めざせ「ソーシャルナース」! 社会的入院を看護する
[第4回] 患者・家族の価値観に合った治療・療養場所を考えよう
連載 石上雄一郎
2023.08.28 週刊医学界新聞(看護号):第3530号より
CASE
85歳男性。認知症が進行し発語はなく,食事が取りにくい状況になっていた。以前にも誤嚥性肺炎で入院の経験あり。今回は誤嚥性肺炎となり入院したものの,嚥下のリハビリテーションを行っても食事が取れるようにならなかった。肺炎の治療が終わり,主治医が家族に転院を打診したところ,「転院先で治療もリハビリもしてもらえないなら転院したくない」と言われた。
治療が終わったらとりあえず療養場所を探す,という家族面談を何度か見てきた。こうした場面で気になることがある。療養場所を移動する時に「次に具合が悪くなったらどうすれば良いか?」を考えるのは普通のことであるものの,話し合われていない場合が多いことだ。「急性期病院にはずっと入院していることができない」との理由だけで転院を打診されると,患者家族は追い出されたと感じ,「これでよかった」という意思決定にならない。治療方針のコンセンサスが得られず,療養場所がうまく決まらないことも多い。
筆者は緩和ケア医として,日常臨床で意思決定支援を行っている。その際に感じるのが,患者や家族と「どこでどのように過ごすのが良いか」を考える時に,「どこまで治療するか」は必ずセットになるということだ。コミュニケーションの方法について学ぶ機会が少ないため,意思決定支援に苦手意識を持つ方は少なくないと思われる。よって,今回は意思決定支援の際に意識したい話し方のフレームワークを解説する。
着実にクリアすべき面談時の3ステージ
病状説明・家族面談の方法として,「ステージ1 診断と予後を共有する」「ステージ2 ケアのゴールを定める」「ステージ3 治療方針を決める」の3ステージプロトコールを紹介する1)(図)。必ず1→2→3の順番で話を進めるのがポイントだ。ステップではなくステージが用いられているのは,ゲームのステージクリアをイメージして本手法が作られたからだそうだ。ステージ1をクリアしてからステージ2,3へと進み,ステージを飛ばすことはできない。

治療方針に合う療養場所がない場合は,治療方針と同時に検討することもある。
ステージ1 診断と予後を共有する
初めに,これまでに何が起こっていて(診断),これから何が起こるか(予後)を患者や家族と共有しよう。医療者と患者や家族とでは,認識のギャップがそもそも大きいことが多いからだ。ギャップを埋めるには,まず相手が病状をどう理解しているかを聞く。続いて医療者側の病状に対する認識を伝える。この際,シンプルに中学生でも理解できる言葉で伝えることが推奨されている2)。たとえ難しい話題であっても端的に2分以内で話すことが重要だ(2分ルール)。『1分で話せ』3)という本も出版されるほどで,難しい話は10分聞いてもわからない。伝えたいことを要約する際のオススメは,新聞の見出しに書くとしたら何と書くかを考えることだ。
なお,予後には時間的予後(どのくらいの時間が残されているか)と機能的予後(今後どのような生活になるか)の2種類がある。患者や家族が予後を正しく知ることでやりたいことの優先順位が変わる場合があるので,認識のギャップをなるべく解消するように心がけたい。
ステージ2 ケアのゴールを定める
ケアのゴールを定めるために,本人の価値観や家族の思いを聞こう。具体的には本人がどんな「人となり」なのかがイメージできるように,楽しみや気がかりを聞くことだ。「そんなことを聞いている時間はない」とほとんどの医療者がステージ2を飛ばしてしまう傾向がみられる。しかし,ケアのゴールが定まれば自然と治療方針が決まるため,丁寧に対話を重ねてほしい。
ステージ3 治療方針を決める
治療方針を決める際には意思決定の3手法(パターナリズム,インフォームドコンセント,共同意思決定)が存在することを意識したい。パターナリズムは医療者が意思決定し,患者が従う。インフォームドコンセントは,治療のメリット・デメリット・死亡率・合併症率などについて客観的に説明し,患者に選んでもらう。患者の自己決定権が尊重される点は良いのだが,医療において素人の患者は論理的に判断できず,直感的に選んでしまうことが問題となっている。最近は共同意思決定が主流となっており,これは患者の希望を聞いた上で医療者と患者で一緒に意思決定する方法だ。
ここで重要なのは患者の価値観に合ったオススメの治療法を提示することである。患者家族の意思決定の負担を医療者が肩代わりできるからだ。ソムリエが客の好みに合わせて酒を選ぶように,患者が大事にしている価値観を聞いた上で最も良い治療を提案したい。提案する治療は多くの場合,...
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