心の不調に対する「アニメ療法」の可能性
[第7回] 物語療法の手法①――映画療法について
連載 パントー・フランチェスコ
2024.01.29 週刊医学界新聞(通常号):第3551号より
今回は,物語を用いたセラピーの一つである映画療法(シネマセラピー)をご紹介します。映画療法は,アニメ療法を構築するに当たっての基盤の一つです。個人の症状に適した映画作品をカウンセリング現場に導入するという形で,米国の心理学者Gary Solomonが開発した手法です。なお,映画療法のアプローチの包括的な分類や有効性に関する合意はなされていません。
映画やビデオの上映は,「第三者」の視点を通して患者に自身の困難に対する包括的な理解を促します1)。スクリーンに映し出される登場人物は患者と同じ問題に直面し,それに対処する新しい対策方法を提示します。そのため,どの作品を選ぶのかについては慎重にならなければなりません(悲観的な内容ではなく,建設的な視座が得られる作品を選ぶなど)。
映画療法においてはセラピストも同じ作品を鑑賞してからセラピーに臨み,そのことは「治療同盟」(therapeutic alliance)の強化にも役立つとされます。同じ作品を鑑賞して「共通の語彙」2)を作ることで,同じ目線で患者と話し合うことが可能となるわけです。それにより,患者は信頼,安心,親近感といった感情をセラピストに対して抱くようになるでしょう。
Dermerらは,映画療法の3つの段階として以下を挙げています3)。①アセスメント:セラピストが患者の悩みや治療目的を特定し,それらに合致しかつ患者が楽しめる映画を選ぶ,②インプリメンテーション:セラピストが患者に映画を観せ,なぜその映画を選んだかを理解させる,③デブリーフィング:映画観賞後,セラピストと患者は同じレベルの知識を持って,映画から参考にできる要素を掘り下げる。
映画療法の主な段階を4つとして提唱する研究者もいます。例えばJeonは以下を挙げています4)。①同一化:登場人物の行動や目標から,その人物と同一化しようとし,登場人物の気持ちや感情に気付く,②カタルシス:登場人物の体験を通して学ぶ,③洞察:登場人物の体験を内面化し,自分の体験との間につながりを作り,自身が置かれた状況に気付く,④一般化:物語を鑑賞したことで孤独を感じづらくなり(同じ悩みを持つキャラクター),自分と登場人物の類似を理解する。
いずれにしても,こうした多段階のプロセスを経て,患者は困難に対して前向きに行動を検討できるようになります5)。つまり,映画の内容を比喩的に用いることによって,自己探求と変化を促進するのです1)。映画で描かれる内容は,患者の現実をそのまま描写したものではなく,隠喩的に描写したものでなければならないと考えられます。Hestonらによると,映画において「効く内容」とは以下の3つです6)。(1)映画の文字通りの筋書き,(2)文字通りの筋書きを超えた一般的なメタファー(比喩),(3)患者自身のメタファー(患者が映画に込める意味から生まれる比喩)。
映画療法には,臨床において特定の症状に対して効果を発揮した実績があります。例えば,Marsickの研究では,親の離婚を経験した子どもは,別離や離婚に関する映画を見た後,自分の感情や状況に対する意識が高くなりました7)。またBiermanらは,法的・家族的問題を抱えた少女を治療するために映画療法を用い,家族の問題に対する理解だけでなく,治療の受け入れや協力の向上を示しました8)。他にも,自閉スペクトラム症9),統合失調症10),不安11),認知症12),神経性食欲不振症13),さらには介護者のケア14)や学習障害者15)に対しても使用され,効果を発揮しています。
参考文献
1)Berg-Cross L, et al. Cinematherapy:theory and application. Psychother Priv Pract. 1990;8(1):135-56.
2)Sharp C, et al. Cinematherapy:metaphorically promoting therapeutic change. Couns Psychol Q. 2002;15(3):269-76.
3)Dermer S, et al. Utilizing movies ...
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