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  • ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ(16)高血糖緊急症 診断編――隠された異常に気付ける!?(徳竹雅之)

医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹雅之

2023.09.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3532号より

 当直でしばしば遭遇し,「マネジメントってどうすればいいんだっけ?」と戸惑ってしまう高血糖緊急症〔糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と高浸透圧高血糖症候群(HHS)〕。診断編と治療編(次回,3536号)に分けて学んでいきましょう!

 DKAはケトーシスとアシドーシス,HHSは高浸透圧が問題になりますが,これらに起因する症状や徴候は実に多彩です。なんでもアリと言っても過言ではありません。糖尿病患者で重篤感がある(特に意識障害や頻呼吸など)場合には高血糖緊急症を疑う!で良いかと思います1)。腹痛や嘔吐といった消化器症状が前面に出るDKAもあり,あの向かうところ敵なしと思われるCT様でも診断がつかないこともあります。こういった患者には血液ガス分析や尿検査の閾値を低くして引っ掛けるのが重要です。ただし,糖尿病の既往がなくともDKAやHHSが糖尿病の初発症状となることがあるのは注意点であり,最近では小児や若年例のHHSも増えているとされています2)

 診断のカギになるのは,(1)高血糖,(2)アニオンギャップ(AG)開大性代謝性アシドーシス(AGMA),(3)尿中ケトン体または血中ケトン体の有無です(3)。これらを血液ガス分析やケトン体測定により探していきましょう! Pitfallがたくさんあるので1つずつ見ていきます。

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 高血糖緊急症診断のカギ(文献3より作成)

 疑って血ガス!のムーブをとれるかで診断できるかどうかのほぼ全てが決まります。糖尿病,なんか具合悪そう,のいずれかに当てはまれば検査をしてしまいましょう。動脈血でも静脈血でも診断には問題がありません4)。高血糖かつAGMA(pH<7.3, AG>12 mmol/L, HCO3-<18 mmol/L)があればDKA,AGMAがなければHHSです。

 でも,実臨床ではそんなに簡単には分類できないことがざらにあります。表に示したDKAの診断基準を満たさないけどDKAという“はぐれDKA”を3つ紹介します。

はぐれDKA①mixed DKA/HHS――DKAとHHSの特徴を併せ持つ

 単純なHHSであればアシドーシスや著明なケトーシスはないはずですが,急性腎障害(AKI)や敗血症などがあればアシドーシスを伴うことがありますし,重症になれば高張性脱水を主病態にケトーシスやアシドーシスになることがあり,DKAを模倣します。高度な糖毒性と過剰な拮抗ホルモン(グルカゴン,カテコラミン,コルチゾールなど)の増加により,相対的なインスリン不足を反映しているmixed DKA/HHSと呼ばれる状態になり得ます(著しいhypovolemia,浸透圧≧320 mOsm/kg,pH<7.3,HCO3-<15 nnol/L,血中ケトン>3.0 mmol/Lを全て満たす)5)

はぐれDKA②euDKA(euglycemic DKA)――高血糖がないDKA

 SGLT2阻害薬の適応が広がるにつれて,血糖値の上昇が乏しいeuDKAをよく見かけるようになりました。SGLT2阻害薬による糖排泄促進作用により高血糖にならず,インスリン分泌低下+グルカゴン分泌促進により結果的にDKAが引き起こされます。他にも妊娠,食事摂取量低下(飢餓),アルコール使用障害や肝硬変などが誘発因子として知られています6)。血糖値が高くないことを理由にDKAを否定してはいけません。SGLT2阻害薬をはじめとした誘因がないかチェックして,AGが開大している場合にはその鑑別を行いましょう(特にケトン体測定)。

はぐれDKA③糖尿病性ケトアルカローシス――pHが下がらない重症DKA

 DKAの範疇ではありますが,アシドーシスの存在がわかりにくいことがあります。血液ガス分析,ちゃんとできてる?とERの神様から言われているような病態です。

 DKAではさまざまな酸塩基平衡を合併することが多いです。嘔吐や浸透圧利尿で循環血漿量低下による代謝性アルカローシス,Kussmaul呼吸による呼吸性アルカローシス,呼吸筋疲労による呼吸性アシドーシスなどがあります。これらの混合性酸塩基平衡によりDKAであっても結果的にpH>7.3またはHCO3->18 mmol/Lとなることがあり,この場合には糖尿病性ケトアルカローシスと呼ばれます。高血糖/血中ケトン体陽性/AG≧16 mmol/L(AGが上昇していれば代謝性アシドーシスの存在が示唆されます)の患者を対象とした最近の研究では,pH>7.4で定義した糖尿病性ケトアルカローシスは23.3%に認められたと報告されています7)。そして,このうちの3割が血中ケトン体≧3 mmol/Lの重症DKAであることがわかっています。血液ガス分析の注意点になってしまいますが,AGはしっかり見ておくようにしてください。「アシデミアがない。ヨシッ」と安直に血液ガスの結果を読むと落とし穴にはまります。AG開大がある場合には乳酸アシドーシス(糖尿病の文脈では特に感染症や虚血,メトホルミン関連乳酸アシドーシスなど),尿毒症性アシドーシス,ケトアシドーシス,中毒の4つを必ず鑑別してください。AGを評価できないと見逃してしまいますね。

 DKAはその名の通り,「ケト」「アシドーシス」なので,ケトーシス=ケトン体の存在を証明しなければなりません。そもそもケトン体ってなんでしょうか? ケトン体とはアセトン,アセト酢酸,β-ヒドロキシ酪酸の総称です。そして,検査によって検出できるケトン体が異なります。尿検査では主にアセト酢酸(とアセトン)しか検出できず,β-ヒドロキシ酪酸を検出するためには血液検査が必要になります。疾患や病期によってβ-ヒドロキシ酪酸とアセト酢酸の産生割合が異なることが知られており,DKAでは3:1~6:1,アルコール性ケトアシドーシス(AKA)では11:1~19:1の割合とされています8)。そのため,尿検査では偽陰性となる可能性があることは注意点です。尿と血液によるケトン体測定はDKA診断の感度は同等であるという報告もありますが9),gold standardは血中ケトン体での診断であり治療の効果判定にも使えますので,もし救急外来に簡易ケトン体測定器がない場合にはすぐに購入しましょう。そんなに高いものではありませんし,数秒で結果が出るのでER診療の強い味方になります。AGMAを見た時に血中ケトン体測定をしていない対応はイマイチです。

 DKAとは少し話が逸れますが,特に筆者が住む地域のようにアルコール使用障害の患者が多い地域ではAKAによく遭遇します。尿ケトン陰性なんてことはしょっちゅうありますので,原因がはっきりしないAGMAには血中ケトン体濃度測定をしています。

 高血糖緊急症の背景に重篤な疾患が潜んでいることを意識しましょう。多忙なER診療では目立つ異常だけに目が行きがちですが,高血糖緊急症の治療失敗は診断の時点から起こり得ます。高血糖緊急症の治療だけをしていても誘因となった疾患を治療しないことには救命できません。特に感染症と急性心筋梗塞は頻度と重症度の観点から絶対に見逃さないように検索しましょう(下記参照)。

・治療へのコンプライアンス不良
・感染症(COVID-19含む肺炎,尿路感染症,胆道感染症,歯科感染症など)
・急性心筋梗塞
・脳血管障害
・アルコールを含む中毒
・妊娠 
・消化器疾患(虫垂炎,急性膵炎,腸閉塞など)

文献10より改変)

 高血糖緊急症の診断はpitfall満載でした。それぞれの検査の限界や特性を意識して見逃しを減らせるように目を鍛えていきましょう。



1)BMJ. 2015[PMID:26510442]
2)Diabetes Care. 2020[PMID:32161050]
3)Diabetes Care. 2009[PMID:19564476]
4)Acad Emerg Med. 2011[PMID:21951652]
5)Diabet Med. 2023[PMID:36370077]
6)Diabetes Care. 2015[PMID:26294774]
7)J Emerg Med. 2023[PMID:36849308]
8)Diabetes Metab Res Rev. 1999[PMID:10634967]
9)Diabetes Care. 2011[PMID:21307381]
10)Emerg Med Clin North Am. 2014[PMID:24766942]

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