医学界新聞

排便トラブルの“なぜ!?”がわかる

連載 三原弘

2024.01.22 週刊医学界新聞(看護号):第3550号より

 小児・思春期の排便トラブルは,大人と同様,大きく取り上げられることは少ないですが,実際には対応に難渋するケースが多く,他疾患への影響があり,人生を左右しかねない病態です。今回は,小児・思春期の“不機嫌”や,生活上の“不調”に潜む排便トラブルについて紹介していきます。

①思春期の排便トラブルでは,過敏性腸症候群,うつ病,自閉スペクトラム症を念頭におく
②幼児のトイレットトレーニングではやや急かすことが重要である
③学童が腹痛で受診し,「うんちは出ている」と答えたら便秘は否定される

 小児の便秘の発生頻度は,海外では0.7~29.6%と報告により差が大きく,日本においても小児の便秘の発生頻度ははっきりしないとされてきました1)。一方で,近年の調査では児童の18.5%が週に2~3回未満の排便であるとされ,小学生の便秘は5.7~9.1%,女子高校生の便秘は31.9%と報告されました2)。また,大規模疫学研究において,9~10歳の3.9%が便秘を経験していること,さらには小児の便秘と関連する因子として,女児(2.0倍),運動不足(1.4倍),過体重(0.6倍,つまり肥満児童は便秘ではない),果物不足(1.9倍),野菜不足(1.5倍),頻繁なイライラ(1.8倍),頻繁な登校拒否感情(1.7倍),両親との交流不足(1.5倍)との関連が示されており,小児便秘ケアにおいても心理的ストレス対応と家庭環境の改善の重要性が読み取れます3)。特に,心理社会的な問題として,うつ病,過敏性腸症候群以外にも神経発達症の一つである自閉スペクトラム症の併存症として下痢,便秘の頻度が高いことが報告4)されています(○×クイズ①)。

 生まれてすぐの赤ちゃんは排便回数が多いのですが,母乳栄養から離乳食を開始する時や,人工ミルク栄養に切り替えるタイミングで排便回数が変化します。排便回数が著しく少ない場合は,直腸肛門奇形(鎖肛,肛門狭窄など)やヒルシュスプルング病(腸管の神経節細胞が欠如し腸が拡張してしまう疾患)のような先天的な疾患を検討する必要性があります。他にも母乳や離乳食等の摂取量が減ると便秘になってしまう懸念は挙げられるでしょう。また,生後半年頃には乳児排便困難症と呼ばれる時期が存在します。これは,筋肉・神経などの発達が未熟であり,踏ん張りきれないために起こるものです。ただし治療は不要で自然に軽快していきます。

 幼児期は,成長に伴う体の変化だけでなく,通園による生活上の変化も起こり,制限された排便時間,慣れない場所での排便も要求され,子どもたちのお腹にも心にも負担がかかります。トイレットトレーニングで身体的,精神的な苦痛を与えてしまうと,便秘の誘発や悪化などの悪影響を及ぼしてしまうことがあるので,さまざまな配慮をしながら支援的にトレーニングを進める必要があります。実際の診断や治療のフロー(図1)について詳しく知りたい方は,ガイドラインである文献1に加えて,文献5,6などの総説に目を通していただくことをお薦めします。本稿では具体的な事例と対応のポイントを見ていきましょう。

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図1 小児における便秘診断と治療のフローチャート(文献1,p.13より転載)

CASE 1:4歳,男児。両親は共働き。父親が保育園へ寄ってから出勤する毎日を過ごしていたが,ある日,子どもが朝の排便に時間を要してしまい,職場へ遅刻しないよう父親はトイレを急かした。出勤後,「お腹を押さえてうずくまっている」と保育園から連絡が入った。

 対応のポイントは,朝食をしっかり食べさせ「排便我慢」をさせないこと,親や周囲の大人がトイレを急がせるなどのプレッシャーを与えず十分な時間を確保すること(○×クイズ②),不安がっていたら褒めて安心させること,便が硬ければ踏ん張らせずに必要量の緩下剤をしっかり利用することです。緩下剤として小児では,ポリエチレングリコール,酸化マグネシウム,ラクツロースが使用されます。

CASE 2:1年前から慢性の下腹部痛に悩まされていた8歳の女児。母親に連れられて小児科を受診した。医師が「うんちは出ている?」と尋...

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