• HOME
  • 医学界新聞
  • 記事一覧
  • 2023年
  • ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ(19)片頭痛の治療にはstratified care! 重症度で治療薬を使い分ける(徳竹雅之)

医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

重症度で治療薬を使い分ける

連載 徳竹雅之

2023.12.04 週刊医学界新聞(レジデント号):第3544号より

 疼痛を即座に除去するテクニックは,ER診療において非常に重要です。患者さんが何のためにERを受診するかを考えてみましょう。苦痛をもたらす症状の原因を知りたいのはもちろんでしょうが,苦痛そのものを取り除いてほしいと願って受診しているはずです。疼痛はバイタルサインの1つとも考えられ,無視してはいけません。原因検索に注力するあまり,目の前の患者さんが感じている疼痛を無視しがちになっていませんか?

 今回は,ツライ頭痛を呈する疾患である片頭痛への対応を例に,疼痛の取り除き方を勉強しましょう。

 片頭痛の診断において最も重要な因子は,「日常生活に支障があるほど重度の頭痛」です。頭痛により仕事,学校生活,家事などができず寝込んでしまう様子を想像してください。たいてい嘔気を伴っています。これが片頭痛の臨床像で,反復することが特徴です。典型的には片側性/拍動性の頭痛があるとされますが,人によって疼痛の表現は異なりますし,ツライ時には何を言われてもよくわかりません。ここにこだわってしまうと,頭痛のためにぐったりしている患者さんに緊張型頭痛という誤診を下すことにもなりかねませんので,注意してください。片頭痛の30%ほどでは前兆と呼ばれるさまざまな神経症状を伴います。頻度が高い症状は,視界がチカチカする,ギザギザした光が見えるなどと表現される視覚症状ですが,失語や片麻痺などの脳卒中を疑わせる前兆を呈することもあります。前兆は,最低5分以上,最長で60分程度持続します。これらの徴候は,片頭痛診断の確度を上げてくれます。さらに,光過敏や音過敏,嗅覚過敏を伴うこともあります。正確な診断基準は国際頭痛分類第3版(ICHD-3)を参照してください1)

 とりあえずアセトアミノフェンやNSAIDsだけを投与して満足していませんか? 確かに効果はありますが,それだけでは不十分なことが多いです。救急外来にやって来る片頭痛の患者さんは,市販薬や処方薬を使っても効果がない強い頭痛を訴えることが多いと思います。以下で,急性期の片頭痛治療を確認しましょう。

◆治療の原則は,重症度に合わせた使い分け(stratified care)

 片頭痛の治療にはstratified careが重要です。Stratified careとは,重症度に応じて治療薬を使い分ける方法です。一方で,1つの薬剤が効かなかった場合に別の薬剤を追加する治療法はstep careと呼ばれます。頭痛のガイドラインではstratified careが推奨されています2)。頭痛の治療薬としては,非特異的な治療(アセトアミノフェンやNSAIDsなど)と特異的な治療(主にトリプタン製剤)に大別されますが,ERを受診するほど日常生活に支障を来している重症度であれば,最初から特異的な治療を行うことが推奨されます。非特異的な治療で粘ってしまうと疼痛が増悪し,薬物による除痛率は低下してしまいます3)

◆特異的な治療(主にトリプタン製剤)

 米国頭痛学会では,2000人以上を対象にした15件のRCTに基づき,ERにおける第一選択薬としてスマトリプタンの皮下注射を推奨しています4)。なるべく早い段階での投与が推奨されており,頭痛発症から1時間以内に使用するのが理想的です。Step careをしていると,時間がたつにつれ除痛効果が低下し疼痛が増悪する可能性がありますのでご用心を。トリプタン製剤は,経口,点鼻,皮下注射とさまざまな剤形が揃っている点も使いやすくて◎です。嘔吐している患者に対しては皮下注射を選択すると良いでしょう。ただし,心血管リスク因子を有する場合やコントロール不良の高血圧がある場合などには禁忌となりますので,注意してください。

◆非特異的治療

 アセトアミノフェンやNSAIDsでも除痛効果はもちろんあります。特にNSAIDsの中でも市販薬にも配合されるイブプロフェンは,通常用量の200 mgではなく倍量の400 mgを用いると除痛効果が高いことが示されています5)

◆過小評価されている!? メトクロプラミド

 実は米国頭痛学会が推奨している第一選択薬には,トリプタン製剤と並んでメトクロプラミドがあります4)。メトクロプラミドは,スマトリプタン皮下注射と比較して有効性が高いとするRCTが複数存在します6)。他の薬剤と併用されることが多いですが,単剤での治療でも非常に有効な治療法と考えられています。現場では単なる制吐剤としか認知されていない印象がありますが,必ず使用したほうが良い第一選択薬なので紹介しました。過小評価していませんでしたか?

 副作用として錐体外路症状(アカシジアなど)を引き起こすことがあります。メトクロプラミドを静注することで5~10%に起こるとされますが,メトクロプラミド10 mgを15分かけて点滴静注することで,有効性はそのままに,錐体外路症状の発現率を低下させることができます7)。もしもアカシジアを発症してしまった場合には,ジフェンヒドラミン25~50 mgを点滴静注することで対応しますが,予防的投与は発生率に寄与しないとされています8)

◆知っ得!? スパイス的な治療方法

 本稿では4つのスパイス的な治療を紹介します。知っておけば難治性頭痛の管理に使える武器が増えますよ。

①酸素投与:「頭痛に酸素投与なんてやったことないよ~」という声が聞こえますが,安全で効果的かつ安価であることから治療選択肢として研究されています。一次性頭痛に対して酸素投与と空気投与を行って除痛効果を判定したRCTでは,酸素投与を受けた患者群において15~60分時点で有意な除痛効果が認められました9)。作用機序には不明な部分が多いようですが,高流量酸素(15 L/分)は中流量酸素(8 L/分)に比較してER滞在時間が短縮されたという結果が出ています。簡単に投与できますので,一度試してみてはいかがでしょうか。

②マグネシウム:頭痛だけではなく,腰痛や尿管結石,術後疼痛などでも鎮痛効果があるとして研究されています。片頭痛に対するマグネシウム投与は,メトクロプラミドと比較して非劣性であるとするRCTがあります(マグネシウム2 g+5%ブドウ糖液50 mLを20分以上かけて投与)10)。対象となった患者の半数以上はすでに鎮痛薬を内服してから来院しており,難治性の頭痛に対するさらなる一手として有効なのではないかと期待しています。

③大後頭神経ブロック:薬剤を全身投与することの代替手段として,もしくは併用も可能です。一次性頭痛で受診した成人を対象にした9つの研究のメタ解析では,プラセボと比較し大後頭神経ブロックに2時間以内の除痛効果があることが示されました11)。ブロック方法が文献により異なるため,標準治療と神経ブロック単独の有効性を評価することはできませんでした。ブロック方法のうち,個人的におすすめなのは①大後頭隆起を探す(後頭部正中のポコッとしたところ),②そこから2 cm外側かつ2 cm尾側あたりで大後頭神経の出口を探る(ぐりぐり指圧すると痛いところ),③そこに26 Gなど細径の針を刺し後頭骨に当たったら数mm引き戻し,キシロカイン1%,2~3 mLを投与するという方法です。簡単に行えますし,患者さんの忍容性も比較的高めなので試してみる価値はありますよ。

④デキサメタゾン:これも過小評価されている薬剤であり,投与しているシーンをあまり見かけません。ERで投与してもすぐに疼痛を改善させることはありませんが,帰宅後の頭痛の再発頻度を低下させる効果があり,禁忌がない場合には重度の頭痛を訴える患者に対する投与が適切と考えています。ERから帰宅した患者の半数は48時間以内に機能障害を伴う重度の頭痛が再燃することが知られています12)。至適用量については未確定ですが,最近のRCTによれば,1週間時点での頭痛再燃予防効果について,デキサメタゾン4 mgは16 mgと比較して同等の効果があると示されました13)。大学入学共通テスト前に重度の片頭痛で受診した患者さんにデキサメタゾンを使用したことがありましたが,後日頭痛なく試験を突破できたという報告をもらい,自身の成功体験となっています。

 今回は,片頭痛への対応を例に,疼痛の取り除き方を一通り紹介しました。患者さんの苦痛を減らすためにも,しっかりと頭に入れておきましょう。



1)Cephalalgia. 2018[PMID:29368949]
2)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会(編).頭痛の診療ガイドライン2021.医学書院;2021.
 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/headache_medical_2021.pdf
3)JAMA. 2000[PMID:11086366]
4)Headache. 2016[PMID:27300483]
5)Acta Med Port. 2013[PMID:24192084]
6)J Res Med Sci. 2013[PMID:24379846]
7)Emerg Med J. 2012[PMID:21292793]
8)J Emerg Med. 2021[PMID:33131965]
9)Am J Emerg Med. 2023[PMID:37003031]
10)Am J Emerg Med. 2021[PMID:33041146]
11)Ann Emerg Med. 2022[PMID:34756448]
12)Ann Emerg Med. 2008[PMID:18387702]
13)Neurology. 2023[PMID:37604662]

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook