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  • 心の不調に対する「アニメ療法」の可能性(8)物語療法の手法②――読書療法について(パントー・フランチェスコ)

医学界新聞

心の不調に対する「アニメ療法」の可能性

連載 パントー・フランチェスコ

2024.02.19 週刊医学界新聞(通常号):第3554号より

 アニメ療法を創案した際に,物語を活用する手法に関して,前回紹介した映画療法に加えて読書療法(ビブリオセラピー)も参考にしました。読書療法は,精神的不調に対して,小説を始めとするテキストを読むことによる治療法です。その主な利点は,使いやすさ,コストの低さ,スタッフの必要性の低さ,プライバシーの高さとされています1)

 読書療法は特に子ども,青年期の抑うつ状態,不安症に貢献します2)。うつ病と不安症は,子どもや青少年に最もよくみられる精神障害とされ,毎年,最大20%の児童・青年が精神障害の影響を受けているとされます3)。うつ病の有病率は小児期(6~12歳)で2%,青年期(13~18歳)で2~8%であると指摘されています4)。その割合は思春期に急上昇し,思春期前後に罹患率のピークを迎えます。不安症の有病率は小児(6~12歳)で3~5%,青年期(13~18歳)で10~19%であり,この集団では時間の経過とともに増加する傾向がみられます5)

 いくつかの臨床ガイドラインでは,小児・青年期のうつ病と不安症に対する治療の主軸は心理療法(psychotherapy)であると記されています6)。なぜ小児・青年期のうつ病と不安症の治療に,心理療法が一般的に用いられているのでしょうか。認知行動療法(CBT)は一般に,小児および青年におけるうつ病と不安症の治療法として選択されるものと考えられており7),CBTには強力なエビデンスが存在します。にもかかわらず,特に低・中所得国ではCBTの利用可能性,利用しやすさは低いと考えられます。その理由としてはスティグマ,またはサービスへのアクセスが困難であることが挙げられます。そうした制限から,メンタルヘルス介入へのアクセスを拡大するために,読書療法のような自助アプローチへの注目が高まっているのです。自助アプローチでは,書籍,小冊子,DVD,ウェブサイト等を利用し,悩みの解決に役立つ知識やリソースを提供します。もちろんアニメ療法,読書療法の場合,そこに物語の力もかかわってきます。

 これまでに多くのレビューで,自助アプローチが成人のうつ病と不安症に有効であることが示されてきました8)。Newmanら9)は不安症に対する有効性を確認しています。しかし潜在的な負の効果として,最初の自助アプローチが十分でなかった場合,助けを求めることが遅れ,症状がさらに悪化する可能性も指摘されています10)。有効性が証明されている心理療法に基づいた読書療法は,より利用しやすい心理学的援助のリソースとなり得ます11)。単に情報を提供するだけでなく,例えば自己啓発本を用いて患者を励まし,導きながら,有益な考え・行動を獲得させて,自己管理の状況を改善させるなど,さまざまな効果が期待できます。

 読書療法は物語の内容を生かし,CBTの基本原則を取り入れ,読者が否定的な感情を克服する一助になり得ます。対面またはリモートで行い,一人に対してだけでなく,集団に対しても行えるのも良い点です。National Institute for Health and Care Excellence(英国国立医療技術評価機構)がsubclinical depression(無症状のうつ病。現時点で診断基準を満たしていないが,状態が継続するといずれ診断基準を満たすうつ病となる)や軽度から中等度の抑うつに対する治療法として推奨していることからも12),治療法の選択肢として検討してみてもよいでしょう。


1)Br J Psychiatry. 2012[PMID:22215865]
2)J Consult Clin Psychol. 2006[PMID:16822101]
3)Int Rev Psychiatry. 2008[PMID:18569173]
4)Arch Gen Psychiatry. 2003[PMID:12912767]
5)Lancet. 2012[PMID:22305766]
6)BMJ. 2015[PMID:25739880]
7)Cochrane Database Syst Rev. 2013[PMID:23733328]
8)Psychol Med. 2010[PMID:20406528]
9)J Clin Psychol. 2003[PMID:12579544]
10)Psychol Med. 2007[PMID:17306044]
11)Health Info Libr J. 2008[PMID:19076670]
12)National Institute for Health and Clinical Excellence. Depression in adults. 2011.

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