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『免疫染色パーフェクトガイド[Web動画付]』より

柳田絵美衣

2023.11.10

 正しく検体処理をしているはずなのにうまく染色されない――。このような際に染色工程のどこに問題があり,どう対応すれば改善するかをあなたはすぐ見抜けますか。新刊『免疫染色パーフェクトガイド[Web動画付]』では免疫染色の原理といった基本を押さえつつ,検体や機器などの取り扱いによる染色結果の違いや染色がうまくいかない原因と解決策について,豊富な写真や動画と共に解説しています。免疫染色を行う際に実際に“困った”シチュエーションごとに対応法を解説しているので,病理検査の現場で実践的に活用できる点が本書の特長です。

 「医学界新聞プラス」では,「第Ⅰ章 知っておきたい免疫染色の原理」「第Ⅱ章 目でみる免疫染色良い例・悪い例」「第Ⅲ章 こんなときどうする? 免疫染色の“困った”を解決」の内容を一部抜粋し,全3回でご紹介します。

※本書は雑誌『検査と技術 46巻9号(2018年9月)増刊号 免疫染色クイックガイド』の内容を基に制作されています。

KEYWORD  一次抗体,病理診断

病理診断でよく利用される染色(抗体)

 病理診断において,基本となるのはHE(hematoxylin-eosin)染色での組織像の評価であるが,免疫組織化学(immunohistochemistry:IHC)(以下,免疫染色)も欠かすことのできない染色の1つである.免疫染色が用いられる目的は,組織型の診断,良悪性や増殖能の評価,リンパ管や血管,筋組織などへの浸潤の評価,腫瘍の有無や範囲の評価が難しいときの補助など多岐に及ぶ.近年では,分子標的治療薬の対象患者を選択するためのコンパニオン診断に用いられる.
 こうした免疫染色を用いた診断を行うためには,その抗体がどのように染色されるのかを理解していることが望ましい.正しい染色結果の知識がなければ,染色エラーがあった際に気づくことができず,診断が誤った方向へ向かう可能性がある.免疫染色で用いられる一次抗体の種類は膨大であるが,ここでは臨床病理の診断によく利用される代表的な一次抗体について解説する.

cytokeratin(CK)
 上皮細胞の主な構造蛋白に対する抗体であり,細胞質に陽性となる.上皮成分の同定,癌とそれ以外の腫瘍(肉腫,リンパ腫,メラノーマ)との鑑別,どの臓器由来の細胞かの鑑別など,さまざまな状況で用いられる抗体である.CK抗体には多くの種類があり,分子量によって高分子サイトケラチン(CK1~6,9~16)と低分子サイトケラチン(CK7,8,17~20)に分類される.さらに複数のサイトケラチンをカクテルした抗体も用いられる.
 臓器ごとに上皮細胞を構成するサイトケラチンは異なっており,CK7とCK20の組み合わせによって大まかに分類することで,腫瘍細胞の起源を推定する鑑別法がよく知られている(表1).例えば,大腸癌ではCK7陰性,CK20陽性となり,肺腺癌ではCK7陽性,CK20陰性となる.しかし,胃癌のようにさまざまな染色結果となる臓器もある.また,扁平上皮細胞はCK7,CK20のいずれも陰性となるが,CK5/6は陽性となる.
 カクテル抗体としては,CK(AE1/AE3),CAM5.2,34βE12がよく用いられる.特に,CK(AE1/AE3)はほぼ全ての上皮細胞に反応し,癌かどうかの診断や上皮成分の同定に有用である.例えば,癌のリンパ節転移を確認する際に用いられる.CAM5.2は低分子ケラチンであるCK7とCK8のカクテル抗体であり,扁平上皮以外の上皮細胞に陽性となる.34βE12は高分子ケラチンであるCK1/5/10/14のカクテル抗体で,扁平上皮や乳腺の筋上皮細胞,前立腺の基底細胞に陽性となる.

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表1 CK7とCK20による鑑別診断
臓器ごとに上皮細胞を構成しているサイトケラチンの違いを利用する.CK7とCK20の陽性,陰性の結果から大まかに分類し,腫瘍細胞の起源を推定することができる.最も基本となる組み合わせ.

Ki-67(MIB-1)(図1a
 細胞周期(G1,S,G2,M期)にある細胞に発現する核内抗原蛋白に対する抗体であり,MIB-1はその抗体のクローン名である.核に陽性となり,その陽性率をカウントして細胞の増殖能を評価するのに用いられる.その他に,濾胞性リンパ腫と反応性リンパ濾胞の鑑別(濾胞性リンパ腫では陽性率が低く,陽性細胞の極性を欠く)や,Burkittリンパ腫とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)との鑑別(前者では陽性率が95%を超えるのに対し,後者では80%以下であることが多い)のように,増殖能の違いを鑑別診断に用いることもある.

p53(図1b
 17番染色体上に存在する癌抑制遺伝子TP53によってコードされる蛋白に対する抗体であり,主にKi-67と合わせて腫瘍の良悪性の判断目的で用いられる.正常では,p53蛋白は半減期が非常に短く,免疫染色で陽性となるほどの量は存在しないことが多い.しかし,TP53遺伝子の変異によって生じた異常なp53蛋白は核内に蓄積するため,免疫染色で核に陽性となる.ただし,再生上皮などの非腫瘍性細胞でも少数の陽性を認め,逆に超高分化型腺癌など陰性となる癌も存在する.びまん性の陽性像を示す場合は強く癌の可能性が示唆されるが,HE像やKi-67染色との対比をするなど,慎重に判断しなければならない.

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図1 Ki-67(MIB-1)(a)とp53(b)の染色像
a:核内抗原.細胞の増殖能を評価する目的で使用される.
b:核内抗原.核内に蓄積したTP53遺伝子の変異によって生じた異常なp53蛋白が陽性となる.

D2-40(図2
 リンパ管内皮細胞に発現するpodoplaninという蛋白に対する抗体のクローンの1つである.主にリンパ管内皮細胞,腎のpodocyte,Bowman囊上皮,重層扁平上皮基底細胞,Ⅰ型肺胞上皮,中皮細胞,上衣細胞など種々の組織や臓器で発現がみられる.通常の血管内皮細胞に陰性となるため,主に腫瘍のリンパ管侵襲の評価やリンパ管内皮に由来する腫瘍の鑑別に用いられる.精巣の多くの胚細胞腫で発現がみられ,特にセミノーマでは高発現することが知られている.卵巣腫瘍では未分化胚細胞腫や顆粒膜細胞腫,その他に中皮腫など,いくつかの腫瘍細胞に陽性となることが知られており,鑑別診断に用いられる.

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図2 D2-40の染色像
a:大腸正常組織.リンパ管内皮の細胞膜に陽性となる.腫瘍のリンパ管侵襲の評価目的で染色することが多い.
b:精巣(セミノーマ症例).セミノーマ症例でびまん性に染色される.

CD34
 細胞膜貫通型シアル化糖蛋白に対する抗体であり,正常では血管内皮細胞や造血前駆細胞の細胞膜に(時に細胞質にも)陽性となる.血管を染色することで,腫瘍の血管侵襲の評価や血管系腫瘍の診断に用いられる.腫瘍では,血管内皮からなる腫瘍である血管腫,カポジ肉腫,血管内皮肉腫で高率に発現する.また,造血前駆細胞が陽性となるため,急性白血病での骨髄中の芽球の評価にも用いられる.消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)の典型例では,CD117(c-kit)やDOG1に比べて陽性率は若干低いが,びまん性に細胞膜と細胞質に強陽性となる.その他,孤在性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT),隆起性皮膚線維肉腫(dermatofibrosarcoma protuberans:DFSP)といったさまざまな腫瘍細胞において陽性となることが知られており,多くの場面で用いられる.

desmin(図3
 筋細胞の構造蛋白の1つに対する抗体であり,横紋筋,平滑筋ともに細胞質に陽性となる.筋細胞由来の腫瘍の鑑別診断に用いられるほか,腫瘍の粘膜下層への浸潤の評価が難しいときに粘膜筋板を染色することで,これを評価する手助けになる.

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図3 desminの染色像
消化管正常組織.平滑筋と粘膜筋板が染色される.

S100(図4
 カルシウム結合性蛋白に対する抗体であり,神経系の支持細胞(シュワン細胞やグリア細胞),メラノサイトおよび母斑細胞,筋上皮細胞,脂肪細胞,軟骨細胞,Langerhans細胞および指状嵌入細胞など,さまざまな細胞に陽性となる.主に神経外胚葉由来の広範な細胞にみられ,それら由来の腫瘍などにも陽性を示す.陽性部位は核および細胞質であるが,細胞質のみが染色される場合は偽陽性である可能性があるため,核が染色されていることを確認しなければならない.

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図4 S100の染色像
a:消化管正常組織.神経叢が陽性となる.
b:大脳正常組織.グリア細胞,シュワン細胞に陽性となる.

参考文献
•柳田絵美衣:シリーズ免疫染色(IHC/ICC)の基礎・4 病理診断に利用される代表的な抗体.検査と技術 46:1228-1235,2018
•金井弥栄,石川俊平,池田栄二(編):病理と臨床 vol.29臨時増刊号 病理診断に役立つ分子生物学.文光堂,2011


※書籍では他に下記の抗体も解説しています。

特異的に使用する染色(抗体)
・リンパ腫:CD3ε,CD20(clone:L26)
・非小細胞肺癌:TTF-1,Napsin A,p40(p63),CK5/6
・神経内分泌系腫瘍:synaptophysin,chromogranin A,CD56(NCAM)

コンパニオン診断薬
・HER2
・CD117(c-kit)
・PD-L1

 

この一冊があれば、現場で本当に使える免疫染色の技術・知識が学べる!

<内容紹介>検査と技術』46巻9号(2018年9月)増刊号「現場で“パッ”と使える  免疫染色クイックガイド」待望の書籍化。困ったときの対応策や日頃の疑問といったクリニカルな視点をベースに、“現場のための”免疫染色の技術・知識をまとめています。書籍では、精度管理やゲノムといった最新のトピックを新たに加え、用手法の手技動画も閲覧可能になりました。臨床現場で免疫染色にかかわる医療者必携の一冊になること間違いなし!

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