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  • ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ(17)高血糖緊急症――HHS(高浸透圧高血糖症候群)治療編(徳竹雅之)

医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹雅之

2023.10.09 週刊医学界新聞(レジデント号):第3536号より

 今回は高血糖緊急症の治療編です。高血糖緊急症といっても高浸透圧高血糖症候群(HHS)と糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)では病態生理が異なり,治療目標も変わってきますので,今回はHHSに着目して解説します。

 高血糖緊急症の治療は,合併症との戦いです。時間はありませんし,考えるべきパラメータが複数に及ぶしで,頭が混乱しがちです。そこで,「いつまでに」「どのパラメータを」「どうやって」マネジメントすれば良いかを時間軸に沿ったアクションプランを基に解説します()。

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 HHS治療の時間軸に沿ったアクションプラン(文献3を基に作成)(クリックで拡大)

 まずは治療のゴールを確認しましょう()。HHSでは「血漿浸透圧の低下」がその1つです。HHSはその名の通り,高血糖+高浸透圧が病態の中心。血糖値やK(カリウム)の管理ばかりに気を取られていませんか? HHSは数日以上の緩徐な経過で発症するため,血漿浸透圧を急激に変化させると神経学的合併症〔脳浮腫や浸透圧性脱髄症候群(ODS)など〕を誘発するリスクがあり,管理が必要です。

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 HHS治療における管理目標とゴール

 輸液やインスリン投与が適切であれば,血漿浸透圧は3~8 mOsm/kg/時での低下が望めるはずです。これ以下では治療効果が乏しく治療強度を上げる必要があり,これ以上であれば神経学的合併症のリスクとなるため治療強度を下げなければなりません。血漿浸透圧は実測値を用いることが理想的ですが,施設によっては夜間は結果が出ないこともあるでしょう。その場合には2*Na+Glu/18+BUN/2.8の公式を使うか,血液ガス分析しか利用できない場合には2*Na+Glu/18(有効浸透圧)でも代用可能です。

 浸透圧を構成する2大要素は血糖値とNaです。HHSのように血管内のグルコースが増えると自由水が血管内にシフトし,Naが希釈されることで血清Na濃度が基準値内~低値を呈することがあります。重度の高血糖がある場合には,血糖値が100 mg/dL低下すると血清Na濃度は2.4 mmol/L上昇する関係にあるとされています1)。血清Na濃度が2.4 mmol/Lを大きく超えて上昇する場合には輸液速度が遅すぎる可能性があります。治療が進むにつれて血清Na濃度が上昇するケースがありますが,ここでも血漿浸透圧が重要な指標となり,これが目標通りに低下している場合には合併症の心配はありません。血糖値やNaといった個別の要素にとらわれるのではなく,それらと密接な関係がある血漿浸透圧に着目して治療の妥当性をチェックするのを忘れないようにしてください。

 私たちがチェックすべきは①血漿浸透圧,②血糖値,③血清K濃度の3つで,動かすパラメータも①輸液,②インスリン,③Kの3つです。慣れないうちはあえて“機械的に”マネジメントすると治療成功率が上がります。

0~60分:晶質液をしっかり投与するだけ!

 この時間帯にやることはたった1つ,輸液だけ! 複数のガイドラインで推奨されているように,ほぼ何も考えずに晶質液1000~1500 mLを初期輸液として最初の1時間で投与してしまいましょう2, 3)。話はそれからです。

 晶質液とは0.9%生理食塩水またはリンゲル液を指します。DKAではリンゲル液が優勢との研究結果が出ていますが,HHSにおいてはまだエビデンスが乏しいと思われます。ガイドラインでは生理食塩水推しではありますが,リンゲル液は生理食塩水に比較して高Cl性代謝性アシドーシスのリスクが低いため,個人的にはリンゲル液を用いることが多いです4)

 誘発因子となり得る感染症や急性心筋梗塞などの検索と治療はお忘れなく(連載第16回を参照してください)。

60分~6時間:3つのチェックポイント・パラメータの評価/調整

 ここからの時間帯はマネジメントが難しくなります。前述の通り,3つのチェックポイントの評価(1時間ごと)と3つのパラメータの調整を行います。

①血漿浸透圧(実測できない場合には計算値で代用も可):3~8 mOsm/kg/時で下げる
②血糖値:最大75~100 mg/dL/時で下げる
③血清K濃度:4.0~5.0 mmol/Lを保つ

 パラメータは上記チェックポイントに合わせられるように動かします。

①輸液:インスリン投与を急ぎたくなるかもしれませんが,HHSのマネジメントの初手は「輸液」です。HHSでは重度の細胞内外脱水を認め,100~200 mL/kgほどの水分喪失があると考えられています(体重60kgの人で約6~12L)5)。晶質液投与を行うことで組織低灌流が改善し,高血糖が解除されることで血漿浸透圧が低下し,ストレスホルモン減少→インスリン反応性を向上させることができます。最初の12時間以内に推定水分喪失量の50%を補充,次の12時間で推定水分喪失量の残り半分を補充する,くらいのイメージで臨むと良いと思います。ただし,主に高齢者で発症するHHSでは心疾患や腎疾患などを持つ患者が多いので一概に推奨できる輸液速度はありません。

 最初の6時間で2~3 Lのプラスバランスを目標にします。250~500 mL/時で晶質液を投与することが多いです。さらに血漿浸透圧と血糖値を見て調整していきます。輸液速度が十分であれば輸液のみで血糖値は75~100 mg/dL/時程度減少します6)。血漿浸透圧や血糖値の低下速度が目標より遅い場合には輸液の速度を上げ,速すぎる場合には輸液の速度を落とすのが基本戦略です。十分量の晶質液を投与しているにもかかわらず血漿浸透圧が上昇する場合には,0.45%食塩水への変更を考慮します。

②インスリン療法(Fixed Rate Intravenous Insulin Infusion:FRIII):HHSでは晶質液を十分に投与することで血糖値が自然と低下するため,インスリン使用は焦らなくて大丈夫です。早期からインスリンを使用することに考えが傾き過ぎてしまうと,思わぬpitfallにハマります。つまり,急激な血清浸透圧変化が脳浮腫やODSなどの神経学的合併症を招いたり,インスリンにより水分と共にKが血管内から細胞内に押し込まれてそれぞれショックや低K血症を招いたりと,良いことがありません。そのためインスリンの開始は,初期輸液1000~1500 mL投与後かつ晶質液の持続投与にもかかわらず血糖値の低下が2時点(時間を空けた2回の測定)で滞る場合になります。DKAとは異なり,HHSではインスリンは相対的な不足程度にとどまるため,FRIIIはより低用量で十分です。具体的には0.05 U/kg/時で開始し,適切な体液バランスにもかかわらず血糖低下速度がイマイチな場合には1.0 U/時とすることで対応します。

③K補充:HHSやDKAでは,血清K濃度を4~5 mmol/Lに保つことが目標になります。Pitfallは測定値に惑わされる可能性です。DKAのように(もしくはHHSでも)アシドーシスがある場合には細胞内Kが細胞外にシフトして見かけ上はKが正常値~高値に見えることがあります。HHSではアシドーシスによるKの細胞内外シフトがない分,低K血症が強く出る傾向にはあります。そもそも全身状態が悪く摂取不足があったり,浸透圧利尿により尿からの排泄が増えていたりと低K血症になる条件は揃っていますから。そしてFRIIIを開始すれば血清K濃度はさらに下がっていきます。そのため,基本的には低K血症はあるものとして対応するのが吉です。高血糖緊急症の治療失敗の大半はK調整の失敗に起因するので,特に注意が必要です。

 血清K濃度に合わせてメインの晶質液に塩化カリウム(KCL)を混合注射してしまうのが良いでしょう。血清K濃度>5.5 mmol/Lでは混注不要,3.5~5.5 mmo/Lでは40 mmol/Lになるように混注,<3.5 mmol/Lの場合にはCVCからの高濃度KCL投与とFRIII中止を検討します。内服に耐えられる患者は少ないかもしれませんが,経鼻胃管を留置している場合にはKCL散などの内服をかぶせることでうまく調整できることもあります。

6時間以降:同じ対応を継続

 原則的に6時間までと同じ対応を継続することで治療を完遂できます。3つのチェックポイントは安定性に応じて1~2時間ごとの評価を継続します。3つのパラメータでは,①輸液は12時間時点までに最大6 Lのプラスバランスを目標に,②FRIIIに関してはひとたび糖毒性が取れてしまうと簡単に低血糖に触れてしまうので,血糖値<250 mg/dLとなった場合には5%ブドウ糖液または10%ブドウ糖液100~125 mL/時ほどを,晶質液投与やFRIIIと並行して投与しておきます。最終的にはFRIIIと持効型インスリン皮下注をかぶせてインスリン療法は完遂となります。③Kは上述の通りの管理を続けます。

 おおむね24時間程度の経過で治療のゴールは達成できることが多いですが,重症度や共存症などによっては血漿浸透圧の改善までに最大72時間ほど要することもあります。HHSの治療は慌てないことが重要です。

 なかなか難しい高血糖緊急症のマネジメントですが,機械的に行うことができれば初学者としては合格です。それでも結構難しい判断を迫られるんですけどね。次号はDKAのマネジメントです。お楽しみに!



1)Diabet Med.2015[PMID:25980647]
2)Diabetes Care.2009[PMID:19564476]
3)Diabet Med.2023[PMID:36370077]
4)N Engl J Med.2018[PMID:29485925]
5)CMAJ.2003[PMID:12668546]
6)Am Fam Physician.1999[PMID:10524491]

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