医学界新聞

寄稿 荒隆紀

2024.09.10 医学界新聞(通常号):第3565号より

 現在,国内の医療サービスは受ける場所によって,外来医療,入院医療,在宅医療,オンライン診療の4つに大きく分かれる。その中でも,厚労省が発表した在宅患者訪問診療料,往診料の件数の推移(図1a1)によると,在宅医療を受ける患者数は年々増加していることがわかっている。2019年の調査では,在宅医療を受ける約9割を75歳以上の後期高齢者が占める(図1b1)が,小児や若年者についてもその数は年々増加しているため,年齢や臓器に関係のない幅広い疾患対応が必要となってきた。

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図1 在宅患者訪問診療料,往診料の件数の推移(a)と,在宅患者訪問診療料における年齢緩急別分布(b)(文献1をもとに作成)
訪問診療は患者宅に計画的,定期的に訪問し,診療を行うもの,往診は患者の要請に応じ,都度,患者宅を訪問して診療を行うものを指す。在宅医療を受ける患者数は増加傾向にあり,その9割ほどを75歳以上の高齢者が占める。

 しかし,疾患対応のみならず,「患者に装着された医療デバイス管理や手技対応」も大切な論点となる。近年の医療レベルの向上に伴い,在宅医療の現場で医療機器や医療材料を必要とする医療依存度の高い患者は増加した。また,地域包括ケアシステムの下,地域医療が「病院完結型」から「地域完結型」へと切り替わるように2024年の診療報酬改定でも誘導され,自宅や施設で行われる医療の幅はますます広がっていくことが予想される。だが現実問題として,「患者に装着された医療デバイス管理や手技対応への不慣れ」が理由で,医療機関や訪問看護ステーションが在宅医療の受け入れを断るケースも一定数見受けられる。

 現状,在宅医療でのデバイス管理,手技対応には,以下の3つの懸念が存在すると考えている。

懸念①リソース制限

 在宅医療は基本的に少人数の医療チーム(医師や看護師,医療事務)によって医療サービスが提供される。そのため,デバイス管理や手技に伴う合併症が発生した際の対応にリソース制限があり,時に病院への迅速な相談や紹介が必要となってしまう。

懸念②医療を専門としない人々との協働

 生活と医療が融合した「暮らし」を支える在宅医療では,患者,家族などの介護者,施設スタッフとともに24時間365日の生活サポートに関して協働する必要がある。医療者は彼ら彼女らからの手技やデバイスに関するケアの相談に乗る必要があるが,そうした知識をわかりやすく伝えて理解してもらうには困難さを伴う。

懸念③幅広い手技やデバイスに対して医療専門職自身も不慣れであること

 例えば,医療的ケア児を筆頭に,在宅医療の現場では,気管切開,人工呼吸器,胃瘻,尿道カテーテルなど複数のデバイス管理や手技が要求される。しかし,多くの医療専門職のキャリアの大半が臓器別専門&病院勤務である現代においてこれら全てを経験することはまれであり,医療専門職であっても不慣れであることが多い。正直に告白すれば,筆者自身が医師7年目で在宅医療の世界に入った際に一番悩んだのが上記であった。訪問看護師や家族から聞かれる医療デバイスに関する質問対応や,訪問看護師が対応困難な尿道カテーテルの挿入・留置など,冷や汗をかきながらの対応を何度も経験したものである。

 具体例として在宅医療における胃瘻管理を考えてみたい。胃瘻患者を在宅で受け入れるとしたら,胃瘻チューブの交換対応という“手技”と,よくある合併症やトラブル“対応”が求められるだろう。

 前者に関して,一般的に交換頻度はバルーン型では1か月に1回,バンパー型では4~6か月に1回の交換となっている。ただし,初回交換はおよそ6か月後となり,瘻孔が不完全なことが多いため,胃瘻造設機関での内視鏡下による交換が推奨されている。一方で,瘻孔が安定している状態での定期交換は交換キットを用いて在宅でも実施可能だが,安全かつ適切に交換するためにはガイドワイヤーの使い方や交換後の確認方法についても知っておく必要がある。よく用いられるPEGカテーテルの種類と基本構造は図2,32)に示すとおりで,取り扱い方や耐久性が異なるため,把握しておくことが望ましい。

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図2 PEGカテーテルの種類(『在宅医療ケアのための手技・デバイスマニュアル』,27頁より)
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図3 PEGカテーテルの基本構造(『在宅医療ケアのための手技・デバイスマニュアル』,27頁より)

 後者のよくある合併症やトラブル“対応”に関してであれば,胃瘻患者に伴う合併症として代表的な瘻孔周囲の皮膚トラブルや胃瘻周囲の漏れ,嘔吐,下痢,便秘への対応に加え,自己抜去/事故抜去というような有事の対応も求められる。

 胃瘻チューブが抜けてしまった時は,型によって対応が異なる。バルーン型の場合,バルーンがしぼんで抜けたのであれば,すぐに訪問し再挿入を試みることになるが,訪問まで時間がかかる時は一時的に尿道カテーテルを入れておくこともあるのはよく知られている。しかし,尿道カテーテルのカフ先端はカテーテルが飛び出した状態になっているため,先端が胃壁を刺激し,潰瘍をつくることがあるために注意が必要である。バルーン型の自己/事故抜去を繰り返す事例では胃蠕動による陰圧で破裂しやすくなっていると考えて,入浴時などはカテーテルを輪ゴムで止めておくこともよくなされるアドバイスである。一方,バンパー型の自己/事故抜去時は瘻孔破損の可能性があるため,内視鏡での交換を考慮して病院への紹介が必要となる。こうした判断は一度経験した医療者は慣れているが,初学者にはわかりづらい点となる。

 また,これらの医療デバイスは,主に急性期病院では“治療”として導入されるものの,在宅医療では“生活を支える医療サポート”としての意味合いを強く帯びることになる。こうした「在宅ならでは」のケアに関して幅広い知識を担保するような教育プラットフォームの構築が必要だと考えている。


1)厚生労働省.在宅医療の現状について.第2回在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ参考資料.2022.
2)荒隆紀.在宅医療ケアのための手技・デバイスマニュアル.医学書院;2024.

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医療法人おひさま会 最高人事責任者

2012年新潟大医学部卒。洛和会音羽病院にて初期研修の後,同院呼吸器内科後期研修。18年関西家庭医療学センター家庭医療学専門医コースを修了,同年より現職。『在宅医療ケアのための手技・デバイスマニュアル』『京都ERポケットブック 第2版』(いずれも医学書院)など著書多数。