ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ
[第18回] 高血糖緊急症――DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)治療編
連載 徳竹雅之
2023.11.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3541号より
今回は高血糖緊急症のうち,DKAのマネジメントを解説します。HHS(高浸透圧高血糖症候群)とは似て非なるもので診断の定義が異なるので,当然治療ゴールも異なります。前号に引き続き,時間軸に沿ったアクションプランを基に見ていきましょう(図)1)。
治療ゴール:ケトアシドーシスの解消
治療のゴールを見据え,どうやってたどりつくかを考えて実践するのが臨床です。まずは治療ゴールの確認です(表)。HHSでは高浸透圧・高血糖を治療することでしたが,DKAではケトアシドーシスを解消することが目標です。ケトーシスの指標として血中ケトンやアニオンギャップ(AG),アシドーシスの指標としてpHを使用するのがスタンダードです。HCO3->18 mmol/Lが指標に使われることがありますが,個人的にはあまり用いていません。DKA治療に用いられる輸液は晶質液が中心ですが,これにより二次性に高Cl血症が引き起こされ,AG非開大代謝性アシドーシスとなることがあります。生理食塩水(以下,生食)による高Cl性代謝性アシドーシスが有名ですが,リンゲル液でも大量に投与することで引き起こされます〔K補正目的の塩化カリウム(KCL)付加でさらに高Cl血症を助長することも〕。つまり,HCO3-は輸液によっても低下するため,これを治療の指標にしてしまうと「全然アシドーシスが良くならない!」というpitfallにはまることがあります。単一の指標に縛られずに治療目標を達成できているか判断するようにしてください。
時間軸に沿った治療法
さて,前回同様にチェック項目とやることを限定してしまいましょう。チェックすべきは①血中ケトン濃度(AGやHCO3-でも可),②血糖値,③血清K濃度の3つで,動かすパラメータは①輸液,②インスリン,③Kの3つです(ここはHHSと同じですね!)。
0~60分:初手は輸液だけど,インスリンとK補充も急げ!
HHSではこの時間帯には晶質液を投与するだけでよかったのですが,DKAではやることがたくさんあります。ケトアシドーシスに対する最も重要な初期診療は,適切な輸液とそれに引き続くインスリン投与です。インスリン投与によりKは必ず低下する運命なので,その補正も忘れるべからず! また,誘発因子となり得る感染症(COVID-19を含む),急性心筋梗塞をはじめ,SGLT2阻害薬や妊娠がきっかけになることもあるので,病歴聴取や検査を必ず行うようにしましょう(3532号第16回参照)。
①輸液:DKAにおいても「初手:輸液」には変わりありません。輸液により循環血漿量を回復させておくことが重要です。その理由は2つ。1つは,ストレスホルモン放出が抑制されることで,インスリン抵抗性が改善し,ケトン体排泄も促進されるからです。もう1つは,この後の治療に必須となるインスリンを投与すると血管内脱水が引き起こされることがあるため,それに備える意味合いもあります。インスリンは血管内の糖と水とKを一緒に細胞内に押し込む役割を果たしています。そのため,血管内脱水がある状態でインスリンが静注されてしまうと一気に血管内容量が低下して難治性のショックを起こすことがあります。高血糖緊急症に対して急いでインスリンを打ちたくなる気持ちはよくわかりますが,「初手:輸液」は肝に銘じてください。晶質液輸液をしながら,本記事をチラ見して次の一手を確認するくらいの時間はあります。低血圧がある場合には,まず晶質液を500~1000 mL急速点滴静注し,その後1時間かけて1000 mLを投与するイメージです。
晶質液として生食とリンゲル液のどちらがいいのか論争がありますが,ことDKAではリンゲル液に軍配が上がりそうです。ERで行われた2試験の事後サブグループ解析によれば,リンゲル液では生食よりもケトアシドーシスの消失が早い可能性が示唆されています2)。生食はリンゲル液に比較して,大量投与によりAG非開大代謝性アシドーシスを引き起こしやすいので,あえて生食を選択する理由もないでしょう。
②インスリン療法(Fixed Rate Intravenous Insulin Infusion:FRIII):輸液による血管内脱水の補正を迅速に終わらせたら,早い段階でインスリン投与(FRIII)を開始します。ここがHHSとの大きな違いです。DKAでは病態の根底にインスリンの絶対的な欠乏があります。これによりケトーシスが発生しますが,ケトン体産生を抑制するためにインスリンが必須になります。ここでは0.1 U/kg/時の固定用量を用いましょう。なお,低血糖への懸念があるのでFRIII開始前のインスリンボーラス投与は不要です。HHSでは浸透圧の急激な変化を防ぐために0.05 U/kg/時から開始しましたが,DKAでは血糖値の変化による浸透圧低下が問題になることは非常にまれとされています。速やかにケトーシスを改善させるメリットは,急激な浸透圧低下によるリスクを常に上回ります。
なお,重症度が高くない場合や頻回のモニタリングができない状況などでは,速効型インスリン皮下注射による治療も選択できます。血糖値に応じて皮下注射を繰り返すレジメンで,初回投与量を0.15 U/kgとして,血糖値>250 mg/dLの場合には2時間ごと,血糖値<250 mg/dLの場合には4時間ごとに同量を投与します3)。
③K補充:Kは今回も超重要です。アシドーシス存在下ではKの細胞外シフトが起きているために,見かけ上は血清K濃度が正常または上昇していることがあります。しかし,体内総K貯蔵量を反映しているわけではないことはpitfallです。インスリン投与によりほぼ必ずKは低下するので4),「今回はK補充はいらなそうだな」と初期データだけを見て高をくくってしまうと治療失敗が待っています。血清K濃度<5.5 mmol/Lで尿が出ているならば,メインを40 mmol/LのKを含む晶質液にしていきます。血清K濃度≦3.5 mmol/Lになった場合は,K療法を見直す必要が出てきます。体液バランスが許せばK40 mmol/Lの晶質液の注入速度を上げることが可能ですし,そうでない場合はより高濃度のK輸液が必要となるため,ICUでの治療を検討します。
60分~6時間:FRIIIの調整をしてケトンを下げる!
この時間帯の目標は「ケトンを下げる!」に尽きるので,FRIIIを継続します。Kを維持し,低血糖を避けることは合併症を防ぐ観点から重要です。
ケトン体を少なくとも0.5 mmol/L/時で低下させることが目標です。これに達しない場合には,インスリン投与速度を1時間ごとに1.0 U/時ずつ増加させていきます。代替指標としてHCO3-や血糖値を使用することもでき,ぞれぞれ3.0 mmol/L/時,50 mg/dL/時を下回る補正速度の場合にはインスリン注入速度を上記の通りに増加させて,目標通りに治療が進むように調整します。低血糖は避けなければなりませんので,50 mg/dL/時以上の速度で低下する場合にはインスリン投与量を減らしてください。ただし,ケトーシスが増悪する可能性があるため,少なくとも0.05 U/kg/時は維持できるようにします。
血糖値<250 mg/dL程度になった場合には,低血糖や低K血症の発生リスクを下げるために,5%ブドウ糖液または10%ブドウ糖液100~125 mL/時ほどで投与しつつFRIIIを0.05 U/kg/時に減量することを検討してください。
長時間作用型基礎インスリンをすでに使用している場合には,いつも通りの時間に同じ用量で継続しておきましょう。FRIIIから離脱したときにケトーシスの再燃を予防する目的です。インスリン使用歴がない場合には,0.25 U/kg皮下注射しておくことが推奨されます5)。
6時間以降:インスリン皮下注に切り替え。インスリンは絶対に切らさない!
おそらくこの時間帯に治療目標を達成できることが多いと思います。ケトン体<0.6 mmol/L未満,AG<12,pH≧7.3であれば,ケトアシドーシスの解消と判断します。この生理学的な安定に加え,飲食可能となればDKA治療はほぼゴールです。FRIIIをインスリン皮下注射に切り替えていきます。
ここでの注意点は,必ずインスリン皮下注射とかぶせてFRIIIを終わらせることです。食事と関連した皮下注射から少なくとも30~60分間はインスリン持続静注を中止してはいけません。インスリンを途切れさせるとケトーシスが再燃する可能性があります。食事前に速効型インスリン皮下注射を行い,30~60分後にFRIIIを中止するのが理想的です。インスリン使用歴がある場合には処方を踏襲すればいいですし,インスリン使用歴がない場合にはインスリンの1日総投与量を体重(kg)に0.5 Uを乗じて計算します。1日総投与量の50%を持効型インスリンとして投与(上述の通り),残りの50%を朝食前,昼食前,夕食前に等分するとよいです。
*
HHSのマネジメントとの違いをご理解いただけたでしょうか。共通点もありますが,特にインスリンの使い方あたりは注意が必要と思います。HHSの治療編と並べて読んでもらえたら幸いです。
今回の勘どころ
✓ DKAの治療は「ケトアシドーシスの解消」が目標! ケトーシス,アシドーシスの改善をめざそう。
✓ 「初手:輸液」に引き続き,インスリン投与を急げ!
✓ インスリンは絶対に途切れさせてはならない。
参考文献
1)Diabet Med. 2022[PMID:35224769]
2)JAMA Netw Open. 2020[PMID:33196806]
3)Diabet Med. 2022[PMID:35224769]
4)Diabet Med. 2016[PMID:26286235]
5)J Clin Endocrinol Metab. 2012[PMID:22685233]
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