医学界新聞

書評

2023.09.18 週刊医学界新聞(通常号):第3533号より

《評者》 千葉大大学院国際学術研究院准教授/千葉大大学院整形外科学

 一読した感想は,「今すぐ買うべし!」である。本書は,待望の足部・足関節骨折の手術治療に特化したテキストである。これから骨折治療を学ぶ後期研修医から指導医,足の外科の診療,研究に携わるエキスパートなど,経験によらずあらゆる整形外科医,外傷医にとって必携の書と断言できる。

 足部・足関節骨折の手術は専門性が高く,治療法を学ぶ上でいくつかの問題がある。まず,足部・足関節は多くの関節から成る複合体である。例えば,足関節骨折とリスフラン関節骨折ではまったく異なる評価,治療戦略が必要である。しかし,ベテランの医師であっても全ての部位の骨折治療を経験することは容易ではない。経験がない骨折では,アプローチすらわからないことも少なくない。加えて,足部・足関節骨折の手術は決して簡単ではない。足関節果部骨折は,骨折手術の入門編として後期研修医が執刀することも多い。しかし,十分な整復が得られず短期間で変形性関節症に至る症例も少なからず存在する。

 本書を手元に置いておくことで,われわれが臨床で抱えるこれらの問題は解決される。本書は,脛骨遠位部から趾骨骨折まで,比較的まれな骨折を含めて全範囲の骨折を網羅している。どのような骨折に遭遇したときも,必ず治療のヒントになる情報を提供してくれる。また,膨大な症例とイラスト,X線画像,手術写真を用いて術前計画から手術手技,術後管理まで一貫した形式で論じている。必要なときに素早く情報にアクセスすることができ,かつ理論と実践のギャップを埋める実用的なガイドとして非常に有用である。さらに本書は,現時点での治療のスタンダード,すなわち最良の治療を網羅している。例えば,踵骨骨折では拡大L字切開から足根洞アプローチ,経皮手術まで多様な術式を網羅しているため,足部・足関節を専門に治療する評者にとっても多くの学びがある。

 術中に陥りやすいピットフォールとその回避方法,代替テクニックを詳細に解説しているのも,本書の特徴である。例えば,見落としがちな骨折面に嵌入した小骨片の対処法,整復困難例での次の一手などを具体的,明快に提示している。術後レントゲン写真を見て,「こうすれば良かった……」と後悔し,眠れぬ夜を過ごすことは誰しも経験することである。本書を熟読することにより,偉大な先人の経験を自分のものとして手術に臨むことができる。

 本書は,足部・足関節骨折管理の技術をまったく新しいレベルに引き上げてくれる。患者を助けるとともに,日々の治療に悩む医師の安眠を助ける名著である。評者も,整形外科医としてのキャリアの中で,今後も何十,何百回と本書を開くであろう。


《評者》 国立大学法人東海国立大学機構機構長

 現代日本においては少子高齢化がますます進み,2021年の段階で65歳以上人口が28.9%という超々高齢社会(評者の造語。ちなみに7%以上は高齢化社会,14%以上は高齢社会,21%以上は超高齢社会と定義されている)になっており,今後も一層高齢化が進むと予測されている。寿命の延長は世界的に進んでおり,人生百年時代の提唱者で,『ライフシフト――100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社,2016年)の著者リンダ・グラットンさんらによると,若い世代ほど寿命は長く,2007年に日本で生まれた子供の半分は107歳まで生き,先進国では軒並み100歳を超えると予測されている。つまり,現代では人の寿命は100年が当たり前の時代になっている。

 私たちが100年間,生命を保つだけでなく,人として社会とかかわりながら生きてゆくためにはあらゆる臓器がお互いに連関しながら,しっかりとその機能を保つことが重要であり,言うまでもなく,腎臓はその要となる臓器の一つである。また,腎臓は万一その機能を失ったときでもそれを代替する治療法が発達し,日常生活を継続できる数少ない臓器でもある。このような進歩は,極めて多くの研究者による病態の解明とそれに基づく治療への応用という気の遠くなるような努力の積み重ねがあってのことである。このような努力は今も日々続けられており,それらの新たな知見は順次,実臨床の場で応用されている。

 本書はタイトルにあるとおり,腎臓専門医のために書かれたテキストブックであるとともに,実践に役立つ書となるよう編さんされている。これまで2002年に初版,2009年に第2版が発行されており,多くの腎臓専門医に活用されてきた定番の書でもある。しかし第2版発行から14年が経過し,この間,サイエンスの進歩は目覚ましく,腎臓病の研究は大きく進展し,臨床もその恩恵を受けている。このような中で待望されていた第3版は,これまでの長所は残しながらも,最先端の知見を豊富に加えて,充実した内容となっている。実践書の側面も有する本書では,最初に症候論があり,それに続いて疾患概念,そして疾患の各論があるというわかりやすい三部構成が継承されている。専門医向けには病態生理から診断,治療に至るまで,最新の研究成果や知見が簡潔に整理され,今後の課題も記されている。腎臓専門医やphysician scientistをめざす若手医師にとっても大いに刺激になる書であることは間違いがない。実際に各項はそれぞれ,日本腎臓学会を代表する専門医によって執筆されており,まさに,これ一冊で腎臓病研究に裏打ちされた腎臓病診療が一目瞭然にわかる書となっている。一人でも多くの関係者に,ぜひ活用していただきたい書である。


《評者》 神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部長

 医療の高度化・専門分化とセーフティマネジメントの観点から,薬剤師が輸液・栄養療法にかかわる必要性はますます高まっている。さらに,地域完結型医療の実現に向けて,「2次医療圏での基幹病院は高度専門・急性期医療を担い,地域の暮らしを支える中小病院は市区町村単位での医療・介護サービスを連携していく」役割分担が進んでいる。入院医療の「前」と「後」を支え,地域と病院との薬物療法を間断なくつないでいくために,薬剤師は患者の生活を考慮した服薬管理,さらには自立支援にもかかわることが大切である。地域の保険薬局では在宅医療の充実に向けて,在宅患者の輸液・栄養療法へ参加する機会が増えていくと見込まれる。在宅医療の中心となる薬物療法,栄養療法は薬剤師の出番である。

 本マニュアルのコンセプトは,「輸液・栄養療法の最前線で活躍する薬剤師が臨床業務で幾度も疑問や問題点にぶつかり,そのたびに薬学的視点で解決してきたノウハウを共有すること」であり,その記載内容はプラクティカルに徹している。目次は大きく,「Ⅰ 栄養療法の基礎知識」と「Ⅱ 症状別・疾患別の栄養介入のポイント」の2部構成となっている。

 前半の約1/3を占める「Ⅰ 栄養療法の基礎知識」では,栄養アセスメント,栄養投与経路の選択,栄養素の投与量の算出方法など,静脈・経腸栄養を安全に行うために必要な情報が図表を用いてわかりやすく的確にまとめられている。また,輸液・栄養療法においては,医薬品のみならず医療材料の的確な選択と適正な使用が不可欠なものとなっており,在宅栄養の項目に薬剤投与に用いる医療材料の特徴や適正使用のポイントなどの情報がまとめられているのはうれしい。

 そして本書の各論である「Ⅱ 症状別・疾患別の栄養介入のポイント」では,「下痢」「糖尿病」「悪性腫瘍」など22の症状や疾患を取り上げている。各病態の理解を深めた上で,製剤学的特性を考慮した「静脈・経腸栄養療法のアプローチ」をするための最適な手引きとなっており,読者は処方設計支援などの栄養療法プランニングや有害事象のモニタリングを実践することができる。

 本マニュアルを病院薬剤師や保険薬局薬剤師が傍らに置いて活用することで,病院の栄養サポートチーム(NST)から保険薬局への連携が深まり,その結果,オール薬剤師としてこの領域でさらに大きな力を発揮していくことを期待したい。


《評者》 大阪赤十字病院院長

 題中の「坂の上」とは一体どういう意味なのか? この本を手にした時に,本田五郎先生が愛読していた司馬遼太郎の著書の一つ『坂の上の雲』を想った。秋山好古・真之が明治維新に陸軍騎兵部隊の創設や理論的な海戦術を考案したように,豊富なラパロ消化管手術の経験の基にラパロ肝・胆・膵手術に取り組み,その標準手技を確立した自らの体験を重ねたのだろうと推測したからである。この本の序文を読むと,私の推測は間違っていたようである。「坂の上」とは,本田先生がこれまで,そして今勤務している病院(都立駒込,新東京,東京女子医大)が坂の上にあるからだという。しかし,これまで本田先生の臨床医としての経歴を見てきた一人として,彼の医学・医療への取り組みは,秋山兄弟同様に,現場での鋭い観察力と理論的考察力,そして篤い持続力という共通点を感じざるを得ない。

 鋭い現場での観察力の一端は胆嚢摘出術における“SS-I層での剝離”の解説に見ることができる。最も安全な剝離層はどこにあるのか,その層は剝離中にどのように認識できるのか,病理組織ではどこに相当するのか,など深い観察力による既存の用語への疑問と挑戦,そして理論的な新たな概念の提唱は,まさに“ホンダイズム”である。CVSへの疑義など圧巻である。“Knack”“Pitfall”“Discussion”を通してホンダイズムの醍醐味を味わっていただきたい。

 共著者の大目祐介先生という秀逸の弟子を得たことも,標準手技の確立と本書の上梓に至った要因であろう。ホンダイズムを視覚化・言語化する作業は,日々の大目先生への指導と彼の成長を通して蓄積されたものと思われる。

 77本の手術動画とともに,その動画から抽出された明瞭な1600点を超える術中写真と,安全・確実を旨とした手技の説明は,外科修練医の教科書として比類なき教材であり,指導者にも今一度振り返りのために読んでいただきたい一冊である。

 願わくは,手術動画に音声解説があれば,さらに理解を深めることができるであろう。次回の改訂に期待したい。


《評者》 医療法人社団済安堂井上眼科病院名誉院長

 臨床神経眼科は神経科学と眼科学が統合された独立分野で,その萌芽は20世紀初頭の米国にあった。1947年Frank B Walsh(1895~1978)の「Clinical Neuro-ophthalmology」が上梓されるに及び,神経眼科学は広く認知された。やがてこの国は,W.F. Hoyt(1926~2019),J. Lawton Smith(1929~2011)らその道の泰斗を輩出し,神経眼科学は黄金時代を迎えた。

 この時代にマイアミ大に留学した日本人医師がいた。藤野ただし(1922~2005),本書の初版版の著者である。長崎大助教授を辞して,この新領域を学びに渡米したのである。そこでは臨床だけでなく,視交叉血管の研究にも打ち込んだ。そして,この新領域の臨床医学をひっさげて67年に帰国すると,東京,東京医科歯科,慶應義塾,北里,大分医科などの大学や都立病院で神経眼科臨床を実践し,85年には今も続く夏の勉強会を立ち上げた。日本の弱点とされる臨床実践教育のため,彼はいずれの常勤職にもならずに全国を奔走した。

 その集大成『神経眼科―臨床のために』(医学書院)は1991年10月に誕生した。当時,眼科,神経内科,脳外科の医師たちは神経眼科という名称は側聞していても,どこか近寄り難い,難しい分野だと遠ざけがちだった。ただ,実臨床をしていると,この領域にかかわる症例にいやでも遭遇するから学習しやすいテキストブックを誰もが渇望していた。

 藤野の教科書は,他の神経科学の教科書で多用される画像診断,電気生理学的診断の図は一つもなく,代わりに著者自らが描いた解剖図,イラストがふんだんに使われた。また,近代装備を使わなくても十分高度な診療が可能だと「ポケットに入る神経眼科用検査用具」が紹介され,一部は付録としてつけられた。各項の記述は簡潔で,かつ引用文献は読者の学びやすさを考えた代表的和文論文が中心だった。時代的欲求と親しみやすさから,この出版は大反響を呼び5刷もの増刷を重ねた。2001年には第2版が出版され,これも6刷の爆発的売れ行きだったが,この間に藤野氏は惜しくも逝去された。

 東京医科歯科大で藤野から実践教育を受けた江本博文,清澤源弘の2人の神経眼科医が,遺志を継いで第3版を執筆,2011年に出版。それから10年余,新知識は積み重なる。そして今回2023年4月,待望の第4版が完成。初版からみてページ数は倍加しているものの,初学者もベテラン医師もひもときたくなる簡明さは確実に受け継がれている。

 第3版までは記述がないか少なかったCRION, visual snow症候群,脳脊髄液減少症,抗NMDA受容体脳炎,CLIPPERS症候群などにも,しっかり新知識が盛り込まれ,欧文索引もついた。最近日本神経眼科学会から新診療ガイドラインが出た「眼瞼痙攣」についてもページ数を割いて詳述された。

 総じて完成度の高い,かつ非常に親しみやすい教科書となっており,たちまち増刷の声が聞かれそうである。

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