 自身の評価・介入とその根拠を共有して他のメンバーからのフィードバックをもらいつつ議論することで,評価・介入の精度が徐々に上がっているように感じます。あまり良くない介入をしてしまったときに,きちんと指摘が入ることもポイントです。
加えて,カンファレンスによって患者情報が常に更新された状態で頭の中に入ることになるので,欠員時の対応がスムーズになるのもメリットだと感じています。
川上 良い取り組みですね。葉山先生の施設はいかがですか。
葉山 当院では若いメンバーが多いこともあり,処方提案時のカルテの書き方のルールを定めています。伝わりやすく端的な記述を求めることを前提に,必ず医師に伝えなければならない点を3つ決めています。当日の化学療法の可否(血液検査の結果から),用量(同じ量でいいのか,減らすのか),副作用に伴う追加の処方の3点です。
川上 カルテの書き方は重要なポイントです。薬剤師は詳細に書くことに価値を見いだしがちですが,おっしゃるとおり端的に書くべきです。また,治療ごとに確認すべき重要な点は異なるので,そうした勘所をしっかりつかんでおくことも,カルテ記載に当たっては大切ですね。
葉山 レジメンごとに確認すべき評価項目を決められると理想的です。
川上 そこにプラスして,がんの病態についての知識を備えておくのが望ましいと考えます。例えば,膵臓がんでは高血糖が付随するのでステロイドの使い方に注意が必要であるといった具合に,薬剤師が知っておくべき病態は少なくないです。『がん薬剤師外来マニュアル』では,がん種ごとに「〇〇がんの病態生理」という項目を作成しました。また,レジメン別の項目には「抗がん薬治療や支持療法薬の提案に関わること」として,具体的に薬剤師が関与できる工夫を記載しています。参照していただければ幸いです。
*
川上 副作用の評価や処方提案など,がん薬剤師外来で行う業務になじみのある薬剤師はまだ少ないかと思います。しかし,こうした業務は,適切な薬物療法を患者さんに提供するという薬剤師本来の仕事であり,取り組むだけの価値があります。外来の立ち上げ,継続には困難が伴うことも事実ですが,ぜひチャレンジしてみてほしいです。
また,本日の話題に関連した研究として,薬剤師の推奨によって抗がん薬を減量・中止してもRDI(Relative Dose Intensity:相対用量強度)はほとんど変わらず,患者の副作用が減じるといった内容の論文を現在まとめているところです。今後は,薬剤師の介入で患者QOLが上がるというエビデンスを積み重ねていきたいと考えています。
(了)
参考文献
1)川上和宜,他(編).がん薬剤師外来マニュアル.医学書院;2025.

川上 和宜(かわかみ・かずよし)氏 がん研究会有明病院薬剤部・調剤室 室長
2000年昭和薬科大大学院医療薬学専攻修了。博士(薬学)。同年癌研究会附属病院(当時)に入職。その後同院医療安全管理部を経て,24年より現職。日本医療薬学会がん専門薬剤師,がん指導薬剤師。編著に『がん薬剤師外来マニュアル』『がん薬物療法副作用マニュアル 第3版』(ともに医学書院)。

小澤 有輝(おざわ・ゆうき)氏 けいゆう病院薬剤部 副主任
2012年昭和薬科大薬学部卒。同年川崎幸病院に入職。その後,14年けいゆう病院に入職。23年より現職。日本病院薬剤師会がん薬物療法専門薬剤師,日本緩和医療薬学会緩和医療暫定指導薬剤師。

坂田 幸雄(さかた・ゆきお)氏 市立函館病院薬剤部薬物療法科長
1989年北海道医療大薬学部卒業後,株式会社ツルハホールディングス勤務を経て,90年市立函館病院薬局に入局。2020年より現職。日本病院薬剤師会がん薬物療法認定薬剤師。青森大客員教授を兼務。

葉山 達也(はやま・たつや)氏 日本大学医学部附属板橋病院 薬剤部 技術長補佐
2011年日大大学院薬学研究科博士後期課程修了。博士(薬学)。03年に日大板橋病院に入職後,同院薬剤部主任を経て,21年より現職。日本医療薬学会がん専門薬剤師,がん指導薬剤師。
腫瘍内科医からのメッセージ
勝俣 範之
がん薬物療法を安全に行う上で最も大切なのは,投与量やスケジュールを間違えないことです。微細なミスが,時には患者さんの命をも脅かすことになるからです。患者さんの副作用に応じて,投与を休止したり,減薬したりする詳細な調整が必要です。180種類以上もあり,増え続けるがん薬物療法の1つひとつの複雑なプロトコルを,医師が全て把握することは困難です。がん薬剤師外来が開設されたことは,医師にとっても患者さんにとっても,安全,適格に薬物療法を実施する上で,大きな朗報と言えます。また,がん薬物療法のみでなく,制吐薬や前投薬,支持療法などについても,薬剤師がサポートを行うことは有意義と考えます。
実際に私の外来でも,投与量やスケジュールの調整,制吐薬のオーダー,irAE(免疫関連有害事象)への対応など,薬剤師から詳細にアドバイスを受けており,日々の臨床でなくてはならないパートナーとなっています。
今後は,米国のように,リフィル処方やプロトコル既定の処方ができるようにするなど,薬剤師が処方もできる制度にまで発展することを期待しています。
勝俣 範之(かつまた・のりゆき)氏
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科 教授 / 部長
1988年富山医薬大(当時)卒。10年国立がん研究センター中央病院乳腺科・腫瘍内科外来医長。11年より現職。近著に『ジェネラリストのためのがん診療ポケットブック』(医学書院)。
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