医学界新聞

排便トラブルの“なぜ!?”がわかる

連載 三原弘

2023.09.25 週刊医学界新聞(看護号):第3534号より

 便秘治療のみを目的に外来へ通われる患者さんももちろんいますが,どちらかと言えば「ついで」に下剤をもらっている患者さんのほうが多いです。その割には外来終了後,患者さんが外来看護師に,再度便秘について相談するのはなぜでしょうか。そこで今回は,外来での排便トラブルに関するポイントを整理しました。日々の外来業務の中で必要な排便トラブル対策をみつけてください。

①患者からの排便トラブルの訴えのほとんどを医師が拾い上げている
②便秘は死亡リスクと関連がある
③市販薬で名前に「ビオ〇〇」が付いている場合,刺激性下剤は含まれていない

 便秘患者さんは受診理由として腹部膨満感の解消に重きを置いている一方で,医師は排便回数の減少を診断の際に最も重視していると報告されています1)。また,排便困難感や残便感も困り事として患者さんが重視していることが明らかになっています。想像するに,真に困っている症状を医師が外来で聞き出しきれず,患者さんに不全感が残ることから,外来終了後に看護師に相談する場合が発生するのでしょう(○×クイズ①)。今挙げたように便秘症状はQOLに多大な影響を与え,死亡リスクにも影響し(○×クイズ②2),心筋梗塞やくも膜下出血のリスクにもなることが知られています。さらにはうつ病や不安症との関係も指摘されているほどです3)

 では,こうした相談を受けた時にどうすれば良いか。できる範囲でのトリアージや生活指導(連載第5,6回で詳述予定)を行っていただくことです。連載第2回で扱った緊急性のある疾患が疑われれば速やかに医師に相談してください。

 また,相談を未然に防ぐという点で,「主な」疾患や症状の対応を行う外来医にとって「ついで」の便秘対応にも注力してもらえるような環境を整えることも重要です。例えば,外来医の状態を把握するチェック項目として「HALT」が提案されています。これは,Hungry(食事を摂取したか),Angry(怒っていないか),Late(遅刻や次の予定を気にしていないか),Tired(疲労が溜まっていないか)の頭文字を取った確認項目とされ,この状態に一つでも該当する時は,HALT(止まること)が必要とされています4)。ただし,数多くの患者さんが訪れる外来を止めることは難しいので,甘いチョコを外来医に食べてもらって気分転換の一瞬をつくり出すといった工夫も良いかもしれません(後でチョコ代を医師に請求しましょう)。あるいは,医師として興味のある排便回数だけでなく,今目の前にいる便秘患者さんが訴えようとしている腹部膨満感や排便困難感,残便感に意識が向くように,外来が始まる前に一緒に深呼吸してあげると良いと思います(STOPの演習,詳細は文献5参照)。熱いお茶を飲んで一服してもらうことも効果があるでしょう(個人的な経験則ですが……)。

 少し話は変わりますが,何らかの基礎疾患があり,それに付随して便秘症状が現れる場合があります。例を挙げると,糖尿病,甲状腺機能低下症,パーキンソン病,多系統萎縮症などの自律神経障害を来す疾患, 甲状腺機能低下症,全身性強皮症などの平滑筋運動に障害を生じる疾患, 脳血管障害後遺症などの身体の運動性や筋力低下を来す疾患,慢性腎不全です。便秘症状が先に出現する場合もあります。例えば便秘患者さんが,手の震えや歩行困難感を訴えていたら,パーキンソン病の可能性を外来主治医と検討してみてください。「看護師がそんなことまで……」と思われるかもしれませんが,医師も専門外のことは明るくない場合もあるので,明らかな異常を見つけた場合は躊躇せず相談していただければと思います。

 外来患者さんの排便トラブルとして便秘の次に多いのが下痢です。その中でも頻度の高い過敏性腸症候群と,その他に分けて紹介します。過敏性腸症候群に対する食事指導は第5回,食事以外の指導は第6回で扱いますので,今回はに示した内服薬のみを考えます。

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 主な止痢薬の特徴

◆原因が過敏性腸症候群の場合

 下痢型過敏性腸症候群の腹痛,下痢,排便回数,便意切迫にはラモセトロン(イリボー®)が効果的で,男性だけでなく女性にも使用できます。高分子重合体であるポリカルボフィルカルシウム(コロネル®,ポリフル®)では,便意や便通異常の改善が報告されています。下痢型,便秘型のいずれの過敏性腸症候群にも効果的なトリメブチンマレイン酸塩は,過敏性腸症候群の症状改善薬として初めてOTC薬が別製剤(セレキノン®S)として販売されています。こうしたOTC薬の内服によって症状が落ち着きやすい過敏性腸症候群の患者さんであれば,生活指導と組み合わせる形で外来受診が不要になるケースもあるはずです。

◆原因が過敏性腸症候群以外の場合

 まずは急性下痢か,1か月以上続く慢性下痢かで大きく分けます6)

 急性下痢は感染性で自然軽快するものと,重篤なものが混在していることから,整腸薬からロペラミド(ロペミン®)へ慎重にステップアップさせていく場合が多いです。ただし化学療法に伴う下痢(連載第10回で詳述予定)は抗がん薬を中止したり,入院を考慮したり,最初からロペラミドを使用したりするケースがありますので,速やかに主治医へ連絡をお願いします。

 一方の慢性下痢は,薬剤性,食物起因性,全身疾患性,感染症,器質性(慢性膵炎,炎症性腸疾患など炎症性や腫瘍性),胆汁酸性,機能性,下痢型過敏性腸症候群など原因は多彩で,それぞれに合わせた薬剤選択がなされます。最も用いられる整腸薬には,善玉菌であるビフィズス菌と酪酸菌が利用され,クロストリディオイデス・ディフィシル関連下痢症や抗菌薬起因性下痢症の予防,炎症性腸疾患の寛解維持,感染性下痢症の改善,肝性脳症の改善に有用です。しかしながら,2日以上続く原因が特定できない下痢(非特異的下痢)に対して整腸薬は効果なしとされており7),何となく開始された整腸薬で効果が実感できず残薬が増えたのを発見したら,薬剤を見直すタイミングかもしれません。注意したいのは,「ビオ〇〇」という名称で整腸薬を想起させる市販薬の中に刺激性下剤が含まれる場合があることです(○×クイズ③)。成分をよく確認するようにしましょう。

 整腸薬で効果不十分な場合は,タンニン酸アルブミン(タンナルビン)が下痢の原因を特定するまでの「時間稼ぎ薬」として使用される場合があるものの,出血性大腸炎,牛乳アレルギーの患者さんには禁忌ですので注意をしてください。止痢効果の強いロペラミドは,モルヒネと同じ受容体に作用して下痢を止めます。下痢型過敏性腸症候群,化学療法中の下痢に使用されます。感染性腸炎の場合は,眠気・めまいの副作用があるため,旅行中以外での使用は避けられます。他に,慢性膵炎に伴う慢性下痢にはパンクレリパーゼ製剤(リパクレオン®)が使用できます。


1)三輪洋人,他.日本人における慢性便秘症の症状および治療満足度に対する医師/患者間の認識の相違.Ther Res. 2017;38(11):1101-10.
2)Atherosclerosis. 2016[PMID:26812003]
3)Psychiatry J. 2016[PMID:27034921]
4)綿貫聡,他.ケースでわかる診断エラー学――診断エラーの予防:認知バイアス①.2019.医学界新聞3314号.
5)恒藤暁,他.マインドフルネスにある深い気づきと臨床的調和を育む.医教育.2022.53(4):353-60.
6)三原弘.各論 止痢薬.木村琢磨(編).シリーズGノート まずはこれだけ! 内科外来で必要な薬剤.羊土社;2023.pp174-81. 
7)Cochrane Database Syst Rev. 2020[PMID:33295643]

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