レジデントのための心不全マネジメント
[第11回] 心不全緩和ケアを考える
連載 河野隆志
2023.05.15 週刊医学界新聞(レジデント号):第3517号より
“緩和ケア”という言葉に,どのようなイメージを皆さんはお持ちですか? がんを対象として発展してきたので,“心不全の緩和ケア”と聞いてもピンとこない方がまだいるかもしれません。実は,緩和ケアは心不全診療ガイドラインでclass Iとして推奨され1),一定の条件を満たす末期心不全では診療加算の算定が可能です。心不全マネジメントにおける緩和ケアは,通常診療からの撤退でもなければ,看取るためだけのものでもありません。緩和ケアは,患者さんの苦痛を和らげQOLの改善をめざす前向きなアプローチであり,心不全の通常診療・ケアと統合しながら提供されるべきものとされています。多岐にわたる心不全マネジメントを紹介してきた本連載ですが,最終回は緩和ケアを取り上げます。
いつ,誰が行う?
現場でしばしば遭遇するのが緩和ケアのタイミングに関する問題です。「緩和ケアチームに依頼しては?」「まだ緩和ケアを導入するタイミングではない」と議論になります。心不全は,長期にわたって入退院を繰り返しながら最期は比較的急速に増悪することが多く2),終末期の判断が難しいことが,この議論の根底にあります。一方で,心不全患者の身体的・精神的な苦痛症状,社会的問題,スピリチュアルな側面の問題は,終末期に限定して生じるわけではありません。そのため積極的な心不全治療と同時に緩和ケアを提供し,病状の進行に伴って緩和ケアの比重を増やしていくマインドスイッチが必要です(図1)3)。

ところで,心不全緩和ケアは誰が実践するのでしょう。実は,緩和ケアを専門としない医療者の役割がとても重要で,このかかわり方は基本的緩和ケアと呼ばれています。他方,非専門家には難しい症状管理や意思決定支援の問題など,複雑な問題に対処する必要がある段階では,緩和ケア専門家に主導していただく専門的緩和ケアが必要になります4)。ここでは,基本的緩和ケアの重要な構成要素であるアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)と基本的な症状緩和の方法を紹介します5)。
双方向性のコミュニケーションをバランス良く行う
ACPは“患者が自分で意思決定ができなくなった場合の将来的な医療について,医療・ケアチームと患者,家族または代理意思決定者間で継続的に話し合う,患者およびケア提供者との間で行われる自発的なプロセス”とされています6)。より良いエンドオブライフに関する意思決定を支援し,患者さんの意向が尊重されたケアの実践を促します。重要なことは,医療者からの情報提供と患者さんの希望・価値観の表出がバランス良く行われ,双方向性のコミュニケーションとなることです(図2)7)。心不全の予後推定が難しいことも伝えながら,患者さんが情報をどう知りたいかも確認した上で対話を進めます。患者さんの価値観や目標を共有し,急変時の蘇生処置や機械的サポートに対する希望,今後の療養先について話し合います。「人工呼吸器を使用するか?」「DNARをどうするか?」「どこで最期を過ごしたいか?」の結論を出すことに注力してしまい,患者さんの病状把握や価値観に対してわれわれの理解がおざなりになってしまわないように注意が必要です。こうしたコミュニケーションを通じたACPは多職種チームで行い,必要に応じて事...
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