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『レジデントのためのビジネススキル・マナー――医師として成功の一歩を踏み出す仕事術55』より

連載 松尾 貴公

2024.04.05

企業に入職した会社員は新人研修で一通りの社会人としての基本的なマナーや仕事術を系統的に学ぶことが多いものの,医師にはそのような機会が乏しいのが現状です。その結果,医療者以外の方と共に仕事をしたり,コミュニケーションをとったりする中で,恥をかく経験やトラブルに至ってしまうケースもあります。そんな状況を防ぐために,社会人として必要な基本的な心得,院内・院外で必要なマナー,医師として必要な仕事術について紹介したのが『レジデントのためのビジネススキル・マナー』です。「医学界新聞プラス」では,本書の中から全3回にわたって内容を一部抜粋して紹介をしていきます。

教えられ上手になるために

より多くの学びを得るための6つのテクニック

#教えてもらう

POINT
  良好なコミュニケーションで信頼を得る!
  教える人にまた教えたいと思わせる
  メモ帳をまず購入しよう

 

指導する側から考えてみる「教えやすい人」「教えにくい人」


皆さんが研修医として慣れない環境に立ったときに、さまざまな疑問が生じると思います。自分で調べることも大事ですが、積極的に教えてもらうようにしましょう。しかし、皆さんのなかには、「教えられ上手」と「教えられ下手」の両者がいるはずです。教えられ上手な人は先輩から多くの新しいことを吸収し成長していく一方、教えられ下手な人は、なかなか学びを得ることができずにいます。「なかなか教えてくれない」と呟く人もいるかもしれません。

指導する側になればわかるのですが、「教えたいと思う人」と「教えにくい人」の両者が存在することに気がつきます。この2つの違いは何でしょうか。ここでは皆さんが「教えられ上手」「教えたいと思う人」になれるようなテクニックをお伝えしていきます。

大前提は「良好なコミュニケーションと信頼関係」


人間の心理として誰もが、自分の行為に対して興味を示してくれる人を好み、自分が喜びを感じるものに時間をかけたいと思います。この心理は「教える」という行為でも同様です。信頼のおける後輩、積極的に頑張っている後輩に対して手厚く接したり、丁寧に教えたりすることは当然のことです。さらには他には共有しないことを教えてくれたり、自分の大事な人を紹介してつながりを持たせてくれたりしてくれることもあるでしょう。人と人の付き合いですので、良好なコミュニケーションが大前提であることは言うまでもありません。

それでは、実際に役立つ具体的なテクニックをお伝えしていきましょう。

「教えられ上手」になるための6つのテクニック


明るい表情・反応・相づち
以下の6つのなかで1, 2を争う重要テクニックです。

教える側が一生懸命教えたとしても、暗そうな表情でリアクションが乏しい研修医を目の前にすると「聞いているのかな?」「興味あるのかな?」「つまらないのかな?」と教える側は疑問に思います。

明るい挨拶から始まり、「楽しそう」な表情で効果的な相づちや反応を示すことは、教える人にとってモチベーションの維持につながります。積極的にコミュニケーションを取ることにより教えたいという心情にさせるのです。


積極性・旺盛な好奇心
自分が抱いている疑問をどんどん質問してみましょう。「何か質問ある?」と言われて黙っているのはもったいないです。別項41「質問力」でも述べていますが、常に「指導医に会ったら何を質問しようかな」と用意をしておくことは重要です。あなたの積極性の表れとしてアピールができます。また、教えてくれる人の話の中身にも興味を持ちましょう。「もっとそこを詳しくお聞きしたいです!」「〇〇に関してとても興味があります」「自分で調べてみますので後日再度お時間を15分ほどいただけますか」などといった反応は教える側としては嬉しいものです。結果的に好奇心が旺盛で質問が多い人にはどんどん有益な情報が集まるのです。


率直さ・素直さ
上級医に教えてもらったことを、「それ知っています」「大事とは言っても実際にあまり使わないんじゃないですか?」「でも、こっちにはこう書いてありました」など、素直に受け入れない場面もたまに見かけます。もし心の中で思っていたとしてもいったんは素直に聞きましょう。教える側がどんな気持ちになるかを想像してみてください。

また、プライドが許さずに自分がわからないことを人に聞かずそのまま放置したり、わかったふりをしたりする人がいます。素直に「わからない」、率直に「教えてください」と伝えることは簡単そうで意外に難しいです。皆さんが出会った問題はいずれ必ず同じ問題で壁にぶつかるため、そこで解決しておくかどうかで後々の人生に大きく関わります。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」です。学ぶことは膨大なので、特に上級医だけではなく同期から教えてもらうときや、後輩に教えてもらうことも今後増えてくるかと思いますが、学年に関係なく同様の姿勢で臨めるかは自分の成長につながるかどうかの分かれ道となります。


アクティブメモを取る
教えてもらう際にメモを取るということは大きく2つの意味があります。

1つ目は「記憶より記録」。1度聞いた内容を忘れないようにしっかり記録として残し、後で何度も見直せるようにします。教わった内容を忘れるどころか、教わったこと自体を忘れることもあります。次に聞かれたときにしっかり答えられるようにするためにまずは記録に残しましょう。

2つ目は「教えてもらう人へのマナー」。メモを取ることで、「今教えてもらっている貴重な時間を無駄にしない」「教えてもらったことをすべて吸収する」という姿勢を表すことが重要です。逆にメモを取らないと、「聞き流しているな」「貴重な話と思っていないんだな」と教える側のモチベーションを下げる原因となります。

いますぐメモ帳を用意しましょう。裏紙は認められません。すぐに書き込むスペースがなくなったり、うっかり捨ててしまったりすると教える側はわかっているからです。ポケットサイズでいつでも取り出せるメモを胸ポケットに入れておきます。効果的なメモの取り方に関しては『レジデントのためのビジネススキル・マナー』別項40「メモ力」をご参照ください。


迅速な自主トレ
意外に実践されていないのがこの自主トレです。具体的には、教えてもらったことはすぐに再度復習し、できるだけ他の人にアウトプットすることにより記憶の定着に努めるトレーニングを繰り返すということです。教えてもらってそれをメモするところまではクリアしたのにもかかわらず、それで満足している人が実に多いのです。聞くときは調子が良いけれど、同じことを何度も質問してくることが続くと自分のものになっていないことが教える側にはすぐにわかります。そして、覚えてくれていないと何度も教えることにだんだんと虚しさを感じるようになるのです。


報告と感謝
教える側としては自分が教えたことにより相手がそれを活かして何かができるようになると、成長を感じることができて嬉しいものです。自分の忙しい時間を使って教えた甲斐があったと喜びを感じ、またその人に教えたいと思うようになります。

したがって、皆さんは教えてもらった後に「〇〇ができるようになった」「教えてもらった知識が役に立った」と積極的に報告するようにしましょう。

また、忙しいなか貴重な時間を割いて教えてもらえることに感謝の気持ちを忘れずに相手に伝えましょう。もちろんお世辞は禁物ですが、「ありがとうございます」「わかりやすかったです」「是非次もお願いします」「先生のおかげでうまく〇〇できました」、などと言葉で伝えることは良好なコミュニケーションを取るうえで重要な要素です。

 

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