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  • めざせ「ソーシャルナース」! 社会的入院を看護する(2)社会的入院の裏に隠れる課題・疾患を見つけよう(石上雄一郎)

医学界新聞

めざせ「ソーシャルナース」! 社会的入院を看護する

連載 石上雄一郎

2023.06.26 週刊医学界新聞(看護号):第3523号より

通院歴がない80歳男性。元々ADLは自立。数か月前から徐々に体力は低下し,全身のだるさを自覚していた。数か月ぶりに息子が本人と会うと痩せて動けない状況であり,救急要請された。採血上では明らかな臓器障害を疑う所見はなかった。診察上は認知機能低下を疑う所見があった。息子は遠方に住んでおり,「このまま家に帰って何かあっても困るから入院させてほしい」と話す。「医学的には治療できるものはないが,帰宅させるのは心配なのでひとまず入院させて様子を見る」と入院担当医は判断し,経過観察の方針となった。

 今回のケースは認知機能低下を疑う所見があるものの,入院担当医が「治療できるものはない」と判断しており,一見すると考慮すべき医学的課題がないように思える。しかし,詳細なアセスメントをしていくと,治療・ケアすべき新たな課題が見えてくることがある。第2回では,初回で少し言及した社会的入院の裏に隠れる課題や疾患の可能性について解説する。

 社会的入院をする患者に対応する際は,その原因を考えることが重要である。社会的入院は以下の5つの因子が複雑に絡み合った上で生じると言われているからだ(1)

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 患者を取り巻く構造(文献1より改変して転載)

①患者:老年症候群やフレイルであることが多い。対応が不十分な痛み,認知機能低下,BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia),ポリファーマシーなどが入院の原因となることがある。

②家族・友人:介護者にはフォーマルとインフォーマルの2種類がいる。フォーマルな介護者とは,介護施設で働く,専門的な訓練を受けた,給料が支払われている介護職員を指す。一方,患者の家族・友人は患者本人との長期的な関係によってボランティアで介護を行っており,訓練を受けていない点でインフォーマルな介護者と言われている。介護の負担は大きく,介護者自身の健康にも影響を及ぼし,場合によっては仕事を休職・退職しなければならないこともある。介護と仕事の両立を支援する組織はまだ少なく,支援体制は十分とは言えない。

③ピアサポート:認知症やがんなどの重い病気にかかったことで社会的な場への参加が気まずくなり,仲間との付き合いがなくなる場合もある。そうしたケースでは,活動量が徐々に低下して最終的に動けない状態となって発見されることがある。一方,社会的な集まりに参加し互助がなされている場合や宗教上の横のつながりなどにより,独居でもサポートを得ているケースもある。

④介護施設:在宅医療,レスパイトケアなど正式なサポートは存在するものの障壁は多い。入居型施設の場合は入居するまでの待ち時間が長い。通常提供される介護レベルを超えた医療処置が発生すると,施設では十分に見てもらえない場合がある。また,終末期に近づくと看取りができないことや対応が困難であることを理由に介護施設を退所となり,帰る場所がなくなる利用者も多い。

⑤社会政策的要因:残念ながら利用できる社会福祉がなく,制度の間に落ちてしまう患者が存在する。他方,日本の社会福祉の歴史をみても社会的入院が発生しやすいと言われている。

 このように社会的入院には複数の原因が存在する。そのため社会的入院をが検討される患者への対応時はまずこれらを意識することから始めよう。前回でも触れたように,単一の因子にアプローチするのでなく患者を総合的にとらえる視点を持つことが重要となる。

 社会的入院の原因に着目した次のステップとして,退院支援時の留意点をみていこう。「入院で経過をみる選択肢」が執られた時点で,退院支援の方針を関係職種で共有しておくことが重要である。スタッフの対応が一貫していないと,入院が長期化してしまう可能性があるからだ。在宅での療養を希望する患者に対して支援を行った際に算定できる「入退院支援加算2」では,原則として入院後7日以内に退院困難な要因()を有する患者の抽出が求められている。冒頭のケースでは表のカ・クの退院困難因子がみられるため,以下の詳細なアセスメントを行い,早期からの退院支援を検討しよう。

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 入退院支援加算1および2の算定用件とされる退院困難な要因

◆介護面

●介護保険申請しているか?
●ADL低下により,新たなサービス導入が必要か?
●退院後に医療処置が継続的に必要か?
●頻回に入退院しているか?
●入院しても長期的な低栄養が予想されるか?

◆社会福祉面

●生活困窮者か?
●同居者から虐待やネグレクトを受けていないか?
●家族にヤングケアラーはいないか?
●患者が家族に対する介護を行っているか?

 社会的入院を行う患者を詳細にアセスメントしていくと,新たな課題が見つかるケースに遭遇するだろう。高齢者は主訴が乏しく,症状も非特異的である。「動けない」「転倒しているところを発見された」「不穏」「全身がだるい」「食事が取れない」「脱力感」「気分不良」など,わかりにくい症状を訴える(不定愁訴と呼ぶ医療者もいる)ことが多い。スイスの研究で「家で過ごせない」と特定の愁訴を持たずに入院した253人の高齢者のうち,129人(51%)が急性期医療の対象者であった2)。スウェーデンの研究でも,「地域支援が足りていない」と判断された380人のフレイル高齢患者の85%に身体疾患が確認され,1年以内の死亡率は34%であった3)。非特異的症状は軽い症状としてトリアージされやすく,入院期間が長く,死亡率も高い4)

 このようにわかりにくい症状を訴える高齢者は,トリアージの際に緊急性が低く見積もられることがある。社会的入院も例外ではなく,患者が医学的課題を抱えている可能性がある。対応する看護師はこの点を考慮して,ケアに当たるべきであろう。

 入院後,アセスメントを詳細に行うと,以前から腹痛・背部痛が時々あったことがわかった。体重減少も認めたため,CT検査を施行したところ膵がんStageⅣの診断がついた。がんの進行により食欲がない状況であったことがわかった。救急外来で診断がつかず社会的入院とのラベルが貼られている患者に対応する際は,診断がついてない内科疾患が隠れている可能性を常に考えるべきである。

・社会的入院は患者,家族・友人,ピアサポート,介護施設,社会政策的要因の5つの多面的問題が組み合わさって生じる。

・患者が退院困難因子を有する場合は,早期からの支援を検討する。

・社会的入院とのラベルが貼られた患者に,内科疾患が隠れている可能性を常に考える。


1)BMC Geriatr. 2014[PMID:25129548]
2)Swiss Med Wkly. 2005[PMID:15832233]
3)Aging (Milano). 1999[PMID:10337444]
4)Acute Med. 2019[PMID:31912054]

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