マクロ神経病理学アトラス
脳のマクロ病理像に特化した大迫力の画期的なアトラス
もっと見る
脳のマクロ病理像に特化した大迫力の画期的なアトラスが登場。第I編では、ブレインカッティングの手順を詳細に解説するとともに、マクロ像の正常解剖を解説とともに示す。第II編では、疾患ごとにブレインカッティング後の割面マクロ像を提示し、異常所見の特徴は何かを明快に解説する。神経病理学の第一人者である著者所蔵の貴重な病理写真を豊富に用いた、病理学、法医学・神経内科学を専攻する医師であれば読んでおきたい1冊。
著 | 新井 信隆 |
---|---|
発行 | 2019年07月判型:A4頁:152 |
ISBN | 978-4-260-02528-7 |
定価 | 9,900円 (本体9,000円+税) |
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
序/写真に関する謝辞
序
平成になって数年後の1992年,Prof. Peter L. Lantos率いるロンドン大学精神医学研究所・神経病理研究室に留学した.小学校低学年の2人の子供と私たち,一家4人で成田を発ち,やがてロンドン・ヒースロー空港へ着陸した.直前に上空から見下ろした夕方の住宅地は,もう秋になっていたので日も早く暮れ,さらに,光量に乏しい黄色の街灯のためだろうか,暗闇に浮かぶ“古ぼけた電球の海”のように見えた.初めて目にする不思議な光景であり,それがロンドンであろうがなかろうが,そんな予備知識がなくとも,心に刻まれた.
脳を見て初めて目が釘付けになったのは,それよりもずっと前の1984年に遡る.2005年に上梓した『神経病理インデックス』(医学書院)の序でも紹介した症例で観察した中脳黒質の不思議な色合いである.それまで中脳など数例しか見たことがなかった横浜市立大学病理の新米助手でも「これは何かあるに違いない」と直感的に思ったが,案の定,標本が出来上がってみると,当時未知の構造物で埋めつくされていた.
①脆く黒ずんだ被殻,②赤茶色の淡蒼球,③灰色でぶよぶよの歯状核門,④出目金のようなオリーブ核,⑤あるはずが見当たらない尾状核,⑥失敗した茶碗蒸しの「す」のような大脳白質.どれもこれも,新米助手には,診断までは思いつかないが,初めて目にする,何かおかしな光景であり「ここで何が起きているんだろう?」と素朴な疑問が掻き立てられた.
一方,脳脊髄の構造そのものの美しさにも,心を奪われる.①実体顕微鏡下に広がるくも膜下腔,②側脳室に凸に出っ張るなだらかな2つの丘のような尾状核と視床,③側脳室から第3脳室へと髄液の滝が落ちる洞窟の出口のようなモンロー孔,④視神経が交差したあと中脳を横から抱き抱えるように外側膝状体まで到達する視索,⑤まさに幼虫の腹のような小脳虫部,⑥織物の糸が扇のように広がる馬尾.例を挙げればきりがない.
思わず,その美しさに息を呑む.普通ではない何かが潜んでいるに違いないと,探究心が沸々とわく.本書は,見た瞬間に心の奥底を揺さぶられる脳脊髄の写真集である.病理診断という便宜上の約束を超越した素の姿を最大限に大きく引き伸ばして満載したところが,本書の真骨頂である.ヒースローの上空から眺めた一生忘れられない光景のような,そんな画像を本書が読者に提供できるとすれば,大変嬉しく思う.
構想から約4年.根気よく編集にお付き合いいただいた洲河佑樹氏,制作を担当していただいた玉森政次氏,永安徹也氏,そして,本書に限らず,いつも相談に乗っていただいている松本哲氏に感謝申し上げる.さらに,いつも支えていただいている神経病理解析室のスタッフ(敬称略:関絵里香,小島利香,江口弘美,関山一成,海津敬倫,植木信子,八木朋子,山西常美,赤松敬子)に心より御礼申し上げる.
ここ10年近く,妻と過ごす夏休みは,市内中心部に向かうヒースローエクスプレスのターミナル駅,ロンドン・パディントン駅から始まる.直近数年,往復の機中で,映画もそこそこに本書の仕事をしていたが,今年の夏は,次の企画を考える余裕が生まれそうである.
2019年6月
書斎フローレンス202にて
新井信隆
写真に関する謝辞
本書で使用した疾病の写真は,筆者が平成元年に赴任した旧東京都神経科学総合研究所・臨床神経病理研究室で撮影されたもの,および,その研究室が継承された現在の東京都医学総合研究所・神経病理解析室で撮影されたものがほとんどです.また一部は,旧研究所時代から緊密な連携を保っている東京都立神経病院の検査科で撮影され,私どもにコピーが提供されていたデータも含まれます.大変お世話になった神経病院の歴代の幹部医師を始め,現検査科部長の小森隆司先生には心より感謝申し上げます.
被写体となった剖検例の出所の関係各位のご協力なくしては,本書ができなかったことは自明です.神経病院を始め,その開院以来,全剖検例の標本作製を依頼していただいている東京都立府中療育センターの皆様には,周産期脳障害や様々な形成異常,代謝異常などの症例を通して勉強の機会を与えていただいていること,および,本書でもたくさんの写真を使わせていただきましたことに,現在窓口になっていただいている小児科部長の田沼直之先生はじめ,歴代の多くの諸先生に深く感謝申し上げます.
そのほか,旧研究所から今日に至るまで,東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター),東京都立墨東病院,東京都監察医務院など都立の施設や,連携の覚書や技術指導契約を締結している国立病院機構あきた病院を含む多くの病院,および,北海道大学,秋田大学,東京大学,東京医科歯科大学,昭和大学,防衛医科大学校,横浜市立大学をはじめとする大学の諸先生との共同研究などを通じて,様々な症例を経験させていただき,多くの写真も撮影させていただきました.改めまして,関係各位の皆様には深甚なる謝意を申し上げますとともに,ここにすべてのお名前を表記できない無礼をご容赦ください.
最後に,セオリーを熟知しつつ,卓越したデザインセンスで写真や文字・記号などの大きさ,色味や配置などを一緒に考えていただき,また,正常脳脊髄のすべての写真撮影,ブロードマン脳地図のイラスト,表紙や帯のデザインも担当してくださったラボのスタッフ,八木朋子女史に格別の御礼を申し上げます.
序
平成になって数年後の1992年,Prof. Peter L. Lantos率いるロンドン大学精神医学研究所・神経病理研究室に留学した.小学校低学年の2人の子供と私たち,一家4人で成田を発ち,やがてロンドン・ヒースロー空港へ着陸した.直前に上空から見下ろした夕方の住宅地は,もう秋になっていたので日も早く暮れ,さらに,光量に乏しい黄色の街灯のためだろうか,暗闇に浮かぶ“古ぼけた電球の海”のように見えた.初めて目にする不思議な光景であり,それがロンドンであろうがなかろうが,そんな予備知識がなくとも,心に刻まれた.
脳を見て初めて目が釘付けになったのは,それよりもずっと前の1984年に遡る.2005年に上梓した『神経病理インデックス』(医学書院)の序でも紹介した症例で観察した中脳黒質の不思議な色合いである.それまで中脳など数例しか見たことがなかった横浜市立大学病理の新米助手でも「これは何かあるに違いない」と直感的に思ったが,案の定,標本が出来上がってみると,当時未知の構造物で埋めつくされていた.
①脆く黒ずんだ被殻,②赤茶色の淡蒼球,③灰色でぶよぶよの歯状核門,④出目金のようなオリーブ核,⑤あるはずが見当たらない尾状核,⑥失敗した茶碗蒸しの「す」のような大脳白質.どれもこれも,新米助手には,診断までは思いつかないが,初めて目にする,何かおかしな光景であり「ここで何が起きているんだろう?」と素朴な疑問が掻き立てられた.
一方,脳脊髄の構造そのものの美しさにも,心を奪われる.①実体顕微鏡下に広がるくも膜下腔,②側脳室に凸に出っ張るなだらかな2つの丘のような尾状核と視床,③側脳室から第3脳室へと髄液の滝が落ちる洞窟の出口のようなモンロー孔,④視神経が交差したあと中脳を横から抱き抱えるように外側膝状体まで到達する視索,⑤まさに幼虫の腹のような小脳虫部,⑥織物の糸が扇のように広がる馬尾.例を挙げればきりがない.
思わず,その美しさに息を呑む.普通ではない何かが潜んでいるに違いないと,探究心が沸々とわく.本書は,見た瞬間に心の奥底を揺さぶられる脳脊髄の写真集である.病理診断という便宜上の約束を超越した素の姿を最大限に大きく引き伸ばして満載したところが,本書の真骨頂である.ヒースローの上空から眺めた一生忘れられない光景のような,そんな画像を本書が読者に提供できるとすれば,大変嬉しく思う.
構想から約4年.根気よく編集にお付き合いいただいた洲河佑樹氏,制作を担当していただいた玉森政次氏,永安徹也氏,そして,本書に限らず,いつも相談に乗っていただいている松本哲氏に感謝申し上げる.さらに,いつも支えていただいている神経病理解析室のスタッフ(敬称略:関絵里香,小島利香,江口弘美,関山一成,海津敬倫,植木信子,八木朋子,山西常美,赤松敬子)に心より御礼申し上げる.
ここ10年近く,妻と過ごす夏休みは,市内中心部に向かうヒースローエクスプレスのターミナル駅,ロンドン・パディントン駅から始まる.直近数年,往復の機中で,映画もそこそこに本書の仕事をしていたが,今年の夏は,次の企画を考える余裕が生まれそうである.
2019年6月
書斎フローレンス202にて
新井信隆
写真に関する謝辞
本書で使用した疾病の写真は,筆者が平成元年に赴任した旧東京都神経科学総合研究所・臨床神経病理研究室で撮影されたもの,および,その研究室が継承された現在の東京都医学総合研究所・神経病理解析室で撮影されたものがほとんどです.また一部は,旧研究所時代から緊密な連携を保っている東京都立神経病院の検査科で撮影され,私どもにコピーが提供されていたデータも含まれます.大変お世話になった神経病院の歴代の幹部医師を始め,現検査科部長の小森隆司先生には心より感謝申し上げます.
被写体となった剖検例の出所の関係各位のご協力なくしては,本書ができなかったことは自明です.神経病院を始め,その開院以来,全剖検例の標本作製を依頼していただいている東京都立府中療育センターの皆様には,周産期脳障害や様々な形成異常,代謝異常などの症例を通して勉強の機会を与えていただいていること,および,本書でもたくさんの写真を使わせていただきましたことに,現在窓口になっていただいている小児科部長の田沼直之先生はじめ,歴代の多くの諸先生に深く感謝申し上げます.
そのほか,旧研究所から今日に至るまで,東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター),東京都立墨東病院,東京都監察医務院など都立の施設や,連携の覚書や技術指導契約を締結している国立病院機構あきた病院を含む多くの病院,および,北海道大学,秋田大学,東京大学,東京医科歯科大学,昭和大学,防衛医科大学校,横浜市立大学をはじめとする大学の諸先生との共同研究などを通じて,様々な症例を経験させていただき,多くの写真も撮影させていただきました.改めまして,関係各位の皆様には深甚なる謝意を申し上げますとともに,ここにすべてのお名前を表記できない無礼をご容赦ください.
最後に,セオリーを熟知しつつ,卓越したデザインセンスで写真や文字・記号などの大きさ,色味や配置などを一緒に考えていただき,また,正常脳脊髄のすべての写真撮影,ブロードマン脳地図のイラスト,表紙や帯のデザインも担当してくださったラボのスタッフ,八木朋子女史に格別の御礼を申し上げます.
目次
開く
第I編 中枢神経系の観察(正常)
A 大脳部の外観
1 大脳を覆う硬膜
2 大脳を覆う軟膜(くも膜と柔膜)
3 小脳の硬膜・軟膜(くも膜と柔膜)
4 硬膜・軟膜の詳細
5 大脳外観の観察
6 大脳の観察:中心前回の同定法
7 ブロードマン脳地図
8 肉眼で識別できるブロードマン17野
B 脳底部の動脈
1 脳底部の太い動脈
2 ウィリス動脈輪から分枝する動脈(中大脳動脈)
3 ウィリス動脈輪から分枝する動脈(前大脳動脈)
4 ウィリス動脈輪から分枝する動脈(後大脳動脈)
C 脳底部の構造
1 大脳と脳幹・小脳を切り離す
2 乳頭体,視神経周囲など
3 外側・内側膝状体,上丘,下丘などの位置関係
D 大脳の内部構造
1 内側面
2 辺縁系
3 側脳室と第三脳室,モンロー孔など
E 大脳の切り出しと割面
1 大脳の切り出し(前額断)
2 大脳の切り出し(水平断)
3 大脳割面・前額断(1)
4 大脳割面・前額断(2)
5 大脳割面・水平断(1)
6 大脳割面・水平断(2)
7 大脳割面・矢状断(1)
8 大脳割面・矢状断(2)
F 小脳と脳幹を切り離す
1 小脳と脳幹を切り離す(1)
2 小脳と脳幹を切り離す(2)
G 脳幹の外観と切り出し
1 脳幹の外観
2 脳幹の切り出し
3 脳幹の横断面
4 脳幹の矢状断面
H 小脳の外観と切り出し
I 推奨切り出し部位
1 推奨切り出し部(大脳)
2 推奨切り出し部(脳幹・小脳)
J 脊髄の外観
第II編 病変(疾患)の見方
A 循環障害
1 くも膜下出血 subarachnoidal hemorrhage
2 心停止後脳症 cardiac arrest encephalopathy
3 急性脳梗塞(中大脳動脈領域) acute cerebral infarction
4 急性・陳旧性脳梗塞(後大脳動脈領域) acute/old cerebral infarction
5 急性脳梗塞(中大脳動脈,前頭前動脈,中心前溝動脈)
acute cerebral infarction
6 陳旧性脳梗塞(中大脳動脈領域) old cerebral infarction
7 陳旧性脳梗塞(前大脳動脈領域) old cerebral infarction
8 ラクナ梗塞 lacunar infarction
9 多発性脳梗塞(前大脳動脈+中大脳動脈領域) multiple cerebral infarction
10 多発性脳梗塞(両側中大脳動脈領末梢域) multiple cerebral infarction
11 多発性脳梗塞multiple cerebral infarction
12 動脈硬化 arteriosclerosis
13 動脈瘤cerebral aneurysm
14 もやもや病 Moyamoya disease
15 ジデローシス siderosis
16 小脳梗塞 cerebellar infarction
17 脳幹出血 brain stem hemorrhage
19 脳実質内出血の脳室内穿破 intracerebral hemorrhage
20 脳出血(基底核,その他) intracerebral hemorrhage
B 感染症
1 化膿性髄膜炎 purulent meningitis
2 化膿性脳室炎 purulent ventriculitis
3 亜急性硬化性汎脳炎 subacute sclerosing panencephalitis(SSPE)
4 ヘルペス脳炎 herpes simplex encephalitis
5 エイズ白質脳症 AIDS leukoencephalopathy
6 結核性髄膜炎 tuberculous meningitis
7 進行性多巣性白質脳症 progressive multifocal leukoencephalopathy(PML)
8 クリプトコッカス脳症 cerebral cryptococcosis
C 変性疾患
1 アルツハイマー病 Alzheimer disease(AD)
2 ピック病 Pick disease
3 進行性核上性麻痺 progressive supranuclear palsy(PSP)
4 皮質基底核変性症 corticobasal degeneration(CBD)
5 多系統萎縮症 multiple system atrophy(MSA)
6 特発性パーキンソン病 idiopathic Parkinson disease
7 レビー小体型認知症 dementia with Lewy bodies(DLB)
8 マシャド・ジョセフ病 Machado-Joseph disease
9 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症
dentato-rubro-pallido-luysian atrophy(DRPLA)
10 ハンチントン病 Huntington disease(HD)
11 脊髄小脳失調症 6 spinocerebellar ataxia(SCA)6
12 脊髄小脳失調症 17 spinocerebellar ataxia(SCA)17
13 筋萎縮性側索硬化症 amyotrophic lateral sclerosis(ALS)
D 形成異常
1 全前脳胞症 holoprosencephaly
2 キアリ奇形 Chiari malformation
3 孔脳症 porencephaly
4 小脳髄症 microencephaly
5 巨脳症 megalencephaly
6 1型滑脳症 lissencephaly type 1
7 2型滑脳症 lissencephaly type 2
8 福山型先天性筋ジストロフィー
Fukuyama-type congenital muscular dystrophy
9 多小脳回 polymicrogyria(大脳)
10 多小脳回 polymicrogyria(小脳)
11 結節性硬化症 tuberous sclerosis
12 限局性皮質異形成 focal cortical dysplasia
13 有馬症候群 Arima syndrome
E 周産期脳障害
1 乳児期無酸素性脳症 infantile anoxic encephalopathy
2 バスケットブレイン basket brain
3 大理石紋様 status marmoratus
4 基底核変性 basal ganglia degeneration
F 代謝異常
1 クラッベ病 Krabbe disease
2 異染性白質ジストロフィー metachromatic leukodystrophy(MLD)
3 副腎白質ジストロフィー adrenoleukodystrophy(ALD)
4 ミトコンドリア脳筋症(メラス)
mitochondrial encephalomyopathy/mitochondrial encephalopathy,
lactic acidosis and stroke like episodes(MELAS)
5 ミトコンドリア脳筋症(リー脳症) Leigh encephalopathy
6 ファー病 Fahr disease
7 パントテン酸キナーゼ関連神経変性症 pantothenate kinase-associated
neurodegeneration(PKAN)
8 ウェルニッケ脳症 Wernicke encephalopathy
G 脱髄疾患
1 多発性硬化症 multiple sclerosis(MS)
2 マルキアファーバ・ビニャミ病 Marchiafava-Bignami disease
3 急性散在性脳脊髄炎 acute disseminated encephalomyelitis(ADEM)
H プリオン病
1 孤発性クロイツフェルト・ヤコプ病 Creutzfeldt-Jakob disease(CJD)
I 頭部外傷
1 脳挫傷 brain contusion
2 脳裂傷 cerebral laceration
3 びまん性軸索損傷 diffuse axonal injury
4 脳幹部外傷 brain stem injury
索引
A 大脳部の外観
1 大脳を覆う硬膜
2 大脳を覆う軟膜(くも膜と柔膜)
3 小脳の硬膜・軟膜(くも膜と柔膜)
4 硬膜・軟膜の詳細
5 大脳外観の観察
6 大脳の観察:中心前回の同定法
7 ブロードマン脳地図
8 肉眼で識別できるブロードマン17野
B 脳底部の動脈
1 脳底部の太い動脈
2 ウィリス動脈輪から分枝する動脈(中大脳動脈)
3 ウィリス動脈輪から分枝する動脈(前大脳動脈)
4 ウィリス動脈輪から分枝する動脈(後大脳動脈)
C 脳底部の構造
1 大脳と脳幹・小脳を切り離す
2 乳頭体,視神経周囲など
3 外側・内側膝状体,上丘,下丘などの位置関係
D 大脳の内部構造
1 内側面
2 辺縁系
3 側脳室と第三脳室,モンロー孔など
E 大脳の切り出しと割面
1 大脳の切り出し(前額断)
2 大脳の切り出し(水平断)
3 大脳割面・前額断(1)
4 大脳割面・前額断(2)
5 大脳割面・水平断(1)
6 大脳割面・水平断(2)
7 大脳割面・矢状断(1)
8 大脳割面・矢状断(2)
F 小脳と脳幹を切り離す
1 小脳と脳幹を切り離す(1)
2 小脳と脳幹を切り離す(2)
G 脳幹の外観と切り出し
1 脳幹の外観
2 脳幹の切り出し
3 脳幹の横断面
4 脳幹の矢状断面
H 小脳の外観と切り出し
I 推奨切り出し部位
1 推奨切り出し部(大脳)
2 推奨切り出し部(脳幹・小脳)
J 脊髄の外観
第II編 病変(疾患)の見方
A 循環障害
1 くも膜下出血 subarachnoidal hemorrhage
2 心停止後脳症 cardiac arrest encephalopathy
3 急性脳梗塞(中大脳動脈領域) acute cerebral infarction
4 急性・陳旧性脳梗塞(後大脳動脈領域) acute/old cerebral infarction
5 急性脳梗塞(中大脳動脈,前頭前動脈,中心前溝動脈)
acute cerebral infarction
6 陳旧性脳梗塞(中大脳動脈領域) old cerebral infarction
7 陳旧性脳梗塞(前大脳動脈領域) old cerebral infarction
8 ラクナ梗塞 lacunar infarction
9 多発性脳梗塞(前大脳動脈+中大脳動脈領域) multiple cerebral infarction
10 多発性脳梗塞(両側中大脳動脈領末梢域) multiple cerebral infarction
11 多発性脳梗塞multiple cerebral infarction
12 動脈硬化 arteriosclerosis
13 動脈瘤cerebral aneurysm
14 もやもや病 Moyamoya disease
15 ジデローシス siderosis
16 小脳梗塞 cerebellar infarction
17 脳幹出血 brain stem hemorrhage
19 脳実質内出血の脳室内穿破 intracerebral hemorrhage
20 脳出血(基底核,その他) intracerebral hemorrhage
B 感染症
1 化膿性髄膜炎 purulent meningitis
2 化膿性脳室炎 purulent ventriculitis
3 亜急性硬化性汎脳炎 subacute sclerosing panencephalitis(SSPE)
4 ヘルペス脳炎 herpes simplex encephalitis
5 エイズ白質脳症 AIDS leukoencephalopathy
6 結核性髄膜炎 tuberculous meningitis
7 進行性多巣性白質脳症 progressive multifocal leukoencephalopathy(PML)
8 クリプトコッカス脳症 cerebral cryptococcosis
C 変性疾患
1 アルツハイマー病 Alzheimer disease(AD)
2 ピック病 Pick disease
3 進行性核上性麻痺 progressive supranuclear palsy(PSP)
4 皮質基底核変性症 corticobasal degeneration(CBD)
5 多系統萎縮症 multiple system atrophy(MSA)
6 特発性パーキンソン病 idiopathic Parkinson disease
7 レビー小体型認知症 dementia with Lewy bodies(DLB)
8 マシャド・ジョセフ病 Machado-Joseph disease
9 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症
dentato-rubro-pallido-luysian atrophy(DRPLA)
10 ハンチントン病 Huntington disease(HD)
11 脊髄小脳失調症 6 spinocerebellar ataxia(SCA)6
12 脊髄小脳失調症 17 spinocerebellar ataxia(SCA)17
13 筋萎縮性側索硬化症 amyotrophic lateral sclerosis(ALS)
D 形成異常
1 全前脳胞症 holoprosencephaly
2 キアリ奇形 Chiari malformation
3 孔脳症 porencephaly
4 小脳髄症 microencephaly
5 巨脳症 megalencephaly
6 1型滑脳症 lissencephaly type 1
7 2型滑脳症 lissencephaly type 2
8 福山型先天性筋ジストロフィー
Fukuyama-type congenital muscular dystrophy
9 多小脳回 polymicrogyria(大脳)
10 多小脳回 polymicrogyria(小脳)
11 結節性硬化症 tuberous sclerosis
12 限局性皮質異形成 focal cortical dysplasia
13 有馬症候群 Arima syndrome
E 周産期脳障害
1 乳児期無酸素性脳症 infantile anoxic encephalopathy
2 バスケットブレイン basket brain
3 大理石紋様 status marmoratus
4 基底核変性 basal ganglia degeneration
F 代謝異常
1 クラッベ病 Krabbe disease
2 異染性白質ジストロフィー metachromatic leukodystrophy(MLD)
3 副腎白質ジストロフィー adrenoleukodystrophy(ALD)
4 ミトコンドリア脳筋症(メラス)
mitochondrial encephalomyopathy/mitochondrial encephalopathy,
lactic acidosis and stroke like episodes(MELAS)
5 ミトコンドリア脳筋症(リー脳症) Leigh encephalopathy
6 ファー病 Fahr disease
7 パントテン酸キナーゼ関連神経変性症 pantothenate kinase-associated
neurodegeneration(PKAN)
8 ウェルニッケ脳症 Wernicke encephalopathy
G 脱髄疾患
1 多発性硬化症 multiple sclerosis(MS)
2 マルキアファーバ・ビニャミ病 Marchiafava-Bignami disease
3 急性散在性脳脊髄炎 acute disseminated encephalomyelitis(ADEM)
H プリオン病
1 孤発性クロイツフェルト・ヤコプ病 Creutzfeldt-Jakob disease(CJD)
I 頭部外傷
1 脳挫傷 brain contusion
2 脳裂傷 cerebral laceration
3 びまん性軸索損傷 diffuse axonal injury
4 脳幹部外傷 brain stem injury
索引
書評
開く
神経病理への第一歩を一緒に踏み出そう
書評者: 田中 伸哉 (北大大学院教授・腫瘍病理学)
本書の特徴は,脳の正常構造・病変ともに,大迫力の美しい写真が満載されていることである。本書は,A4判で約150ページ,質感のよいソフトな本で手にとりやすく,ページ半分の非常に美しい大きな写真が基本となっている。脳のマクロ構造の美しさが,著者オリジナルの視点で切り取られて掲載されており,その美しさに思わずうなる。「ミクロはどうなっているのだろう」とより深く脳を知りたくなるように配置されており,見た者の探究心を惹起し,より深い神経病理の世界へ誘うこれまでに類をみない素晴らしいマクロアトラスである。
「第I編 中枢神経系の観察(正常)」では,百科事典のような単調な神経解剖のアトラスとは異なり,ブレインカッティングを前提とした詳細な観察のポイントが,神経病理医の視点で丁寧に示されている。美しい写真は枚挙にいとまがないが,くも膜の迫力のショットは下方からのアングルで撮影されており,透きとおるくも膜が非常に美しく印象深い。外側膝状体にフォーカスを絞った写真もインパクトがある。著者オリジナルのこのアングルからの写真は非常に理解しやすい。中心溝の同定の方法も複数の美しい写真でわかりやすく解説されており,初学者も必見である。側脳室を直方体として切り出して3方向から見たアングルのセットの写真は,尾状核頭,視床が直感的に理解できる。ブレインカッティングの手順は的確な刃を入れるポイントの写真が明示されており,非常にわかりやすい。また,解説の部分では「手のひらで軽くしっかり押さえて切り始める」など,脳を押さえる手の力の入れ具合のアドバイスは絶妙で他の追随を許さない。脳刀を「1スライスごとに綺麗に拭き取る」など細やかな配慮も写真付きで示されている。
「第II編 病変(疾患)の見方」は,循環障害,感染症,変性疾患,形成異常,周産期脳疾患などに分かれており,いずれの疾患についても,一つひとつ目を見張るような鮮明で迫力のある写真が示されている。まさに一球入魂,経験豊かな著者ならではの圧巻の写真である。これだけ多くの疾患について,これほど高い質感を保持した,生き生きとした病変の肉眼像が示されたアトラスは他にはない。
本書は,神経病理を志す病理医,神経内科医,精神科医にとって使いやすいアトラスであることはもちろんのこと,それ以外にも一般病理医や病理専攻医にも役立つ実践的なアトラスである。ぜひ一般病院の病理検査室にも一冊は常備してほしい。また,わが国において,死因究明が重要事項と位置付けられており,法医学教室にとっても役立つ一冊であろう。神経病理に興味のある者であれば,学生であれ,医師であれ,誰にとっても第一歩を一緒に踏み出せる実践的なアトラスである。ぜひ身近なところに置いて,常時手にとって神経病理の学習,診断,切り出しなどに役立てて欲しい。
神経病理の長い回廊を颯爽と歩くために
書評者: 黒田 直人 (福島県立医大教授・法医学)
このアトラスに掲載された全ての写真は,著者が厳選し言霊を託した「物言う画像たち」である。本書は,解説をわかりやすく最小限度とし,その代わり画像に多くを語らせるという,アトラスの理想を具現化したものだ。
神経病理学を学び始めた人たちにとって,本書に収録された写真の一枚一枚はその道をたどるための地図片であり,恐らくボロボロになっても読み続けられることだろう。また,経験豊富な剖検医にとっても,新風を彼らの脳裏に注ぎ,重要な転換点を与えてくれるに違いない。
例えば31ページを開いてみよう。「小脳と脳幹を切り離す」プロセスを解説するのに,ここまで具体的に注意深く写真で示したアトラスが,これまでにあっただろうか。そして次のページをめくると,小脳脚たちの自然の姿(それはわれわれが医学生の頃に神経解剖学で学んだはずなのになかなかイメージできなかった代物)が現れる。恥ずかしながら,小生など今までオロオロしながら脳幹を切離していたのだが,このアトラスはその勘所を見事に示している。これなら今度こそ自信をもって脳幹と渡り合えるぞ,という勇気すら与えてくれているではないか。
さらに111ページでは,「結節性硬化症」の特徴的な皮質病変が,特大の画像で一つひとつ丁寧に示されている。
「よく見てごらん。ほら,ここも,それからこれもそうなんだよ」と,著者の教えが聞こえて来るかのような,心強い導きがこのアトラスには込められている。
このアトラスの特長とも言える大きく丁寧に撮影された写真たちは,所見や特徴を克明に示しているだけではない。それらは,「脳や臓器の写真というものはこのように撮影しなければいけないよ」という重要なメッセージをも読者に与えてくれている。
他の領域の解剖と比較して,われわれ法医の担当する解剖では脳検査の機会が実はとても多い。しかし,多いが故に駆け足で通り過ぎてしまいがちで,その結果,脳検査に不安を抱くようになることが多かった。指導を受ける好機が非常に限られていることに加え,脳をどのように調べるかをわかりやすく示した教科書やアトラスが乏しかったことが,われわれに不要の彷徨を強いていたのかもしれない。
世の医学アトラスには,厚く,重く,時として硬く,ページをめくるのに些か気力を要するものが案外多い。『マクロ神経病理学アトラス』は,全ての剖検医が渇望していた書である。研究室に,解剖室に,そしてくつろぎの場所にさえも置いて,一度ページをめくった人ならいつでも,何度でも,用がなくても開きたくなるような,アトラスかくあるべしという驚嘆の一冊である。
エキスパートもハッとさせられる新しい発見がいくつもある
書評者: 水澤 英洋 (国立精神・神経医療研究センター理事長)
このたび,東京都医学総合研究所神経病理解析室長の新井信隆先生の手になる本書を拝読する機会を得て,まさにその迫力と美しさに息をのんだ。本書の帯にある「大迫力…!」の文句の通りであった。写真は極めて美しく,必要に応じて破線で輪郭を示したり指示線を活用したりして,かゆいところに手が届く工夫がなされている。長年,神経病理学の教育に尽力してこられた先生の面目躍如である。先生は2年間の研修の後は病理学の道に入られた神経病理学のプロフェッショナルであり,片や私は脳神経内科医でありながら研究手法として神経病理学を学んだ者であるが,神経病理学会では親しくお付き合いをさせていただいた。
病の人を診るときに,まずよく観て(視診),触って(触診),あるいは叩く(打診)など目,耳,手などを動員して病気を探り診断に導く。神経病理学もまさに同様であり,自らの眼をもって脳や脊髄をその場で観察し,取り出して観察し,割を入れて内面・断面を開いて観察することが大切である。本文はほぼ全て貴重なマクロ(肉眼)写真とその理解を助けるための少数の大切片染色像で占められている。最初の40ページが正常像である。硬膜で覆われた大脳から始まり,脊髄の馬尾に至るまでが,外面,内面,背面,底面,水平断,冠状断,矢状断などさまざまな方向から呈示されている。また,神経解剖学は学生にはあまり人気はないそうであるが,実はその名称は非常に自然でわかりやすい。すなわち,断面に多数の線状が見えるので線条体,あたかも歯のように見えるから歯状回といった具合に,見えるとおりに素直に命名されている。そのような由来がきわめてよくわかるようになっている。このような観察には当然ながら脳を切り出す必要があり,その仕方がわかりやすく写真で表示されているのも本書ならではの特徴である。各論は循環障害(p.42~63),感染症(p.64~73),変性疾患(p.74~94),形成異常(p.95~114),周産期脳障害(p.115~121),代謝異常(p.122~131),脱髄疾患(p.132~134),プリオン病(p.135),頭部外傷(p.136~139)と重要な疾患は十分カバーされている。先生のご専門は発達の障害にかかわる神経病理であるが,形成異常と周産期脳障害は合わせて27ページと充実している。しかも,全体で150ページ余りと極めてコンパクトに仕上げられており,持ち運びにも困難はない。
私は40年以上にわたって脳神経内科と神経病理を専門としてきたが,嬉しいことにハッとさせられる新しい発見がいくつもあった。本書は,神経病理学や神経解剖学を学ぶ方々はもちろんのこと,それらを専門とするエキスパートの方々にも非常に役に立つ。また,脳神経内科,脳神経外科,精神科など脳や神経にかかわりのある領域の医師・看護師のみならず,リハビリテーション,内科,小児科など全身を対象とする医療スタッフにもぜひ見ていただきたい一冊である。
書評者: 田中 伸哉 (北大大学院教授・腫瘍病理学)
本書の特徴は,脳の正常構造・病変ともに,大迫力の美しい写真が満載されていることである。本書は,A4判で約150ページ,質感のよいソフトな本で手にとりやすく,ページ半分の非常に美しい大きな写真が基本となっている。脳のマクロ構造の美しさが,著者オリジナルの視点で切り取られて掲載されており,その美しさに思わずうなる。「ミクロはどうなっているのだろう」とより深く脳を知りたくなるように配置されており,見た者の探究心を惹起し,より深い神経病理の世界へ誘うこれまでに類をみない素晴らしいマクロアトラスである。
「第I編 中枢神経系の観察(正常)」では,百科事典のような単調な神経解剖のアトラスとは異なり,ブレインカッティングを前提とした詳細な観察のポイントが,神経病理医の視点で丁寧に示されている。美しい写真は枚挙にいとまがないが,くも膜の迫力のショットは下方からのアングルで撮影されており,透きとおるくも膜が非常に美しく印象深い。外側膝状体にフォーカスを絞った写真もインパクトがある。著者オリジナルのこのアングルからの写真は非常に理解しやすい。中心溝の同定の方法も複数の美しい写真でわかりやすく解説されており,初学者も必見である。側脳室を直方体として切り出して3方向から見たアングルのセットの写真は,尾状核頭,視床が直感的に理解できる。ブレインカッティングの手順は的確な刃を入れるポイントの写真が明示されており,非常にわかりやすい。また,解説の部分では「手のひらで軽くしっかり押さえて切り始める」など,脳を押さえる手の力の入れ具合のアドバイスは絶妙で他の追随を許さない。脳刀を「1スライスごとに綺麗に拭き取る」など細やかな配慮も写真付きで示されている。
「第II編 病変(疾患)の見方」は,循環障害,感染症,変性疾患,形成異常,周産期脳疾患などに分かれており,いずれの疾患についても,一つひとつ目を見張るような鮮明で迫力のある写真が示されている。まさに一球入魂,経験豊かな著者ならではの圧巻の写真である。これだけ多くの疾患について,これほど高い質感を保持した,生き生きとした病変の肉眼像が示されたアトラスは他にはない。
本書は,神経病理を志す病理医,神経内科医,精神科医にとって使いやすいアトラスであることはもちろんのこと,それ以外にも一般病理医や病理専攻医にも役立つ実践的なアトラスである。ぜひ一般病院の病理検査室にも一冊は常備してほしい。また,わが国において,死因究明が重要事項と位置付けられており,法医学教室にとっても役立つ一冊であろう。神経病理に興味のある者であれば,学生であれ,医師であれ,誰にとっても第一歩を一緒に踏み出せる実践的なアトラスである。ぜひ身近なところに置いて,常時手にとって神経病理の学習,診断,切り出しなどに役立てて欲しい。
神経病理の長い回廊を颯爽と歩くために
書評者: 黒田 直人 (福島県立医大教授・法医学)
このアトラスに掲載された全ての写真は,著者が厳選し言霊を託した「物言う画像たち」である。本書は,解説をわかりやすく最小限度とし,その代わり画像に多くを語らせるという,アトラスの理想を具現化したものだ。
神経病理学を学び始めた人たちにとって,本書に収録された写真の一枚一枚はその道をたどるための地図片であり,恐らくボロボロになっても読み続けられることだろう。また,経験豊富な剖検医にとっても,新風を彼らの脳裏に注ぎ,重要な転換点を与えてくれるに違いない。
例えば31ページを開いてみよう。「小脳と脳幹を切り離す」プロセスを解説するのに,ここまで具体的に注意深く写真で示したアトラスが,これまでにあっただろうか。そして次のページをめくると,小脳脚たちの自然の姿(それはわれわれが医学生の頃に神経解剖学で学んだはずなのになかなかイメージできなかった代物)が現れる。恥ずかしながら,小生など今までオロオロしながら脳幹を切離していたのだが,このアトラスはその勘所を見事に示している。これなら今度こそ自信をもって脳幹と渡り合えるぞ,という勇気すら与えてくれているではないか。
さらに111ページでは,「結節性硬化症」の特徴的な皮質病変が,特大の画像で一つひとつ丁寧に示されている。
「よく見てごらん。ほら,ここも,それからこれもそうなんだよ」と,著者の教えが聞こえて来るかのような,心強い導きがこのアトラスには込められている。
このアトラスの特長とも言える大きく丁寧に撮影された写真たちは,所見や特徴を克明に示しているだけではない。それらは,「脳や臓器の写真というものはこのように撮影しなければいけないよ」という重要なメッセージをも読者に与えてくれている。
他の領域の解剖と比較して,われわれ法医の担当する解剖では脳検査の機会が実はとても多い。しかし,多いが故に駆け足で通り過ぎてしまいがちで,その結果,脳検査に不安を抱くようになることが多かった。指導を受ける好機が非常に限られていることに加え,脳をどのように調べるかをわかりやすく示した教科書やアトラスが乏しかったことが,われわれに不要の彷徨を強いていたのかもしれない。
世の医学アトラスには,厚く,重く,時として硬く,ページをめくるのに些か気力を要するものが案外多い。『マクロ神経病理学アトラス』は,全ての剖検医が渇望していた書である。研究室に,解剖室に,そしてくつろぎの場所にさえも置いて,一度ページをめくった人ならいつでも,何度でも,用がなくても開きたくなるような,アトラスかくあるべしという驚嘆の一冊である。
エキスパートもハッとさせられる新しい発見がいくつもある
書評者: 水澤 英洋 (国立精神・神経医療研究センター理事長)
このたび,東京都医学総合研究所神経病理解析室長の新井信隆先生の手になる本書を拝読する機会を得て,まさにその迫力と美しさに息をのんだ。本書の帯にある「大迫力…!」の文句の通りであった。写真は極めて美しく,必要に応じて破線で輪郭を示したり指示線を活用したりして,かゆいところに手が届く工夫がなされている。長年,神経病理学の教育に尽力してこられた先生の面目躍如である。先生は2年間の研修の後は病理学の道に入られた神経病理学のプロフェッショナルであり,片や私は脳神経内科医でありながら研究手法として神経病理学を学んだ者であるが,神経病理学会では親しくお付き合いをさせていただいた。
病の人を診るときに,まずよく観て(視診),触って(触診),あるいは叩く(打診)など目,耳,手などを動員して病気を探り診断に導く。神経病理学もまさに同様であり,自らの眼をもって脳や脊髄をその場で観察し,取り出して観察し,割を入れて内面・断面を開いて観察することが大切である。本文はほぼ全て貴重なマクロ(肉眼)写真とその理解を助けるための少数の大切片染色像で占められている。最初の40ページが正常像である。硬膜で覆われた大脳から始まり,脊髄の馬尾に至るまでが,外面,内面,背面,底面,水平断,冠状断,矢状断などさまざまな方向から呈示されている。また,神経解剖学は学生にはあまり人気はないそうであるが,実はその名称は非常に自然でわかりやすい。すなわち,断面に多数の線状が見えるので線条体,あたかも歯のように見えるから歯状回といった具合に,見えるとおりに素直に命名されている。そのような由来がきわめてよくわかるようになっている。このような観察には当然ながら脳を切り出す必要があり,その仕方がわかりやすく写真で表示されているのも本書ならではの特徴である。各論は循環障害(p.42~63),感染症(p.64~73),変性疾患(p.74~94),形成異常(p.95~114),周産期脳障害(p.115~121),代謝異常(p.122~131),脱髄疾患(p.132~134),プリオン病(p.135),頭部外傷(p.136~139)と重要な疾患は十分カバーされている。先生のご専門は発達の障害にかかわる神経病理であるが,形成異常と周産期脳障害は合わせて27ページと充実している。しかも,全体で150ページ余りと極めてコンパクトに仕上げられており,持ち運びにも困難はない。
私は40年以上にわたって脳神経内科と神経病理を専門としてきたが,嬉しいことにハッとさせられる新しい発見がいくつもあった。本書は,神経病理学や神経解剖学を学ぶ方々はもちろんのこと,それらを専門とするエキスパートの方々にも非常に役に立つ。また,脳神経内科,脳神経外科,精神科など脳や神経にかかわりのある領域の医師・看護師のみならず,リハビリテーション,内科,小児科など全身を対象とする医療スタッフにもぜひ見ていただきたい一冊である。
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。