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医学界新聞

めざせ「ソーシャルナース」! 社会的入院を看護する

連載 石上雄一郎

2023.05.29 週刊医学界新聞(看護号):第3519号より

軽度認知症がある80歳男性。自宅で転倒し救急外来を受診した。尻もちをついた後から背部痛がある。背部痛は我慢できる痛みであり,X線検査では明らかな骨折はなかった。家族は「骨折がなくても,家にこのままいることが心配だから入院させてほしい」と述べている。整形外科医からは「手術の適応はないので入院はできない」と言われ,今後どうすればいいか困っていた。

 このような板挟みになるケースを経験した看護師は多いのではないか。主訴が吐血で消化管出血の治療目的での来院であれば,対応はシンプルで何も困っていないだろう。しかし,一見医学的には問題がなさそうなケースに向き合うと,途端にどう手をつければ良いかわからなくなりがちである。そして,「患者家族が医療機関にもっと早く来ればよいのに」とため息をつく場面によく遭遇する。このような時に看護師に社会福祉の知識があり,患者を適切に福祉サービスへつなげられると現場の医療にやりがいが生まれる,と筆者は感じている。

 本連載では,社会福祉士の資格を持つ緩和ケア医である筆者が,医療と社会福祉をつなげるポイントを解説する。初回は社会福祉士の定義や社会的入院の概要をみていこう。

 社会福祉士(ソーシャルワーカー)と聞いてピンとくるだろうか? 筆者が救急医をしていた時は,他の職種との違いがよくわかっていなかった。社会福祉士及び介護福祉士法によると,社会福祉士とは「専門的知識及び技術をもって,身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ,助言,指導,福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者との連絡及び調整その他の援助を行うことを業とする者」を指す。一言でいうと,「日常生活で困っている人の相談援助者」である。

 とはいえ,社会福祉系の職種はさまざまであり,現場ではよくわからないのが実情であろう。現場でよく対面する職種をにまとめた。病院にいる社会福祉士の業務について,医療ソーシャルワーカー業務指針では,①療養中の心理的・社会的問題の解決,調整援助,②退院援助,③社会復帰援助,④受診・受療援助,⑤経済的問題の解決,調整援助,⑥地域活動の6つが示されている1)。つまり,日常生活で困っている本人と社会資源や制度をつなげることで,生活の回復や社会復帰を促す専門職である。社会的入院をすべきと思われる患者も,日常生活に困っているという点で,社会福祉士が早期からかかわったほうが良いだろう。

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 社会福祉系の職種

 では,社会的入院とは何か。確立した定義はなく,「治療の必要がない不適切な入退院」ととらえられていることが多い。印南は社会的入院を5つの類型に分けている2)

社会的新規入院:入院診療の必要性が低い新規入院

社会的入院継続:入院診療の必要性が低い入院継続

不適切転院:本来退院すべきでない先に退院する

未完退院:入院継続の必要性があるのに社会的理由により退院

社会的再入院:不適切転院/未完退院後に再入院

 社会的入院を考える際に社会福祉士の存在意義は大きい。しかし,社会福祉士は1つの医療機関に数多く在籍していないのが実情である。患者の性格や周囲との人間関係,経済状況,仕事などさまざまな理由で平日日中に病院や役所へ来られない人には,夜間など時間外の救急外来で医師や看護師が対応することになる。また,社会的入院をしている患者は社会資源の調整が必要な状態であることが多いものの,「医学的にできることは終わったので,後はよろしくお願いします」と社会福祉士だけに対応をお願いすると退院支援はうまく進まない。退院支援の際には,患者の医学的状況も考慮する必要があるからだ。

 したがって,患者を社会福祉に適切につなげられる看護師,すなわちソーシャルナース()が必要なのだ。治療だけでなく患者の生活面も考えられる医療者が増えることで,入院期間の短縮や社会的入院を減らすことができるかもしれない。医療と社会福祉を適切につなげられる医療者の存在はとても重要である。

 そして,医療と社会福祉をつなげるには,患者を総合的にとらえる視点が求められる。なぜなら,社会的入院という言葉の裏には複雑な医学的問題が存在し,支援の際には多面的な社会資源調整が必要となるためだ。社会的入院といえど,社会的問題だけを理由に入院している例はほとんどない。冒頭のケースで言えば,現時点で手術の適応はないとされたものの,後々になって何かの疾患が判明する可能性は十分ありえる。

 社会的入院に対応する際は「患者の根底には社会的に満たされないニーズがある」と考え,「社会的入院」という語を使用しないことを勧めたい。「社会的入院」という言葉には,不必要な,何もすることはないというイメージが含まれているからだ。社会的入院というラベルをすることで,何もすることはないというマインドセットになったり,患者をケアしようという気持ちの妨げになったりする可能性がある3)。関係者間でのコミュニケーションの際には使用を避けたほうが良い。

 では,実際のコミュニケーション時には具体的にどうすれば良いか。例えば,冒頭のケースにおける看護師同士の引き継ぎを考えてみよう。ポイントは,ネガティブにとらえられないように話す技法であるポジティブフレーミングを意識することだ。加えて,引き継ぎ時に社会的支援のアセスメント・プランがあることでコミュニケーションも円滑になる。

◆ネガティブな例

①申し訳ないのですが……どうしても家族さんが入院させてほしいと言っていて。

②特にやることはなくて,寝かせているだけなのですが……。

◆ポジティブな例

①はっきりした骨折はないようですが,後から骨折がわかるケースもあるようです。痛みにより動くことができず,在宅での療養は困難な状況です。症状緩和とリハビリテーションが必要であり入院する方針となりました。

②今回の外傷に加えて、自宅でのサポート体制がないこともあり,退院支援も含めた社会資源調整が必要な状態です。

 整形外科医は手術の適応がないため入院は不要と判断したが,患者は最終的に総合内科に入院し症状緩和に努める方針となった。手術の必要はないものの,生活ができない高齢者の外傷は入院となることもある。急性期病院でなくても入院を認めてくれる施設もある。地域のリソースとして,誰が患者を診(看)るのかは関係者間であらかじめすり合わせをしておくと良いだろう。

・治療だけでなく,患者の生活面を考慮した対応が求められる。

・社会的入院に対応する際は,患者の「社会的に満たされないニーズ」に着目しよう。

・ポジティブフレーミングを意識したコミュニケーションを図る。


:本連載に当たり筆者が考えた造語。本連載では,患者を社会福祉に適切につなげられる看護師をソーシャルナースと定義する。

1)厚労省.医療ソーシャルワーカー業務指針.2002.
2)印南一路.社会的入院の研究.東洋経済新報社;2009.
3)J R Soc Med. 2008[PMID:18387906]

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飯塚病院連携医療・緩和ケア科

2012年滋賀医大を卒業後,杉田玄白記念公立小浜病院で初期研修。14年東京ベイ・浦安市川医療センター救急科後期研修プログラム,同院救急科を経て19年より現職。日本救急医学会救急科専門医,日本老年医学会老年科専門医,社会福祉士,公認心理師。救急と緩和ケアの統合をめざす。

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