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医学界新聞プラス
[第2回]切片の処理で用いる機器の取り扱い
『免疫染色パーフェクトガイド[Web動画付]』より
柳田絵美衣
2023.11.17
免疫染色パーフェクトガイド[Web動画付]
正しく検体処理をしているはずなのにうまく染色されない――。このような際に染色工程のどこに問題があり,どう対応すれば改善するかをあなたはすぐ見抜けますか。新刊『免疫染色パーフェクトガイド[Web動画付]』では免疫染色の原理といった基本を押さえつつ,検体や機器などの取り扱いによる染色結果の違いや染色がうまくいかない原因と解決策について,豊富な写真や動画と共に解説しています。免疫染色を行う際に実際に“困った”シチュエーションごとに対応法を解説しているので,病理検査の現場で実践的に活用できる点が本書の特長です。
「医学界新聞プラス」では,「第Ⅰ章 知っておきたい免疫染色の原理」「第Ⅱ章 目でみる免疫染色良い例・悪い例」「第Ⅲ章 こんなときどうする? 免疫染色の“困った”を解決」の内容を一部抜粋し,全3回でご紹介します。
※本書は雑誌『検査と技術 46巻9号(2018年9月)増刊号 免疫染色クイックガイド』の内容を基に制作されています。
KEYWORD 伸展条件,乾燥条件,抗原賦活処理,加熱処理
伸展時の温度,乾燥条件による染色性の比較
切片の伸展温度による染色性の差
切片を伸展する際の伸展器の温度によって染色性に差がみられる.図1aは40℃で20分間伸展した場合の染色性であり,腎尿細管に染色性が確認できる.図1bは伸展温度70℃で20分間伸展した場合である.図1aと比較して,染色性が低下していることがわかる.
生卵に熱を加えると変性し,ゆで卵になる現象は“熱変性”と呼ばれ,蛋白に熱を加えることで構造が変化している.抗原も蛋白であるため,高温で加熱されると変性する.熱変性すると蛋白の構造が変化するため,抗原の抗原決定基(エピトープ)も変化することになる.エピトープは抗体が抗原を認識する鍵穴のようなものであるため,鍵穴の形が変化してしまうと,本来合致するはずの鍵の形が合わなくなってしまう.そのため,抗原抗体反応が十分にできず,染色性の低下につながると考えられる.
a:40℃で20分間伸展した場合の染色性,b:70℃で20分間伸展した場合の染色性.
伸展後の乾燥条件による染色性の差
切片を伸展した後の乾燥条件によって,染色性に差がみられる.図2aは40℃で10分間伸展後,40℃のふ卵器内で30分間乾燥させた場合の染色性,図2bは40℃で10分間伸展後,室温で一晩放置した場合の染色性である.両者の違いは,切片が乾燥するまでの条件にある.ふ卵器内での乾燥は水分の蒸発が早い.
図2からは,染色性に影響を及ぼす可能性のある原因が2つ考えられる.1つは,乾燥にかかる時間である.図2aはふ卵器内で乾燥させたため,切片が水に触れている時間が短いのに対し,室温で放置した図2bは徐々に乾燥していくため,切片が水に触れている時間が長い.水分子にも極性があり,電荷や極性をもつ分子と結合しやすい性質をもっているため,極性や電荷をもつ物質は水の中に分散し溶ける.しかし,ホルマリン固定しているので,抗原の流出は少ないと考えられる.
もう1つの原因は,水分が蒸発しきれず微量な水分が細胞内に残存することによる脱パラフィン不足が考えられ,その影響で染色性の低下がみられる.

a:40℃で10分間伸展した後に40℃のふ卵器内で30分乾燥させた場合の染色性.
b:40℃で10分間伸展した後に室温で一晩放置し乾燥させた場合の染色性.
抗原は蛋白であることを忘れない
蛋白が変性する要因は,抗原が変性する要因にもなる.蛋白の変性には,熱変性,圧力変性,添加剤による変性,pH変性,界面での変性,化学反応による変性などが存在するため,検体や切片の取り扱い条件には気をつけたい.
加熱処理に使用する機器の違いによる染色性の比較
抗原賦活処理の効果
病理診断で用いるのはホルマリン固定パラフィン包埋切片が主流である.しかし,ホルマリンなどのアルデヒド系固定液(架橋剤)での固定により,蛋白架橋反応による立体障害や,ブロック作製から脱パラフィンまでの工程で用いる有機溶剤による影響で,エピトープが抗体と反応しにくくなる.わかりやすく表現すると“抗原の反応部位がマスクされ,覆い隠されてしまうために,抗体と出会えない”ということになる.抗原賦活処理には,このマスクの原因を除去して抗原が抗体と反応しやすくする効果や,蛋白がもつ独自の立体構造(高次構造)に再構成する効果がある.
1.圧力鍋による加熱処理(図3)(手技動画5)*
圧力鍋による加熱処理は,強い熱と圧力を一気に加えるため,短時間で抗原賦活処理をすることが可能である.しかし,加熱と加圧がとても強く細胞や組織への傷害も大きくなるため,処理時間の設定が重要となる.また,加圧するため,抗原賦活液に界面活性剤を加えることは禁忌である.
①緩衝液を鍋に入れ沸騰させる(a).加圧を行うため,抗原賦活液にNP40,Tween 20などの界面活性剤を加えることは禁忌である.
②脱パラフィン化した標本を投入する(b).
③2~5分間,加圧・加熱する(c).pH8.0 EDTA溶液:3分加熱・加圧,pH6.0 クエン酸緩衝液:5分加熱・加圧する.
④緩衝液中で自然冷却させる(直接水を加えて冷やす行為は厳禁である).
2.マイクロウェーブによる加熱処理(図4)
マイクロウェーブによる加熱処理では,マイクロ波を照射して物質の分子を振動させ,その摩擦熱で温度を上昇させる.加熱時間が長すぎると,変性や剝離が起きやすくなるため加熱時間には注意が必要である.
①溶液を沸騰させる.
②切片を入れ,5分間照射(a).
③室温5分間放置(b).
④照射と室温放置を3~6回繰り返す.
⑤室温で20~30分放置.
3.ウォーターバスによる加熱処理(図5)
ウォーターバス内の水を温め,その熱でドーゼ内の抗原賦活液を温める.圧力鍋やマイクロウェーブに比べると加圧もなく,熱の加わり方は穏やかである.
①ウォーターバス内の水を98℃にする.
②ドーゼ内の抗原賦活液をあらかじめ98℃にする.
③切片を入れ,40分間インキュベートする.
④ドーゼを出し室温で20分放置.
実際の染色性
図6のように,加圧効果もある圧力鍋が最も抗原賦活効果が高く,染色性も強い.ウォーターバスは熱の伝わりが穏やかであるため,抗原賦活効果は穏やかで染色性が弱い.図6の囲まれた部位では,特にその差が明らかである.
なお,抗原賦活処理が強すぎると過染色となったり,切片が剝離しやすくなったりするため,染色性をみながら適切な機器を検討するとよい.また,使う抗体によって賦活方法が指定されている場合は指定通りに賦活を行う必要がある.
a:圧力鍋での加熱処理,b:加熱処理なし,c:マイクロウェーブでの加熱処理,d:ウォーターバスでの加熱処理.黄円(○)で囲まれた部位では,特に染色性の差が明らかである.
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