看護のアジェンダ
[第238回] 看護の知の普及
連載 井部俊子
2024.10.08 医学界新聞(通常号):第3566号より
「看護師だった私が病院を辞め,研究の道に向かうことになったのは,ある患者さんとの出会いと別れがあったからである」と,坂井志織さんは書き始める。
当時,総合病院の脳神経外科病棟“7東病棟”に勤務していた坂井さんは手術のために入院した村中さん(仮名)と出会った。看護師3年目で初めて担当した脳腫瘍の患者であった。村中さんの手術は予定どおり行われ成功した。しかし,腫瘍の摘出部位が脳幹部に近いこともあり,脳浮腫に加えて意識障害や小脳失調,嚥下障害など複数の症状から誤嚥性肺炎を併発した。やがて自発呼吸が困難になった村中さんは,気管挿管をされて人工呼吸器を使用する状態が長引き,気管切開が行われた。村中さんは,意識障害と高熱が続き衰弱が激しく生死の境をさまよった。家族は仕事帰りに面会に訪れては,さまざまな機器につながれた意識のない村中さんのそばにじっと座っていた。担当看護師であった坂井さんは,家族にその日の体調を説明し,着替えのお礼を言いねぎらいの言葉をかけベッドサイドで一緒の時を過ごした。
しびれが治らない苦しみ
主治医に山場だと言われてから数日がたつと,村中さんの熱は下がり肺炎は改善した。人工呼吸器につながれた自分の様子に気づいた村中さんは機器類をはずしてほしいとジェスチャーした。しばらくして人工呼吸器が取り外された村中さんはつじつまの合わない発言が続き,不穏やせん妄状態となった。一人での歩行も困難になった村中さんにはリハビリが開始され,嚥下機能も回復していった。坂井さんは家族と共に心から回復を喜んだ。
その後,村中さんは「腕がしびれる。だるい」と訴えるようになった。看護師たちは,温めたり冷やしたり,マッサージをしたり,村中さんとともに思いつく限りの方策を試してみたが,功を奏さなかった。
入院から約4か月後,村中さんはしびれの完治をめざして温泉治療施設を有するリハビリ病院に転院した。看護師たちは,...
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