がん薬剤師外来マニュアル
がん薬剤師外来(医師の診察前に行う面談)にフォーカスを絞ったマニュアル
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がん薬物療法体制充実加算で注目を集めている「がん薬剤師外来」(医師の診察前に行う面談)にフォーカスを絞ったマニュアル。実際にがん薬剤師外来の立ち上げを経験し、外来業務を行っている薬剤師が患者への丁寧な説明、医師への支持療法薬提案、支持療法薬の使い方の説明といったよりきめ細やかな対応を行うためのエビデンスとコツを余すところなく具体的に解説。実際にがん薬剤師外来を始めたい人たちにベストな1冊。
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序文
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編集の序
私ががん薬剤師外来を始めて少しずつ自信がついていた頃です.何年も抗がん薬治療を継続していた高齢患者から思いがけないことを言われました.「この薬剤師外来っていいシステムだよね.やる方は大変だと思うけど,薬の話を中心にできるからとても安心して治療を受けられるよ」.いつも口数少なく,症状だけにフォーカスして話す患者からの言葉であり,とても嬉しくて自信を持てた出来事でした.
がん薬剤師外来を実践していて思うことは,「薬剤師は薬のことはよく知っているが病態のことを理解せずに対応していることが多い」ということです.例えば食道がんの患者の症状の訴えに対応するために錠剤を医師に処方提案したものの,その患者は食道がんの病状が進行しているために錠剤を内服するのは難しかったというケースがあります.また膵臓がんの患者に対して吐き気のコントロールができていなかったので,ステロイドの投与期間延長やオランザピンの追加を医師に処方提案したものの,高血糖のため抗がん薬治療自体が延期したケースもあります.膵臓がんの病態として患者は高血糖になりやすいことを知っておくべきで,これは私自身の教訓となったケースです.そこで,本書ではがん種ごとにがん薬剤師外来の実施時に知っておきたい「〇〇がんの病態生理」という項目を作成しました.そして,レジメン別の項目には「抗がん薬治療や支持療法薬の提案に関わること」として具体的に薬剤師が関与できる工夫を記載しました.読者の皆さんには,薬だけでなく患者の病態も考えて,適切な薬物療法を提供できるようになっていただきたいと思います.
2024年6月より算定可能となったがん薬物療法体制充実加算は,医師の診察前に薬剤師が患者と面談することが条件となっています.すなわち,薬剤師が患者と面談して,抗がん薬の副作用を評価して,抗がん薬の休薬・減量や支持療法薬の追加や変更などを医師に提案することが求められます.外来でがん薬物療法を行う患者はさまざまなことで困っていることが多く,薬剤師がそのような患者に関わり,支えることが正式に認められたという捉えかたもできます.薬剤師が本質的に行うべきことを理解して,本書を参考に多くの患者に質の高いがん薬物療法を提供していただければと思います.
なお,本書はがん薬剤師外来で求められる薬物療法の知識を中心に記載しました.これに加えて,がん薬剤師外来を院内で立ち上げてうまく運営していく際のコツや課題の解決といったマネジメントに関する情報は,私も参加した医学界新聞の座談会の記事が参考になると思います.こちらもぜひご覧ください.
本書の発刊には多くの方々のご尽力をいただきました.臨床現場で日々忙しく奮闘する中で時間を作って原稿を執筆いただいた先生方,企画段階から関わっていただいた医学書院の西村僚一氏に深く御礼申し上げます.
2025年3月
がん研究会有明病院薬剤部
川上和宜
目次
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略語一覧
レジメンを構成する医薬品の略名一覧(主に抗がん薬)
第1章 薬学的ケアの実践
第2章 外来診察時のイロハ──医師のチェックポイント
第3章 がん薬剤師外来における薬剤師ならではのスキル
第4章 経口抗がん薬のアドヒアランス評価の重要性
第5章 がん薬物療法の副作用の重症度評価の重要性
第6章 患者との面談時に引き出すステップ
第7章 免疫チェックポイント阻害薬
1 ICIの薬理とirAEの特徴
2 ニボルマブ療法(NIV療法)
3 デュルバルマブ+トレメリムマブ療法
第8章 乳がん
4 乳がんの病態生理
5 カペシタビン療法(CAP療法)
6 dose-denseエピルビシン+シクロホスファミド療法(ddEPI+CPA療法,ddEC療法)
7 dose-denseパクリタキセル療法(ddPTX療法)
8 ドセタキセル+シクロホスファミド療法(DTX+CPA療法,TC療法)
9 アベマシクリブ+内分泌療法
10 パルボシクリブ+レトロゾール or フルベストラント療法
第9章 肺がん
11 肺がんの病態生理
12 オシメルチニブ療法
13 ロルラチニブ療法
14 ペムブロリズマブ+カルボプラチン+ペメトレキセドfollowed by ペムブロリズマブ+ペメトレキセド療法
第10章 胃がん
15 胃がんの病態生理
16 S-1+オキサリプラチン+ニボルマブ療法(S-1+L-OHP+NIV療法,SOX+NIV療法)
[column] S-1の流涙障害のメカニズムと指導のポイント
17 ラムシルマブ+nab-パクリタキセル療法(RAM+nab-PTX療法)
18 トリフルリジン・チピラシル療法(FTD/TPI療法)
19 トラスツズマブ デルクステカン療法(T-DXd療法)
20 ゾルベツキシマブ療法
第11章 食道がん
21 食道がんの病態生理
22 パクリタキセル療法(PTX療法)
第12章 大腸がん
23 大腸がんの病態生理
24 カペシタビン+オキサリプラチン療法(CAP+L-OHP療法,CAPOX療法)
25 フルオロウラシル+レボホリナート+イリノテカン療法(5-FU+l-LV+CPT-11療法,FOLFIRI療法)
26 トリフルリジン・チピラシル+ベバシズマブ療法(FTD/TPI+BEV療法)
27 レゴラフェニブ療法(REG療法)
第13章 肝細胞がん
28 肝細胞がんの病態生理
29 アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法(Atezo+BEV療法)
第14章 胆道がん
30 胆道がんの病態生理
31 ゲムシタビン+シスプラチン+デュルバルマブ療法
第15章 膵臓がん
32 膵臓がんの病態生理
33 nab-パクリタキセル+ゲムシタビン療法(nab-PTX+GEM療法,GnP療法)
34 オキサリプラチン+イリノテカン+レボホリナート+フルオロウラシル療法(L-OHP+CPT-11+l-LV+5-FU療法,FOLFIRINOX療法)
35 S-1+ゲムシタビン療法(S-1+GEM療法,GS療法)
第16章 卵巣がん
36 卵巣がんの病態生理
37 パクリタキセル+カルボプラチン療法(PTX+CBDCA療法,TC療法)
38 オラパリブ+ベバシズマブ療法
第17章 甲状腺がん
39 甲状腺がんの病態生理
40 レンバチニブ療法
第18章 腎細胞がん
41 腎細胞がんの病態生理
42 ソラフェニブ療法
43 パゾパニブ療法
44 カボザンチニブ療法(Cabo療法)
45 ペムブロリズマブ+アキシチニブ療法
第19章 前立腺がん
46 前立腺がんの病態生理
47 エンザルタミド療法(EZ療法)
48 アビラテロン+プレドニゾロン療法(Ab+PSL療法)
49 カバジタキセル+プレドニゾロン療法(CBZ+PSL療法)
第20章 血液がん
50 悪性リンパ腫の病態生理
51 ポラツズマブ ベドチン+リツキシマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン+プレドニゾロン療法(Pola+R-CHP療法)
52 リツキシマブ+ベンダムスチン療法(RB療法)
[column] 自宅での抗がん薬曝露対策
53 オビヌツズマブ+ベンダムスチン療法
索引
書評
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実際の外来業務で即戦力となるための情報が満載
書評者:山口 正和(がん研有明病院院長補佐・薬剤部長)
「がん薬剤師外来マニュアル」は,がん薬物治療にかかわる多くの薬剤師にとってまさに必携の一冊です。2024(令和6)年の診療報酬改定で新設されたがん薬物療法体制充実加算が注目される中,本書は「がん薬剤師外来」において医師の診察前に行う薬剤師による面談のプロセスや治療ごとに使用されるレジメンと患者面談のポイントを詳細に解説しています。
本書の最大の特徴は,診療報酬として新設される以前からさまざまな試練を乗り越え実際にがん薬剤師外来の立ち上げを経験した最前線で活躍する薬剤師によって執筆されている点です。この実体験に基づく内容は,実際の現場で直面する課題を鮮明に描き出し,薬剤師がどのような対応をすれば患者に安心と信頼を提供できるかを具体的に示しています。患者への説明は丁寧でわかりやすく,また医師に対する支持療法薬の提案やその使い方の共有方法にも十分配慮されており,エビデンスに裏付けられた説得力ある内容です。
特に印象的なのは,患者とのコミュニケーションに重きを置いた構成です。薬剤師は単に薬を渡すだけでなく,患者の不安を解消し,治療方針に納得してもらうことで治療の効果を最大限に引き出す役割を果たします。本書では,具体的な患者との対話例や,患者の理解を助けるための工夫についても詳述されており,実際の外来業務で即戦力となるための情報が満載です。
また,本書では支持療法薬の選択や提案プロセスにおいても,エビデンスを踏まえた提案方法が具体的に解説されており,そして「副作用の重篤度評価と薬学的ACTION」の項目では,薬剤師がどのように効果的に治療に参加するのか,具体的なアプローチが示されています。
さらに,がん薬剤師外来の立ち上げを志す人々に向けて,ステップバイステップで理解できるよう配慮されている点も見逃せません。本書を手に取ることで,外来業務の基本から応用までをしっかりと学ぶことができ,実際の業務においてどのように実践していくかの具体的なビジョンを得られるでしょう。
まとめると,『がん薬剤師外来マニュアル』は,がん薬物療法に携わる薬剤師にとって欠かせない指南書であり,ここには患者や医師とのコミュニケーションを向上させるための実践的な知識が詰まっています。これからがん薬剤師外来を始める方,また既に外来業務を行っている方のいずれにとっても,大変価値のある一冊といえるでしょう。
がん薬剤師外来を行う際の有用な参考書
書評者:近藤 直樹(国立がん研究センター東病院薬剤部長/日本臨床腫瘍薬学会理事長)
日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)が2021(令和3)年度にがん診療連携拠点病院を対象に実施した外来薬剤師業務実態調査結果(回答率76.1%〔343/451施設〕)によると,外来がん治療室において薬物療法を受ける患者への薬剤師による指導は343施設中327施設(95.3%)で実施されており,「初回治療時」では診察前が6施設,診察後は198施設,どちらもあり得るは114施設であった。「初回治療時以降」は,診察前が21施設,診察後は164施設,どちらもあり得るは124施設であった。このように診察前に実施する薬剤師外来はつい数年まで,がん診療連携拠点病院であってもその実施施設数は決して多くなく,広く普及しているとまではいえなかった。
2024(令和6)年度診療報酬改定で,診察前に行われるがん薬剤師外来に対する診療報酬である「がん薬物療法体制充実加算」が新設され,2024年6月1日より施行された。同加算の要件として,外来腫瘍化学療法診療料1に係る届出を行っていること,日本病院薬剤師会,日本医療薬学会,JASPOが認定する資格者を有していることなどの条件を満たす必要がある。同加算新設直後(2024年8月10日~9月20日)に,JASPOが2024年度がん診療連携拠点病院を対象にした外来がん治療部門の薬剤師業務に関する実態調査を実施したところ(回答率74.6%〔344/461施設〕),がん薬物療法体制充実加算を算定している施設は344施設中146施設(42.4%)で,同加算の新設を契機に薬剤師外来を設置し,同加算の算定を行う施設が急速に広がりをみせている。その一方,同加算を算定している146施設では,請求件数が30件未満/月が83施設(56.8%)を占めており,薬剤師外来を通して必ずしも多くの患者に寄与できているわけではないこともわかる。その要因は現時点では明らかではないが,薬剤師外来の対象となる患者が現場に広く浸透していない可能性がある。
このマニュアルの執筆陣は外来がん治療業務を行っているがん専門・認定薬剤師が中心で,彼らががん薬物療法のポイントを図や表を使いながらわかりやすくまとめている。また実際に薬剤師外来の立ち上げの経験を通して,院内での薬剤師外来の立ち上げや運営に関する情報の他,どのような患者に対して薬剤師外来を通して介入しているのか,わかりやすく提示している。よりきめ細やかな対応を行うためのエビデンスとコツ,例えば患者への丁寧な説明,医師への支持療法薬の提案,支持療法薬の使い方の説明などが具体的で,読者の役に立つだろう。またがん種ごとに,病態生理を理解し,適切な薬物療法を提供するための情報が盛り込まれており,薬剤師外来の設置,がん薬物療法体制充実加算の導入を検討している関係者にとって,患者の病態を考慮しながら質の高い治療を提供するための参考書として,本書は有用な一冊となると考える。