医学界新聞

排便トラブルの“なぜ!?”がわかる

連載 三原弘

2024.04.09 医学界新聞:第3560号より

 高齢者の排便トラブルは問診や診察から情報を取得することが困難です。また,在宅,介護施設,療養病床では検査・診断機器も利用しにくく,さらに在宅では便を直接観察できないこともあり,結果的に患者,家族,介護負担を増加させていると言えます1)。そうした負担を減らすには,排便トラブルに対する正確な知識の獲得と,「エコー」という新たな武器を手に入れることが一案として挙げられます。そこで連載の最後となる今回は,注目が集まるエコー検査に関する看護師からの質問も取り上げながら,排便トラブル対応の今後について考える回にしたいと思います。

①在宅・介護施設の長期臥床者は最も排便管理に注意が注がれるべき対象である
②エコー検査において,硬便は真っ黒に見える
③下剤の調整やエコーの使用によって,患者負担だけでなく,医療介護職の負担も減少する可能性がある

 臥床気味の患者さんは,連載第1回で解説したような便秘の危険因子を多く有しています。しかし,患者さん側からの訴えが乏しく診察や検査の頻度も低いことから,医療者側は情報が取りづらい状況にあります。排便トラブルに起因した摘便,浣腸,着替え,洗濯などが発生しても,漫然と下剤が継続されたり,とりあえず下剤が増量されたりという対応になりがちです(○×クイズ①)。そのため,排便トラブルに関して関係者間で共通認識を持てるような簡便で客観的な評価ツールがあるとケアに役立ちます。そこで有用なツールがエコー検査です。

 エコー検査は,観察したい対象物にエコーを当てて,生体内から跳ね返ってくる反射強度の差を利用し画像化しています。便秘エコーの文脈で考えると,水は通り抜けるため画面上は黒く,硬便は反射するため表面は真っ白に描出され,深部はエコーが入らず真っ黒に(○×クイズ②)。ガスが溜まっていれば線状に散乱した形(線状高エコー)が描出されます。これが便秘エコーを理解するための基本情報です。その上で,各組織,本稿執筆時点での筆者個人の意見を勘案し,レベル1として直腸エコー,レベル2として結腸エコーに分けて,便秘エコーに関する私案を述べていきたいと思います。

◆レベル1:直腸エコー

 連載第8回の小児の便秘で少し紹介した直腸エコーについて再度詳しく取り扱います。

描出法:恥骨上縁に横断または縦断走査でプローブを当て,尾側に傾け膀胱を描出し,その深部に直腸を描出します。

読影法:①全周性に灰色の輪っかのように見えれば,虚脱した直腸と判断され便貯留なし(図1a),②モザイク状の灰色に見えれば普通便の貯留(図1b),③表面が真っ白の三日月型で,背部が黒く見えれば,硬便貯留(図1c)と評価する3段階のプロトコルがエキスパートコンセンサスとして提案されています2)(本稿では初学者向けの表現で説明しています。ご了承ください)。評価後の対応は学会等の組織が検討中ですが,本連載で一貫性を持たせるならば,①経過観察または結腸エコー追加(直腸には残便がないのに残便感が強い場合は感受性を低下させる薬剤の考慮),②浣腸・坐剤(残便感がなければ感受性を改善する薬剤の追加を考慮),③摘便後に浣腸・坐剤,緩下剤追加(残便感がなければ感受性を改善する薬剤の追加を考慮)ということになりそうです。長期療養型病床に入院する高齢者では74.4%で直腸に便貯留が観察されると報告されており3),直腸エコーだけでも実施できると浣腸・坐剤・摘便の適否の判断に役立ちそうです。

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図1 直腸エコーのイメージ

◆レベル2 結腸エコー

 直腸エコーで直腸に便を認めない場合は肛門からの処置の必要性がないことまではわかりますが,①結腸にも残便がほとんどない場合,②結腸に普通便がある場合,③結腸に硬便がある場合では適切な対応が異なるため,できれば結腸エコーも習得できると良いわけです。

描出法:固定されている直腸,最外側,最背側に位置する腸管である上行・下行結腸を起点にして,横行結腸,S状結腸はその間を追跡して描出することがポイントです(図2)。

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図2 結腸エコー時の描出ポイント
固定されていてわかりやすい腸(青点線部分),固定されておらず,わかりにくい腸(青実線部分)。

読影法:結腸エコーの結果の評価方法とその後の対応については,こちらも学会等の組織が検討中ですが,本連載で一貫性を持たせるならば,①結腸内に便が少量,あるいは便がない場合は便秘ではない。または下剤過多であり,少なくとも下剤の追加は不要,②結腸内に普通便があれば経過観察,③結腸内に硬便があれば緩下剤,という対応になりそうです4, 5)。特に,そもそも便がないから便が出ない「見かけ上の便秘」に対して,「便が出ないと腸閉塞になるかもしれない」と不安を抱く患者さん,ご家族,そして医療従事者を安心させる強い味方に結腸エコーはなってくれるでしょう。

 連載第9回では,認知症の便秘患者さんの下剤を調整することによって,患者さんだけでなく看護師の負担が減少した報告を紹介しました6)。それ以外にも,エコー検査に習熟した看護師による排便ケアは,便秘症状の改善や下剤使用の軽減に効果的であることが報告されています7)

 排便トラブル対応に看護師が当たる意義がこうしてじわじわ知られるようになり,エコー検査の訓練を希望する訪問看護師も現れ始め8),便秘エコー実践のための教育プログラムの有効性も報告されています9)。下剤廃止によるオムツゼロの試みも大変興味深く10),今後ますます費用面(薬剤,オムツ),患者および医療者負担と満足度の面,QOLの面での改善が明らかになることが期待されます(○×クイズ③)。現在,腹痛に対する超音波検査の実施が減少し,次世代を担う医療系学生・研修生に対する超音波の教育機会の確保も課題となっています11)。在宅は超音波の教育・実践の最適な場所の1つです。若手に対する教育機会としての広がりも期待しています!

 11回にわたり本連載にお付き合いいただき,時に励ましのコメントをくださった読者の皆さまに感謝申し上げます。少しでも快便の笑顔につながる情報提供になっていたら幸いです。また,どこかでお会いしましょう!


謝辞:連載第11回を執筆するに当たり,便秘エコーについてディスカッションしていただいた北海道対がん協会札幌がん検診センター津田桃子先生と,ディスカッションの場を提供していただいたEAファーマ株式会社に感謝いたします。

1)高岡茉奈美,他.医療療養病棟における看護職による便秘ケアの課題と工夫――横断質問紙調査.老年看.2022;26(2):63-70.
2)Diagnostics. 2022[PMID:35204390]
3)Healthcare. 2018[PMID:29799515]
4)植村和平.便秘エコ―のいろはにほへと.医事新報.2022;5106:18-33.
5)松本勝.エコーで便秘を正しく評価することで根拠ある便秘のアセスメントができる!YORi-SOUがんナーシング.2023;13(3):290-2.
6)福原真由美,他.グーフィス®錠導入前後の看護師の負担感に関する検討.精神科看護.2022;49(6):49-59.
7)Geriatr Gerontol Int. 2020[PMID:31910312]
8)水間美宏,他.訪問看護ステーション看護師の超音波検査に対する認識と実施を希望する要因.日在宅医療連会誌.2022;3(2):1-10.
9)Jpn J Nurs Sci. 2021[PMID:33174689]
10)安田博子.オムツゼロの特養へ――下剤廃止の取り組み.自立支援介護学.2009;3(1):53.
11)三原弘,他.急性腹症診療ガイドライン初版発刊が診療内容と被引用論文に与えた影響.日腹部救急医会誌.2024.(in press)

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